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本土防衛費争奪戦の行方
安井 明彦やすい あきひこ
富士総合研究所ニューヨーク事務所主事研究員
先週(2月11日〜2月15日)の米国株式市場は、ダウ工業株30種平均が前々週末比158.8ポイント高の9903.04、S&P500が7.96ポイント高の1104.18、ハイテク銘柄の多いナスダック指数が13.68ポイント安の1805.20で終えた。
相場は、13日に発表された1月の小売売上高が堅調だったことなどから週中盤にかけて上昇したが、企業会計への根強い不信感などから、週後半には下落した。景気回復への期待感と、企業会計への不信感の綱引きは、しばらく続きそうだ。また、先々週には議会が景気刺激策の棚上げを決定した。景気回復への期待感が高まっているが、刺激策の遅れに対する悲観論はほとんどきかれていない(2月4日付本欄参照)。
一方、4日に発表された予算教書で景気刺激策と並ぶ柱とされたのが、対テロ戦線の勝利と本土防衛の充実だ。このため、軍事費と本土防衛費は大幅増が提案されており、ビジネス界が熱い視線を注いでいる。なかでも、倍増となった本土防衛費を巡っては、中小の新興企業も交えた熾烈な争奪戦が始まっている。
来年度の本土防衛費は総額377億ドルで、国境警備増強、バイオテロ対策、航空安全対策などが盛り込まれた(表)。具体的な案件では、設置が義務づけられた空港の爆発物探索装置や、FBIとCIAが情報共有のために導入するスーパーコンピュータなどが注目を集めている。また、予算の4分の3はコンサルタントなどのサービス関連にあてられ、IT関連のコンサルタントの間ではY2K対策以来の特需になるとの見方もある。
とくに、本土防衛費は案件ごとの単価が小さいため、軍事産業などの大企業は同じく大幅増の軍事費枠に集中するといわれていることもあり、中小企業の期待感は高い。シリコンバレーのIT企業など、従来は政府への売り込みに熱心でなかった企業にも、新しいビジネスの柱を作るきっかけにしたいとの思いがあるようだ。
しかし、実際の商戦が始まるにつれ、バラ色の展開を夢見ていた企業から、不満の声もあがっている。
例えば、本土防衛費は予算上の便宜的な分類であり、実際の予算は各省庁に分散して配布される。このため、たとえ有望な商品があっても、売り込み先の見当をつけるのが大変だ。個別省庁とのパイプを持っていない新興企業からは、一括窓口の設置を求める声が早くもあがっている。
単なる予算増だけでは不十分との批判もある。テロ対策のITシステム構築を進めるには、個人情報の共有度合いなどの基本方針が不可欠だ。しかし、本土防衛に関する基本方針の策定には、まだ数ヶ月かかるのが実情なのだ。
ところで、本土防衛費の獲得を狙う企業にとって、今後の鍵となるのが議会対策である。実際に予算を承認するのは議会の仕事であり、予算法案の内容は、ビジネスに大きな影響を与えるからだ。
例えば、空港の爆発物探索装置に関する法律には、「(担当局は)2社以上の企業がマーケットに残るよう努める」との文言がある。これは、従来1社独占だった同市場に最近参入した新興企業のロビイングの成果だという。国境警備強化についても、法律の中でID認証システムのスタンダードが事実上決められる可能性があり、関連業界は注目している。
とはいえ、厳しい時期を過ごしてきた中小企業にとって、願ってもないビジネス・チャンスなのは事実。予算審議が本格化するなかで、あの手この手の獲得合戦が続きそうだ。
ttp://economist.mainichi.co.jp/e-kabu/ny/020218.html