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<東短リサーチ>橘田リポート平成14年11月11日号 http://www.tokyotanshi.co.jp/
内外政治経済・短期金融市場の動向 橘田週間リポート11月11日号
<要約>
米国FRBは市場の予想を上回る幅での利下げを実施した。FOMCの声明文では、景気に悪影響を及ぼす不確実要素として「地政学的リスク」を挙げ、イラク開戦による米国経済へのマイナスを強調している 。
このところのドル安はイラク開戦による不確実な要素を全て織り込み始めている。日欧の景気の行方とか、日本政府高官の発言が注目される週である。イラク開戦となれば115円割れも 来年以降、後ずれしている不良債権処理の加速で景気は深刻さを増す。3〜5兆円の補正予算は避けて通れず、さらに税収減で国債増発となる。腹8分の利喰いの時期を心掛けるときである
円高の進展は不良債権処理の加速を進める日本経済にとって大きな痛手となる。米国経済は当面後退懸念が強い。日米経済にとって日銀による外債購入政策は必要となろう。
<要約>
●米国FRBは市場の予想を上回る幅での利下げを実施した。FOMCの声明文では、景気に悪影響を及ぼす不確実要素として「地政学的リスク」を挙げ、イラク開戦による米国経済へのマイナスを強調している●
米国FRBは11月6日、連邦公開市場委員会(FOMC)を開いて、短期金利の指標であるFF金利の誘導目標を0.50%引き下げて年1.25%とした。また同時に、各地区連銀から銀行に資金を貸し出す際の適用金利である公定歩合を0.50%下げて年0.75%にすることを承認した。さらに、当面の政策運営方針は「景気配慮型」から「中立型」に戻した。FRBはFOMC終了後に次のような注目される声明文を発表した。「当委員会は依然として底堅い生産性の伸びと相まって、現行の金融政策の方針が引き続き経済活動の重要な下支えとなっていると認識している。ただ地政学的リスクの表面化などに伴い、不透明感が増し、消費、生産、雇用を抑制していることを経済指標は示している。
足元と今後のインフレ見通しは抑制されたままだ。このような状況において、当委員会は今回の再利下げが現在の弱含んでいる景気の回復を助けると信じる。物価安定と持続可能な経済成長の達成という長期的な目標、及び現在入手可能な情報を考慮すると、当委員会は予測できる将来において、経済のリスクは二つの目標の見通しの間で均衡していると考える。」
FRBは今年の夏頃までは、堅調な個人消費が経済全体を引っ張る間に、昨年までの利下げ効果が浸透して設備投資が回復に向かうとのシナリオを描いていた。しかし夏以降、企業の会計疑惑やハイテクを中心とする業績回復の遅れなどから設備投資が立ち上がらず、最近では頼みにしていた消費者心理に陰りが見え始めてきた。それに、イラク攻撃による不確実性の高まりも加わって、景気回復の遅れがはっきりしてきた。この声明文で重要な点は、「地政学的リスク」との表現で、前回9月のFOMCに続きイラク攻撃に再び言及して、「不確実要素」の高まりが懸念される点を強調したことである。FRBは、今後イラク攻撃は避けて通れない事実であることを熟知しており、今年前半で抱いていた回復シナリオはいったん放棄せざるを得ないと判断して大幅な利下げに踏み切ったと言えよう。
こうしたFRBの大幅な利下げに対して、市場では「これほどの利下げ幅を予想していなかった」としてサプライズな受け止め方が多かった。また「FRBはやるべきことはやった」と評価は高く、金融政策を中立に戻しているので利下げは今回で打ち止めになるであろうし、これによって株式相場が利下げ観測に振り回されなくなるであろうとの見方もでていた。
今回の利下げは昨年12月以来11ヵ月ぶりで、FF金利は61年7月以来41年ぶりの低さとなり、金融緩和局面が始まった2001年初めから数えると12回目、累計の利下げ幅は5.25%に達した。公定歩合が1%以下になったのは、FRBが記録を公表し始めた50年以降では例がなく初めてである。
