「銀行の自己資本や体力は気にしないで、しっかり検査をするように−」
2月14日の午後、小泉純一郎首相はこう柳沢伯夫金融担当大臣に指示したという。
この“指示”を聞く限り、官邸はいよいよ大手銀行に対して公的資金の投入に踏み切るハラを固めた、と見ることもできる。
そして柳沢金融担当相は首相との会談後、記者団にこう語っている。
「(銀行への公的資金注入については)金融危機は絶対に起こさないということで、そういうことが起きそうな場合には、躊躇(ちゆうちよ)なく措置を考えるということに尽きる」
この発言に登場する“措置”とは、まさに大手銀行に対する公的資金注入のことを指す、と見ていいだろう。したがってこの発言の意味するところについては、柳沢金融担当大臣としても今後の状況次第ではいよいよ公的資金注入に踏み切ることを視野に入れ始めた、と受けとめることもできる。
しかし柳沢金融担当大臣はこう付け加えることを忘れなかったのである。
「検査結果によるが、今は(公的資金を注入することになるとは)認識していない」
一連のコメントに登場する“検査”とは、主要14行を対象に昨年10月から金融庁が実施している特別検査のことを指す。この特別検査について言えば、2002年3月末の銀行決算にその結果を反映させることを目的としているため、今月末までに終了させる予定になっている。
したがってその“結果”については、まだ出ていないというのが実情だ。
そうした状況にあることを踏まえた上で判断するならば、「検査結果によるが、今は(公的資金を注入することになるとは)認識していない」という柳沢発言は、公的資金注入に関して否定的なコメントとしてとらえるべきではないだろう。
「実は、小泉首相と柳沢金融担当相は、公的資金注入に関して言えば、“個別注入”で対応するということで一致したのです」。官邸関係者がこう解説してみせる。
主要銀行(大手行)に対する公的資金注入は、自己資本の増強を目的に2回(98年3月、99年3月)にわたって実施されている。そしてそのいずれもが、全行一斉−東京三菱銀行など一部銀行を除く−というスタイルがとられた。
「今回の公的資金注入についてはそうした“一斉注入”という形ではなく“個別注入”という手法が取られる、ということなのです」(前述の官邸関係者)
そしてこう続ける。
「日銀が超金融緩和策をとっているため、ジャパンプレミアムの発生は抑えられているし、資金繰りに困る銀行も実際には出ていない。しかし、信用力が大きく下落してしまったために、実質的にコール資金がとれない銀行が出てきていることも事実なのです。そうした“危機的状況”は、“超金融緩和策”によって表面上すべて隠されてしまっているのが実情です。とはいえマーケットはそうした状況を完全に見透かしているのです。ここでそうした内在する危機に対処しなければ、金融システム危機はおさまらないのです」
どの金融機関に対して公的資金注入が行われるか、ここは官邸と金融当局の動きに要注目だ。
2002/2/15