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推奨図書:竹森俊平著『経済論戦は甦る』に対する「シュンペンターの反論」 投稿者 あっしら 日時 2002 年 11 月 06 日 20:54:54:

スーパー銭湯さんのお奨めがあったので竹森俊平著『経済論戦は甦る』(東洋経済新報社・2200円)を買い求めた。

竹森氏は慶應義塾大学の教授であるが、経済学者の社会的責務を自覚されており、「昭和恐慌」・「大恐慌」と80年代後半以降日本の経済事象の説明も、本質をえぐり出しつつわかりやすくリズミカルな筆致で行っている。

マクロ経済学・経済学史・経済政策論がバランス良く融合された経済学の好著としてご購読を奨めたい。
(もちろん、竹森氏は正統派の経済学者なので、利潤や銀行制度などに代表される「近代経済システム」の捉え方は私と大きく異なるというか別次元のものである)

好著であるが故に、竹森氏は論議のテーマとして重要なものをいくつも提示されている。

『経済論戦は甦る』は、“フィッシャー効果”で知られるアービング・フィッシャー氏と“動態均衡”で知られるヨゼフ・アロイス・シュンペーター氏という二人の著名経済学者の理論的対立を軸に理論的考察が展開される。

フィッシャー氏を「リフレ派」、シュンペーター氏を「構造改革派」と措定しながら、戦前の「大恐慌」とここ十数年の日本経済問題を対比しつつ政策の有効性を論じるというものである。

ケインズ主義とマネタリズムという戦後的対立軸ではなく、フィッシャー理論とシュンペーター理論という対立を軸に論考を進めたのは新鮮である。

竹森氏は、シュンペーター氏の「創造的破壊」(清算主義)が「大恐慌」では通用せず、リフレ派(フィッシャー氏)の金融政策が危機からの脱却に貢献したと捉え、「経済思想という点でみれば、大恐慌の経験は、当時、人気のあった一つの経済思想を徹底的に敗北させ、それに対立する経済思想に完全な勝利をあたえることになった。徹底的に敗北したのは、シュムペーターの「創造的破壊」の考え方に代表される「清算主義」であり、それにかわって完全な勝利を収めたのが、ケインズやフィッシャーに代表される「リフレ思想」、すなわちデフレの進行を拡張的な財政金融政策でくい止めるという考え方である。」とまとめている。

そして、構造改革が多数派になっている日本の政策意識現状に即して、「大恐慌から七〇年が経過し、二〇世紀が最後の一〇年を迎えたところで、極東の経済大国において、思いもかけない展開が生まれてきたというわけである。今度こそ、地下のシュムペーターが、最後の高笑いをすることになるのだろうか?」と投げかけている。

このような問いかけをこれ幸いと、地下のシュンペーター氏にお出まし願って、竹森氏に反論を行ってもらうことにした。


“でっち上げ”シュンペーター氏:

「竹森くん、歴史や経済事象はきちんと捉えなければ誤ることになるぞ。リフレ政策がデフレ不況の緩和に貢献したことは認めておるが、「大恐慌」で生じたデフレ不況から完全に脱却できたのは「創造的破壊」のおかげだよ」

「戦争を経済から切り離したり特殊な状況と考えてはならん。米国経済が好況の足掛かりを得たのは欧州大戦の勃発だし、本格的な好況は、国家総動員体制に移行した日米大戦勃発後だよ。日本経済も、満州事変からシナ事変へと進んでいくなかで確立されていった統制経済という名の国家総動員体制を通じて活況を呈するようになった。戦争という大義名分がなければ、戦前の苛烈なデフレ不況は解消できなったということだよ。戦争ってなんだい?、“破壊”そのものだろ。そして、圧倒的な財の浪費だろ」

「僕の理論を読めば、戦争が新たな動態均衡条件を切り開く重要なものであることは理解できるはずだ。史上希有な大破壊と大殺戮が5年以上にわたって繰り広げたあの戦争が「創造的破壊」であることを見逃しているようでは一流の経済学者だとは言えないな」

「デフレ不況を解消しただけではなく、戦後世界の高度成長を準備したのも、まさに、第二次世界大戦という「創造的破壊」なんだぞ。「清算主義」は誤りだと言っているが、戦後日本が最初に行った大きな金融政策はなんだった?戦争を遂行するために積み上げた政府債務の切り捨てだろう。あれほどの“清算”が他にあるかな。あのような大清算を出発点として、日本は最高の産業国家に成り上がったのではないのかい」

「第二次世界大戦によって敗戦国である日本やドイツは供給力を徹底的に破壊された。戦勝国だって大きな破壊を免れなかった。戦勝国は、米国の武器供与に依存しながらなんとか戦争を遂行したというものだ。端的に言えば、米国経済は供給力を飛躍的に増大するとともに厖大な通貨的“富”を手に入れ、他の先進諸国は、供給力も通貨的“富”も大きく喪失したというのが第二次世界大戦だ。このような世界再編(経済力落差)が、戦後世界の経済成長をもたらした最大の条件だよ。これを「創造的破壊」と言わずとして、なんと呼べばいいんだ。新しい段階の動態均衡に向かう条件を築いたのが第二次世界大戦なのだよ」


“でっち上げ”竹森氏:

「シュムペーター先生が徹底的に敗北したなどととんでもなく非礼なことを書いたことを心からお詫びします。ところで、ご存じだとは思いますが、日本経済はとんでもない経済災厄に見舞われ、有効な政策も実施できない状態が続いています。つきましては、理論的なご助言をいただければ助かるのですが...」


“でっち上げ”シュンペーター氏:

「それは地下に眠っている者の仕事ではないわな。さっき説明した内容にヒントがないこともないのだから、よ〜く考えてみるがいい。戦争を大義名分とした公的債務の積み上げのような政策は排除しなければならんとだけは言っておこう。たぶん、ケインズくんも、今となっては、自分の理論が無分別に政策に利用されたことを悔やんでいるだろうな。竹森くんの現代的な問題に対する考察については、機会があれば取り上げてみたいと言っている生きている奴もいるようだから、それを眺めてみるのも悪くないかもね」

「悪い悪い、一つ言い忘れていた。世界に新たな動態均衡条件を生み出す余地があるかないかをよ〜く考えてみたほうがいい。現状の問題は、戦後世界として生まれた新たな動態均衡条件がとうとう均衡に陥ったことから起きている。戦争以外の手法で新しい動態均衡条件を生み出すことができるかどうかがポイントだ。戦争しかないと判断したら、別の経済システムを考えたほうがいいぞ。言っておくが、後進国をどんなに破壊しても均衡条件が変わることはないからな」

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※ シュンペーター理論の簡単な説明

『【世界経済のゆくえ】「定常状態」あるいは「歴史段階的動態均衡」という経済状況』
http://www.asyura.com/2002/hasan12/msg/1190.html

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