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竹中平蔵大臣は何をやるのか〜日本経済クラッシュを予見するマーケット
「竹中・木村ショック」の衝撃は、日を追うごとに深刻度を増している。
マーケットは、日本経済舵取りの全権を握った竹中金融・経済財政担当大臣の一挙手一投足を固唾を飲んで見守っている。竹中大臣は、日本経済を救うことができるのか。
平野 純一(編集部)
10月7日、株価は前週末終値比339円安の8688円と急落、1983年の水準に落ち込んだ。円も債券も下落する「トリプル安」であった。
同日の株式市場は、外国人投資家の集中的な売りで始まった。あわてた機関投資家は先物売りを入れるが、裁定取引による現物売りがすぐさま続く。先物と現物が競うように売り注文を入れていった。個人投資家も、信用取引の「追い証」が生じた投資家は投げ売り状態になった。竹中平蔵金融・経済財政担当大臣が米誌に対し、「大手行でも『Too big to fail』ではない」と話したと伝えられたことも、売りを一段と加速させた。
銀行株に見切りをつけた
ここ1カ月間、売りの主役は外国人投資家である。寄り付きの売買注文状況をみると、外国人投資家は9月20日以降10月10日まで14営業日連続で売り越しになっている。「銀行、ハイテク株を中心に手放している」(市場関係者)という。9月の外国人投資家は5979億円の売り越しで、投資家主体別では最大の売り手となった。
外国人投資家にとっては、”本国”の欧米株式市場も下落が続いていることで、これ以上のリスクが取れなくなっていることや、円安が進み、日本株を早く処理したい環境になっている要因もあるが、「日本の政策転換を敏感に読み取っている」(市場関係者)という。
外国人投資家たちはこれまで、不良債権処理を「早くやれ」と言い続けてきた。しかし、これから日本が行おうとしている本格的な不良債権処理に対しては、「当面はデフレが深刻化するので売り」と判断しているのだ。
だが、政府の総合デフレ対策は、補正予算作成や、先行減税、中小企業対策といった「方針」は出てくるものの、具体的な中身はまだハッキリしていない。この「疑心暗鬼」がマーケットを一層暗くしている。
その株価下落に勢いがついたのは、内閣改造が行われた9月30日以降だが、「マーケットが政策転換を感じ取り、センチメントが明らかに変わったのは9月18日の日本銀行による銀行保有株式買い取り決定からだった」(三宅一弘・大和総研チーフストラテジスト)という。
日銀が9月18日に銀行保有株式の買い取りを発表した翌19日、竹中平蔵・経済財政担当相(当時)を訪れた日銀幹部は、こう言って説明している。
「私たちは、あなたの味方です。一緒にやりましょう」
日銀の発表直後は、事前に知らされていなかったことに気分を害し、「理解できない政策」と発言した竹中氏だったが、日銀のサポート表明に、がぜん勢いが出た。
小泉首相に「私と柳沢(伯夫金融担当相)氏のどちらを取るのか」と迫り、内閣改造で柳沢金融担当相は解任、竹中氏が金融担当相を兼任することになった。10月3日には、経営不振企業を名指しした「30社リスト」で知られる木村剛KFi代表を金融分野緊急対応戦略プロジェクトチームのメンバーに指名。矢継ぎ早に事を決めていった。そして日銀との「共闘体制」も取り付け、不良債権最終処理に向け「全権を掌握」したのである。
だがその間、株式市場は上昇する日があっても、公的年金と思われる買い注文や、証券会社の自己売買やネット取引の個人投資家が下げ過ぎた感のある低位株を中心に拾い買いを見せるのがやっとで、「まったく迫力に欠ける」(市場関係者)状態だ。日銀の発表以降10月10日までに、株価は1100円、11・6%も下落し、東証1部の時価総額26兆円が消え去ってしまった。
不良債権処理の「ターゲット」となる銀行は、平均株価の下落率を大幅に上回る下落が続く。日銀の発表以降10月10日までに、UFJが24%、みずほホールディングスが25%も下落した。「一部の大手行は、機関投資家のまとまった”実弾攻撃売り”にやられている」(同)という。日本の投資家のコア部分ですら銀行株に見切りをつけ始めているのだ。
恐ろしい長期金利上昇
