特別検査の結果開示で、小泉政権が開けるパンドラの箱
〜3月危機へ向け株価下落へ〜
武者 陵司 むしゃ りょうじ=ドイツ証券チーフストラテジスト
小泉首相は柳沢金融担当大臣に、「銀行の体力や自己資本を気にせずに特別検査を進め、銀行経営に大きな影響を与える大口債務者を厳格に査定するように」と指示した。さらに、検査結果の信頼性を確保するため、検査結果を公表するよう求めた。これまでの金融庁のスタンス、つまり「検査対象が明らかになれば風評で経営に打撃を与える」として、検査結果をうやむやにしようとしていた姿勢の否定である。
これはここ1週間、市場に現れていた「小泉政権は問題隠蔽、先送りで3月末の株価をつくり、事態を安定化させる」との見方を否定するものである。(1)空売り規制、株式買い取り機構の活用、年金福祉資金など公的資金投入による株価対策、(2)金融健全を装う金融庁の建て前の堅持、で3月危機を乗り切ろうとすることが小泉政権の戦略と見られたが、それは間違いであることが明らかとなった。
しかし、小泉氏が「検査結果の開示」が何を意味するか、理解しているかどうかは不明である。検査結果が、市場が納得する厳しいものであれば、直ちに事態は不安定化し、銀行への公的資金投入・国有化へと進むことになる。結果が市場の予期に反してマイルド、つまり「金融機関は健全である」ことを示す形となれば、金融当局への信認は一気に崩れ、事態は紛糾するだろう。いずれにしても、パンドラの箱を開ける結果となる。政権が望んでいる事態安定化、3月危機の回避、株価安定は不可能となる。
小泉氏は、犠牲を伴う改革と現状安定の狭間の中で揺れている。現状安定化を追求する姿勢が弱いことが明らかとなり、株式市場は再び大荒れの事態を迎える可能性が強まってきた。
(2002.2.18)