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バッサリ削られるのは、給料やボーナスだけじゃない。将来に備えて積み立ててきたなけなしの年金までが、不安定な株や投信に化けて、紙クズと化すかもしれないのだ。デフレ日本を代表する大企業で次々と進む「自己責任での年金の運用」。その重荷に、サラリーマンのあなたは耐えられるか?
従来型の年金は必ず破綻する
小泉・竹中コンビの不良債権処理政策が進むにつれ、ますます迷走の度を増す日本経済。平均株価は8000円台を上下したまま上昇の兆しも見えず、銀行への公的資金投入や企業の倒産ラッシュも目前に迫って、サラリーマンの生活はお先真っ暗だ。
そんないま、われわれサラリーマンの「老後の安心」を根底から奪いかねない大激動が起こっている。企業年金の「大幅カット」である。
従来の企業年金は、加入期間や在職中の平均給与によって年金給付額が確定している「確定給付型年金」だった。そのため、年金額に応じた老後の生活設計が立てられた。
ところが昨年10月、年金に関する新たな法律が施行されて以来、事情は一変した。その法律とは「確定拠出年金法」。いわゆる「日本版401k」である。
企業がこの新しい「確定拠出型年金」を導入した場合、社員は専用の口座を持ち、毎月一定の掛け金を、自分の選んだ預貯金や株、投資信託などの金融商品に投資して運用する。つまり、これまで企業が行っていた年金の運用が、社員の手に移ることになる。
したがって、月々の積立金をうまく増やせば年金も増えるが、減れば年金も減る。確定給付型なら、減った分は会社が補填してくれたが、確定拠出型ではそんなことはしてくれない。すべては運用した社員の自己責任になり、老後の設計がぐらついてしまう。
フィスコ取締役チーフアナリスト・田中勝博氏は言う。
「運用難と人口減少で、これまでの確定給付型年金はいずれ破綻します。今後2〜3年の間に、9割の企業が確定給付を止めて確定拠出型に移行するか、企業年金や退職金制度を廃止せざるをえなくなるでしょう。5年後には、確定給付型だけという企業はなくなると思いますよ。もう、国も会社もあてにしてはいけない。退職金で住宅ローンを清算し、あとは年金で生活、などという考えは危険です」
なぜこんな事態になったのか。最大の理由はいうまでもなく、この大不況にある。
従来の年金制度では、企業は年5.5%の金利を目標に積立金を運用してきた。しかし、いまの超低金利下では、とても年利5.5%の運用は不可能。マイナス分は企業が穴埋めしてきたが、それにも限界がやってきたのだ。
企業は年金を守るために手を打たざるをえなくなった。まず目立つのが、国の厚生基金の一部を企業が肩代わりして運用する「代行部分」の「返上」だ。
代行部分は、やはり年5.5%の運用利回りを前提にしているが、現実にはほとんど5.5%を下回る。そのマイナス分も、やはり企業が穴埋めしなければならず、多くの企業で代行部分ははっきりと“お荷物”になっていた。
10月18日現在、これまで厚生労働省に代行の返上を申し出て認められたのは、トヨタ自動車、日立製作所、松下電器産業、いすゞ自動車、シャープ、東芝、三井物産など、合計169社にのぼる企業の基金である(上の表参照)。
前述した401kも、導入からちょうど1年経った今年9月末の時点で、174社が導入している(厚生労働省調べ)。具体的には、トヨタ、日立製作所、野村ホールディングス、大和証券グループ、日商岩井、セイコー、ファーストリテイリング、すかいらーく、カゴメ、吉野家ディー・アンド・シー、日本オラクル……などだ。
企業が年金を401kに切り替える際、二つのやり方がある。第一は、従来の確定給付型と新しい401kを併用する「混合型」をとるケースだ。第二は、全面的に401kに切り替えるケース。
いまのところ、多くの企業は前者、つまり混合型を選んでいる。その一つ、松下電器の40代社員が言う。
「4月から年金制度は大きく変わりました。年金給付の利回りが、これまでの7.5%から5.5%に引き下げられたんです。現役社員はもちろん、これまで7.5%の利回りを受けていたOBも、この4月から5.5%に引き下げられてショックを受けていた。