全権を掌握した竹中氏と日銀のサポート体制によって、不良債権の抜本処理という「大手術」をすることは決まった。しかし、それをするには失業対策などの「輸血」がいる。ただ手術をするというだけでは、日本経済が失血死してしまう。
日銀の政策は、仮に株価が下落しても銀行と日本経済が耐えられるようなショックアブソーバーをつくったにすぎない。「欧米のメディアは、米FRBならこんなことはしないと批判したが、米国の銀行は株を持っていない。日本の銀行は株を大量に保有しているのだ」(日銀幹部)という、日本特有の事情を考慮しての政策なのである。これだけで、日本経済を救うことはできず、出血を止めるには、財政政策による「需要創出策」を待つしかない。
しかし、思い切った財政政策は副作用を生んでしまうことを忘れてはならない。マーケットに国債増発の思惑をもたらし、それは国債価格の下落、イコール長期金利の上昇要因につながりかねない。これはまた、銀行を痛めつけることになるのである。
スタンダード&プアーズの根本直子ディレクターが、2002年3月期決算を元に推計したところでは、イールド・カーブ全体(金利水準)が10ベーシスポイント(0・1ポイント)上方にシフトするだけで、大半の大手行で国内債券含み益がマイナスになる。今年3月末の長期金利は1・4%だったが、単純計算して長期金利が1・5%になれば、債券含み損が発生してしまうことになる。銀行にとって株価下落は困るが、債券下落も困るのだ。
大規模な経済対策を打って長期金利が上昇した例は過去にもある。
98年11月、小渕恵三内閣は17兆円(減税全体の規模を含めると27兆円)の緊急経済対策を打ったが、国債増発を嫌気して長期金利は急上昇、98年10月の0・7%から99年2月の2・4%まで、わずか4カ月間で1・7ポイントも上昇した。確かに当時は、資金運用部が国債買い入れを停止すると宮沢喜一元大蔵相が述べた「資金運用部ショック」もあったが、「やはり金利上昇は底流にある国債大増発要因が大きかった」(石井純・三菱証券チーフ債券ストラテジスト)という。
また、仮に長期金利が上がらないとしても、それはデフレが長期化することを意味し、実体経済の悪化は一層長引き、新たな不良債権を生むことにつながる。
つまり、失業者を救い、消費減退を阻止するようなデフレ対策は、回り回って、また銀行の体力を奪い、経済を冷やす。債券市場における9月20日の10年物国債入札の「未達」も、その一つの予兆である。いま振り返れば、98年当時は、まだ銀行の資本力に余裕があった。いま同じように長期金利が1・7ポイントも上昇すれば、「いくつかの銀行は死に至る」(銀行アナリスト)。
銀行の破綻を避けるために、いくつかの銀行の一時国有化も検討されている。しかし、国有化によって破滅的なクラッシュは回避できても、「引き当てを厳正化する意味はあるが、市場もノーと言った銀行が生き残れば、しょせん国有化は問題の先送り」(同)でしかなく、先送りした分、近い将来、もっと大きなクラッシュを誘発する可能性を生む。
民間需要はすでに相当冷え込んでいる。8月の企業倒産による負債総額は1兆592億円で前年同月比44%増と、8月としては2000年に次いで戦後2番目のワースト記録になった(帝国データバンク調べ)。サラリーマンの給与所得は98年以降01年まで4年連続で下落しており、01年の7万円(1・5%)減少は過去最悪だ。8月の機械受注は前月比マイナス13・6%(船舶・電力を除く民需)と大幅な落ち込みとなり、企業の設備投資先送りが鮮明になっている。このように民間の「需要創出能力」は著しく落ち込んでおり、多少の経済対策では需要の「埋め合わせ」は期待できない。
世界経済も厳しい
今後、不良債権処理による「企業淘汰」で溢れ出る失業者を救い、そこから生じる所得の減少、消費の減退を、減税措置などでミスマッチなく埋め合わせることはできるのだろうか。それは「できない」と見る方が現実的だろう。しかも、世界経済全体も落ち込んでいる時に、大手術をしようというのである。
もはや日本経済は、株価下落もそこそこ、企業の大型倒産もなく、銀行経営も今の状態が維持される……といった、万事丸く収まったまま、次の回復過程に移行できる可能性はほとんどなくなったのではないか。
日本経済はこれから戦後最も苛烈な時期を通過しようとしていることを、マーケットは予見している。