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世界経済
Ready for a Role Change?
嫌われ者IMF必死の変身作戦
ロシアもアルゼンチンも救済できず
「役立たず」の烙印を押されたエリート集団が
自己批判も辞さない巻き返し策に出た
マック・マーゴリス(リオデジャネイロ)
リチャード・アーンズバーガー
自分の仕事が報われないと思う人は、IMF(International Monetary Fund:国際通貨基金)のことを考えてみるといい。
IMFは少し前まで、ピンストライプのスーツに身を固めた国際金融界の「火消し役」だった。経済危機の収拾のために世界中を飛び回り、称賛も受けた。だが、今のIMFは「怒りの対象」とほぼ同義語だ。ワシントンからIMFのエコノミストが乗り込んでくると聞くと、多くの国で政府当局と国民が一様に怒りだす。
南米諸国はIMFに侮蔑の念をつのらせている。アルゼンチンのロベルト・ラバニャ経済財政相は先週、同国の経済崩壊の責任の一端はIMFの無能さにあると非難した。本拠地ワシントンでも、大衆的人気を誇るとは言いがたい。IMF・世界銀行総会が開かれた先週末には、反グローバリズムの抗議デモで650人が逮捕された。
バンダナを巻き、サンダルを履いた活動家がグローバル資本主義に抗議するのは珍しくない。だが最近では、有力な銀行家やアナリスト、名門大学出身のエリートもIMF批判に加わった。ルーブル危機でロシアを「失い」、アジア経済危機では対応を誤り、貧困国には時期尚早の市場原理主義を押しつけた、というのだ。
保守系シンクタンク、ケイトー研究所の上級エコノミスト、イアン・バスケスは、IMFの伝統的救済策を「大失敗」と決めつける。
大物エコノミストのジョセフ・スティーグリッツも、著書『世界を不幸にしたグローバリズムの正体』の大半をIMFたたきに割いている。「IMFは他の誰にもできないことをした」と、スティーグリッツは本誌に語った。「左派と右派、先進国と途上国とを、反IMFで結束させたのだ」
批判のなかには、ひどい誇張もある。世界経済がエンストを起こし、アメリカの株式市場がずたずたの今、多かれ少なかれ痛い思いは誰でもしている。だが一方で、IMFの最も忠実な支持派さえ、世界経済を正そうとする試みは失敗だったと認めているのも事実だ。
支援しても貧乏なまま
中南米を見ればわかる。IMF主導の緊縮政策と市場改革を10年にわたって続けたあげく、多くの国が債務負担に苦しみ続けている。
ウルグアイの銀行は崩壊寸前だし、教科書どおりの規律ある財政政策で称賛されたブラジルも、いまだに危なっかしい投資先だ。8月には通貨レアルの暴落を防ぐため、IMFから300億ドルの巨額融資を受けている。
苦しんでいるのは中南米だけではない。IMFの報告書によれば、支援先44カ国は借金依存体質のまま貧困からはい上がれずにいる。
「IMFはもう長いこと成功に縁がない」と、ワシントンのコンサルティング会社G7グループの中南米アナリスト、アレックス・カザンは言う。「役に立たなくなったという見方が強い」
IMF側は、緊縮財政や金融引き締めによるインフレ抑制策など、基本的な処方箋は今も有効だと主張する。しかし一方では、外部からの批判に押される形で自らの政策の検証にも乗り出している。
IMFが設立した政策評価機関が先週発表した報告書は、自己批判にまで踏み込んでいる。救済策のいくつかは計画段階から問題があったことを認め、ときには「過剰に楽観的」だったり、「政治的配慮」による妥協もあったこと、変化への対応力が「不十分」だったことなども指摘している。
ホルスト・ケーラーIMF専務理事が9月に行った講演は、それでもかなり強気だった。中南米の問題は、改革の行きすぎではなく不足だったと彼は言う。だが同時に、「最近の経験を振り返ると、われわれの実績について謙虚にならざるをえない」とも明言した。
ケーラーはIMFの改革も強調した。その第一が「危機防止の体制を強化すること」。これは注目すべき政策転換だ。IMFは緊急支援機関から早期警戒機関に変わることになるかもしれない。その前提としてIMFは、加盟国が危機防止のための「緩衝措置」を整える手助けをするという。より柔軟な為替相場制の導入や債務管理の向上、社会保障の充実などだ。
国のための破産裁判所に
ケーラーはさらに、「動きの激しい国際資本への創造的対応策」を考えるよう世界の有力エコノミストに訴えた。とりわけ中南米諸国は、わずかなトラブルの兆候でもいっせいに逃げ出す投資家たちに、幾度となく苦しめられてきた。
融資に対する「選別」も強化するとケーラーは言う。これまでなら大統領一人がIMFの改革を支持すればすんだが、今後は国内の一致した支持が求められることになるだろうと、コンサルティング会社IDEAグローバルのアナリスト、アルベルト・ベルナルは言う。「一人では何もできない。IMFにとっては、もはや受け入れがたい選択肢だ」
いまワシントンで激論を呼んでいる最大の問題は、どこかの国が破綻したらどう対応するか、ということだ。IMFのアン・クルーガー副専務理事は、IMFがいわば国家のための破産裁判所になることを提案する。
国家に破綻の危機が迫った場合、IMFは債務国の返済義務を一時凍結し、国際的な合意に基づく新しい返済計画を立案。債務免除の交渉も仲介するというものだ。もっとも民間の投資家は、国家による借金踏み倒しが増えることを懸念している。
結局、一連の改革のねらいは過度の干渉をやめることだと専門家は言う。IMFの後ろ盾であるアメリカは長い間、大規模な支援さえ行えば世界の経済問題は解決できると考えてきた。だがロシアとアルゼンチンでの失敗の後、「そうした考え方は過去のものになった」とベルナルは言う。
IMFも柔軟性を示しはじめた。アジア危機以降、厳格で画一的な金融引き締め政策を放棄したのだ。基本が引き締めであることは変わらないが、今後は個々のケースに応じた政策を考えるという。
56年の歴史をもつIMFが、急激に変わることはないだろう。またそうするべきでもない。ケーラーは加盟国に出資金の増額を求めているが、IMFが多額の金を集めるということは、貸出額もそれだけ増えるということだ。それでは問題は解決しない、という話ではなかったのか。
アルゼンチン当局は
経済崩壊の
責任の一端は
IMFの無能さにあると非難した