米国では9月以降、生産関連指標の悪化とか、失業率の上昇、個人の消費マインドの落ち込みなどが相次ぎ発表された上に、11月5日投票の中間選挙では、過去「与党議席は減少する」というジンクスを跳ね除けて与党共和党が勝利し、イラク攻撃の可能性が高まった。これによりFRBは、景気に悪影響を及ぼす不確実要素(地政学的リスク)を考慮せざるを得なくなり、市場の予想以上に金利を引き下げたようである。市場では、FRBが予想外の0.50%という大幅な利下げに踏み切ったことで、景気について「相当深刻な見方をしている表われである」との考えが強まり、米経済の先行きに懸念を強めている。確かに、大幅な利下げを決定した11月6日のFOMC後の声明を読むと、米経済の置かれている厳しさが浮かび上がってくる。
上記したFOMCの声明文中にも「地政学的リスクの表面化などに伴い不透明感が増し、消費、生産、雇用を抑制していることを経済指標は示している」というくだりがあるが、これは企業部門の回復の遅れが雇用環境の悪化を通じ家計部門に影響を落としていると指摘したものである。家計部門が堅調さを保つうちに企業の設備投資が回復するという景気回復のシナリオが狂い始め、その危機感が強まるなかでイラク攻撃という不確実要素が高まったことで、FRBは大幅な利下げに踏み切った。FRBは景気の現状を相当深刻に考えていると言えよう。
一方、政界とか産業界では11月5日の中間選挙で共和党が歴史的勝利を収め、6日にFRBが大幅な利下げを断行したことで、米国の経済政策は舞台が回り始めたとみる人達が多く見られた。「突然天気が回復し、来年は相当高い成長率が期待できる」と米産業界は政策の急展開を期待している。一方、今回の中間選挙で過半数の議席を回復した上院では、共和党が中心となってブッシュ減税恒久化法案の審議加速が進められ、時限措置である相続税廃止の恒久化、積み残している法人税の抜本減税も政府部内で検討が始まった。米国のデフレ対応策はこれから急速に進展し、財政面での支出は一段と加速していこう。
そこで、今回のFRBの大幅な利下げと政府の減税を中心とする財政支出などの不況対策によって、米国の景気は元の回復シナリオに戻ることができるのかということであるが、答えは「ノー」というアナリストが多い。90年代に積みあがった債務・設備が過剰なままで、企業はバランスシートの圧縮を迫られ債務の返済が優先される状態である。41年ぶりの歴史的低金利も投資には結びつかない。財政とて赤字をかかえての動きとなるだけに有効性は低下している。
現在の米国景気は、90年代初めからの活況の反動を受けて回復力が乏しい状況が続いており、さらには雇用の回復の遅れ、消費者心理の冷え込み、不良債権の膨らみなどの問題が発生している。経済情勢は90年代初めと類似しているとの見方が広がっている。90年代初めは、景気に力強さが出てくるまでに約3年かかっている。恐らく今回は不況の度合いが大きいのでもっとかかるのではないかとの見方が強い。緩慢な景気の回復になると思われる。
今回、FRBは地政学的リスクを根拠にして、米経済が置かれた厳しさを浮かび上がらせている。米国経済の回復感は「イラク攻撃」という言葉によって、すべて吹き飛ばされてしまう状況にある。従って、これからの米国景気はイラク攻撃の有無が大きな焦点となるであろう。国連安保理は米英から提出された対イラク修正決議案を全会一致で採択した。来年2月21日までに国連査察団が安保理に査察結果を報告できない事態になれば、イラクに対する武力行使が現実化することになろう。イラク攻撃に関しては、欧州の投資家の40%が世界の株式市場への最大の脅威と答えている。開戦となれば、米国では石油高騰による景気後退、戦費拡大、イラクによる化学兵器使用の恐れなど、不安の種は尽きない。しかも、イラク攻撃に関する米国民の見方は楽観シナリオに集中しているので、少しでも見通しが変われば不安が一気に跳ね上がる恐れがある。最悪の場合、米国経済や世界経済に不安が広がり、世界同時リセッションに陥るシナリオも十分考えられる。
l このところのドル安はイラク開戦による不確実な要素を全て織り込み始めている。日欧の景気の行方とか、日本政府高官の発言が注目される週である。イラク開戦となれば115円割れも●