同時に、現役社員には新たに退職金制度が設定されました。まず退職金を、従来の厚生年金基金である第一加算部分と、新たに設ける『キャッシュバランスプラン年金』の第二加算部分に半分ずつ分ける。第一加算部分の利回りは、従来の年金だから5.5%。第二加算部分については、国債や定期預金などの運用商品を社員が選択し、その平均的利回りに、会社が1.8%を加算するものです」
利回りマイナス28%の悲劇も
こういう混合型を導入した理由を、松下電器の広報グループはこうコメントする。
「従業員にとっては、(年金が)社会変動に応じた正しい価値で支払われ、より納得できるシステムだと思います。会社の会計への影響が緩和できるというメリットもある」
混合型で、しかも第二加算部分については会社が1.8%の“ゲタ”を履かせてくれるわけだから、運用に失敗してもあまり大きなダメージはない。ただし、前出の社員はこう漏らす。
「従来型の給付利回りが5.5%に引き下げられましたが、それでもいまの経済環境を考えれば高利回り。しかし、社員の間では『これがいつまで続くのだろう』と不安がる声が上がっているのです」
トヨタ自動車も混合型。ただし、全体の10分の9は従来型で、利率が変動する確定拠出型はわずか10分の1にしただけのゆるやかな変更だ。
「10分の1なので、年金額にそれほど大きな変動はないでしょう。確定拠出型を導入した最大の理由は、社員の自助努力、自己責任の意識付けです」(トヨタ自動車広報部)
運用商品は未公表だが、トヨタの30代社員によると、国債、変動型預金、株式、定期預金、投資信託などから選べるという。ただし、株や投信などリスクの大きい商品は、敬遠する社員が多いようだ。
「私は安全第一に考え、運用利回りは低いが、元本保証で安全な国債で100%運用することにしました。周囲には利回り0.25%の元本確保定期預金などを選んでいる人が多いようです。ハイリターン商品ではMMFがありますが、リスクも高いのでちょっと……」(30代社員)
混合型ではなく、401kに全面移行した企業もある。いい例が日商岩井で、まず今年3月に厚生年金基金を解散。代行部分も国に返上した。会社が運用していた部分は、清算してOBに分配したという。
今後、社員の年金管理口座に、毎月拠出金が振り込まれる。40歳の社員では合計約11万円前後になる――と日商岩井広報室は説明する。このカネが社員自身によって運用されることになるわけだ。
「年金の積み立て不足問題を先送りするより、一気に解決しようということになって、社員に意思確認を行いました。その結果、85%の社員の同意を得たので、401kを全面的に導入したのです。社員が選択できるのは、元本確保型、国内債券型、国内株式型、外国債券型、外国株式型、バランス型の6カテゴリー12商品。どの組み合わせでも、毎日変更してもいいんです」(日商岩井広報室)
組み合わせは自由といっても、実際には約6割の社員が安全な定期預金などを選んでいる。気になる実績だが、12商品中、運用利回りがプラスになったのは5商品で、マイナスが7商品。社員全体では平均マイナス4%台の利回りだったが、いまの企業年金の平均マイナス9.5%に比べれば悪くない数字だ。
過去5ヵ月で最も利回りがよかった商品は外国債券型の7.43%、最悪は外国株式型のマイナス28.02%だったという。
老後の生活は運用成績しだい
もっとも、ハイリスク・ハイリターン狙いの社員が多い会社もある。昨年12月から401kに移行した日興コーディアルグループは、40の商品を用意しているが、約8割の社員がリスクの大きな投資信託を選択するという。
「老後の生活を考え、夫婦二人で20年間生活するとしたら約5000万円かかると仮定しました。で、年金だけで毎月20万円は確保したいと考えた。それには低利の元本保証型では無理なので、定期預金は2割にし、残り8割は国内と世界各国の国債などを含めたグローバル型の投信に切り替えました。現在は数%のプラスになっています」(日興コーディアルグループ管理職)
