来年度の税制改正案に耳慣れない項目が盛り込まれている。「外国人の匿名組合契約の分配利益に対する源泉徴収義務を、組合員十人未満の組合にも拡大する」という一項である。
これは、税の抜け穴を使って租税を回避している外国の投資家に対し、日本政府が放ったささやかな反撃だ。何をおいても改正を実現する必要がある。
改正の目的は、邦銀の不良債権処理に乗じて利益を上げながら税を払わない外国人投資グループを牽制(けんせい)することだ。
ハゲタカ・ファンドと呼ばれるこうした外国投資基金の運用担当者は、世界各国の税制を徹底的に研究し、巧みに租税回避を仕掛けてくる。
日本向けには、こんな仕組みを考え出した。英領ケイマンなどの租税回避地に会社を設立し、日本とオランダに子会社を作る。両子会社間で匿名組合契約を結び、日本法人の事業はオランダ法人の出資で運営し、利益は全額をオランダ法人に渡す、という形式を整える。
匿名組合は、日本の商法でも認められている契約の一種だが、実際に活用される例はほとんどなく、税法の規定は不備なままだった。
オランダとの租税条約でも、日本は匿名組合の分配利益に課税できないとの解釈が優勢だ。日本法人の利益を、海外からの受取配当に課税しないオランダに移し、両国の税をすり抜けているのだ。
しかも、組合員十人未満の匿名組合への利益分配には源泉徴収義務もなく、取引の実態すら調べようがなかった。
税制改正が実現しても、租税条約に基づく源泉徴収免除の申請があれば、原則として応じざるを得ないかもしれない。だが申請時に税務当局が取引の一端を把握できるようになるため、強引な租税回避を牽制できる。その意義は大きい。
今年度上半期、大手銀行は簿価で約八千百億円の不良債権を流動化した。大半は担保付き融資契約を安値で売却したもので、買い手の九割は外国勢という。
担保不動産の転売に失敗して、損をする可能性を恐れて、国内には資金の出し手が少ない。このため、外国勢は不良債権処理に欠かせぬ存在になっているが、日本で得た利益の一部は、税として日本に還元させるべきだ。
ハゲタカ・ファンドには、税制の裏表を知り尽くしたプロが付いている。法改正の動きを察知し、早くも別の租税回避策を開発しているとも伝えられる。
仮に後追いになったとしても、政府は租税条約の改定、税法の改正、徴税の強化などあらゆる手段で、粘り強く税の抜け穴を、ふさがなければならない。
(2月14日08:49)