このところ米国では、雇用、消費、生産が伸び悩んでいる経済指標が多くなって、景気の先行きにデフレ懸念が強まっている。FRBがFF金利の誘導目標を0.50 %引き下げたのに対し、欧州中央銀行とイングランド銀行が政策金利の据え置きを決めたことから金利差が拡大し、それを受けてドルが売られている。これは外為相場が金利差を軸に動き始めた証拠である。また、8日にはフランスが国連安保理決議案に同意したとのニュースが流れ、米国によるイラク攻撃が現実味を帯びたとして、ドルの先安観が一段と強まった。これは、開戦となれば石油価格が上昇し景気回復の足を引っぱる上に戦費が膨らみ財政収支が悪化、国債金利が上昇するなど、景気に悪影響が及ぶとの見方が強まったためである。市場の予測では、今回FRBはFF金利の0.25%下げにとどめ、政策運営方針は据置き、12月のFOMCでさらに0.25%引き下げるとの見方が主流であった。生産関連指数の悪化、失業率の上昇、個人消費の変調など、このところ米国景気に対する懸念材料が相次いで発表されている。そうした局面でFRBが0.50%の大幅利下げを決定したことが、市場では「米国景気の現状は想像以上に厳しいのではないか」との疑念を強める結果となってしまった。
市場では利下げ前日まで「0.50%の大幅な利下げとなれば株式相場は大幅に上昇する」との予想が強かった。しかし、NY株式市場では市場参加者が期待するほどダウ平均株価は上昇しなかった。利下げをきっかけに投資家が強気に転じ、株式相場が大幅に上昇しない限り、ドル買いの動きは生まれてこない。利下げがドル買い材料とならなかったことで、外為市場では日米欧の金利差が大きな動きの要素となってきた。欧州中央銀行とイングランド銀行が政策金利の据え置きを決めたことで、米国との金利差は一段と拡大し、市場は金利相場の様相を色濃くし始めてきた。資金は金利の高い通貨に流れていくのが自然の流れである。当面、ユーロ買い・ドル売りの要因になっていくであろう。このところの円高・ドル安は、こうしたユーロ高の流れに沿ったものであると言えよう。
こうしたドル安加速の流れは、先週末には金利差からさらにイラク攻撃の現実化を取り入れる動きとなってきた。FRBはFOMCの声明文で「地政学的リスク」との表現で、「不確実要素」の高まりが懸念されると指摘しているが、その原因はイラク開戦によるリスクである。米国の株式とドルなどの相場は、イラク戦に結着感がつくまで上昇する気配は弱い。
先週円相場は対ドルで120円を割り、119円台半ばと約2ヵ月ぶりの高値をつけた。米国景気の悪化懸念がドル売りとなっているわけであるが、不良債権処理加速の悪影響が懸念される日本経済にとっては、輸出採算の悪化につながる円高は大きな痛手となる。市場ではすでにドル相場がイラク開戦の現実味を織り込み始めたとの見方が強い。いざ開戦となると110円から116円内でのドル安・円高になることが考えられる。しかし、市場では日本の財務省が115円以上の円高進行を許容しないのではないかとの見方もある。米国経済だけが独歩的な景気悪化となるのではなく、欧州も日本も景気の悪化はこれからが本番である。
現在のようなユーロ高、円高が永遠に続くはずがない。もう何かのきっかけでユーロ・円とも安くなってもおかしくない水準にきている。日本政府の高官による円相場のあるべき姿を説明する発言がでれば、一気に円安に振れていく可能性は強い。13日のグリーンスパンFRB議長の議会証言とか、日本の7〜9月期GDPの内容次第で、相場が大きく振れる可能性は高い。円相場は115円台を試す動きも考えられるが、ユーロも円も一気に買われていく正当な理由はない。ドル売りポジションが相当高まってきつつあることは確かで、そろそろ一休止したいところであろう。今週は1ドル=117円〜122円内での動きとなろう。イラク開戦時の一段のドル安は絶好の投資タイミングであることに変わりはない。
l 来年以降、後ずれしている不良債権処理の加速で景気は深刻さを増す。3〜5兆円の補正予算は避けて通れず、さらに税収減で国債増発となる。腹8分の利喰いの時期を心掛けるときである●
新発10年物国債の利回りは、11月5日に4年ぶりの低水準となる0.955 %を付けて以後1%を挟んだもみ合いが続いている。当レポートでは0.70〜0.80%の金利もあり得るとの見方をしているが、現在もそれを変えていない。しかし、ここへきて国の税収不足が叫ばれ始めており、その額は次第に多くなっている。それに景気悪化は避けて通れない状況にあり、来年早々に補正予算の編成が3〜5兆円必要な状況になってきたことなどで、国債の増発を懸念する声が強まっている。こうした流れを受けて、5〜10年物を中心とする国債の買いにブレーキがかかってきている。国債の買いもバブルの状態にあることは当レポートでもすでに指摘している。