もっとも、これは証券会社の社員という特殊性が大きく関係している。一般企業の社員が投信に手を出すには、いくらか勇気が必要だろう。
すかいらーくも、今年1月から大幅に401kを導入した。厚生労働省から認可されたのは、日本で一番早い。すかいらーく社長室はこうコメントする。
「導入の第一の理由は、企業自身が将来の不安要素を抱えないようにするということ。第二は、時代にマッチした年金制度に改めるためです。5年や10年の勤続年数だと、従来の年金制度では微々たる額しか受け取れない。あらゆる業態で人材が流動している現在、従来の確定給付型は社員にも不利益なのです。
とくにウチは、社員の3分の1が独立志向。『独立して自分の店舗を持つ』『社長になる』という人が多い。そうした人材でも来てもらえるようにと、年金・退職金制度を成果対応型に改めました」
労使交渉モデルでいうと、60歳で定年退職した社員の平均退職金は約2000万円。これまでは、そのうち厚生年金部分が240万円、適格年金分が1000万円、退職一時金が760万円という内訳だった。このうち、厚生年金分はそのまま据え置き、残り1760万円分をそっくり401kに移行したのである。まさに今後の運用実績が、老後の生活にそのまま直結するといっていい。
日立製作所は、全社員ではなく選択制で401kに移行。スタートは今年1月。全社員約5万人のうち、約70%の3万5000人が参加した。
日立はこれまで、退職金全体の60%を厚生年金基金から支給し、残り40%を退職一時金で支払っていた。新システムでは、厚生年金基金分の60%はそのまま。退職一時金のみ半分に分け、片方の20%は一時金分とし、もう片方の20%は確定拠出型年金に向けて毎月口座に積み立てるか、「退職金前払い」として毎月受け取るかを、社員各自が選択するのだ。
「運用対象商品は全部で19種類あります。現在の資産配分の割合は、MMFを中心に投信が50%、定期預金が40%、生保商品が7%、自社株運用が3%です。運用商品の選択は常時自由で、パソコンで指示できます」(日立製作所コーポレート・コミュニケーション本部広報部)
約70%の社員が、この確定拠出型を選んでいるわけだが、中には疑問の声もある。20代の女性社員が言う。
「加入してから半年たって、『しまった』と思いました。私の場合、結婚して子供ができれば、退職する可能性が高い。だから、そのときのためにおカネを使えるかな、と思っていたんです。
でも、この制度では、加入3年以内でないと『脱会一時金』はもらえません。つまり、3年経てば、結婚しようが仕事を辞めようが、拠出金は60歳まで凍結状態。引き出して使うことなどできないんです。その間は大不況や大暴落があっても、自分のおカネをどうすることもできない。三十数年後、私の拠出金はどうなっているのか……」
給付水準の引き下げが続出
このほか、社の厚生基金そのものを解散する企業も増えてきている。'99年度は解散が16基金だったのが'00年度は29基金、それが昨年度は59基金になったのだから大変な急増だ。今年度も、9月末までに24基金が解散している。
また、年金の給付水準を引き下げる企業も増加する一途だ。例えば新日本製鐵は、今年4月から予定利率3.1%を1.7%に引き下げ、すでに給付を受けている退職者の給付額も月1万円以上削減する。ミズノの場合は、すでに昨年4月から予定利率5.5%を4.0%に、給付利率6.5%を4.5%に引き下げているといった具合なのだ。
さらには、松井証券のように年金制度そのものから撤退する企業も現れた。日本労働研究機構副統括研究員・伊藤実氏はこうアドバイスする。
「運用次第で年金が増えるという謳い文句は、ほとんど当てにならない。素人が運用益を出すのは困難で、実際、日本の投信は総崩れの状態です。財務的な体力がなくなったら、企業は現役重視で、OBまで面倒は見られなくなる。給付期間も、終身が有期に、有期も20年が15年、10年と短縮されてきます。だからこそ、まず元本を減らさないことを第一に考え、退職後も月に10万でも5万でも稼げる方法を準備しておくことです」
まさに、頼れるものは自分しかない時代が始まったのだ。