国債が1%割れをつけた段階で、いつ金利が反転してもおかしくない状況となってきていることだけは確かである。5年物にしても10年物にしても、特に15年、30年物国債は、ここまで金利が低下してしまっていると、金利が反転した場合には期間が長いだけに国債バブル崩壊の痛みは大きいものとなる。腹8分の利喰いが必要となってきた。もうすでにそうしたことを真剣に考えておくべき時期が到来したと言えよう。第二のバブル崩壊の犠牲者とならないためにも。
l 円高の進展は不良債権処理の加速を進める日本経済にとって大きな痛手となる。米国経済は当面後退懸念が強い。日米経済にとって日銀による外債購入政策は必要となろう●
日銀は先般来サプライズなデフレ対応策を打ち出して実行に移している。あと日銀に残されたデフレ対応策には有効な対策はないというのが現実の姿である。竹中経済財政・金融相はインフレ目標導入策を実施すべしと日銀に強く迫っている。また、9月の金融政策決定会合で一人の委員が市場に資金を供給する新たな手段として外債購入を検討すべきであると発言して大きな話題となったようだ。資金供給時に買い入れ対象となる資産が足りない状況ではないなどの反対意見が多く採用されなかったが、現実には供給オペで札割れ現象も起こっている。日銀はすでに銀行保有株の直接買い取りを決めていることもあり、リスク管理の側面だけから外債購入を否定する理由はなくなってきたと言えるのではないか。しかし、こうした流れはすぐそこまで来ている状況となってきている。
ある米国のアナリストが日銀のデフレ対策強化を提唱している文章を読んだが、大変ユニークな意見であるので紹介する。その内容は「竹中氏による不良債権への対応と同時に、日銀は一段と積極的に通貨量を増やしてインフレを起こすリフレ策を打ち出すべきだ。日銀が9月に発表した銀行の株式買い取りは、小さな一歩に過ぎない。企業や家計が一年後も物価が現行水準にとどまったり、わずかに上昇しているだろうと期待できるように、日銀はさらなる方策を講じなければならない。そうすれば、日本の悪性デフレサイクルは終息に向かうだろう。物価安定の期待感を醸成するためには、今や死に体となった銀行に流動性をいくら供給しても無駄であり、日銀は直接民間部門から資産を買い上げる必要がある。いずれ銀行のリスクが完了すれば、流動性の追加によって融資が可能になるかもしれないが、今それができると考えるのは本末転倒である。
日銀は代替手段を講じてデフレ終息の期待感を引き出す必要がある。最も確実で、財務省の指導の下に実行できるのは、円相場が180円から200円へと大幅に下落するまで外貨を購入し、その結果として拡大する国内の流動性をオペレーションで吸い上げずに放置することである。日銀が外為市場介入による流動性の増大を放置すると発表すれば、デフレ退治の強いメッセージを市場に送ることができるであろう。円の大幅な下落は輸入品の価格を押し上げ、物価水準を事実上引き上げることになるであろう。日本の輸出産業の収益見通しも改善し、株式市場を下支えするであろう。こうした円安対策は近隣諸国から批判を受けようが、デフレ退治によって日本が再び成長する世界経済の一翼を担うことが可能になれば非難する国はないであろう。世界経済にとって1ドル=180円の為替相 場で成長する日本経済の方が、1ドル=100円または120円で縮小する日本経済よりもはるかに好ましいと言えよう」というものである。
竹中金融相による不良債権処理加速のシナリオは、改革反対の政治家と金融機関の強力な反対で一応先延ばしされた。しかし、不良債権は時間の経過と共に次第に積み上がるものなので、放置しておけば数倍の重い痛みとなって跳ね返ってくる。処理策加速先延ばしの結果は不良債権額の一段の拡大となって跳ね返ってくるということは、すでに過去失われた10年間に銀行はいやというほど味わっているはずである。1〜2年後には不良債権処理加速の痛みは現実のものとなり、日銀としても最終的にはリフレ政策とも受け取られる政策を発動しなければなら
ないであろう。今年9月時点では一人の委員が提唱者であった金融政策決定会合での外債購入論は、あと1年以内に委員の全員が唱える政策となるのではないかと思う。(終)
(東短リサーチ 特別顧問 橘田昭次 記 )
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