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株価下落によって、銀行の経営体力はどこまで脆弱になってしまったのか。日経ビジネス誌は有力金融筋の協力を得て2002年3月期末からのTOPIX(東証株価指数)の下落率を基に、9月中間期末の大手7行の保有株評価損益を推計した。
9月30日終値の株価水準で大手7行の株式評価損の合計は、連結ベースで実に4兆700億円に上る。三井住友銀行の1兆2614億円を筆頭に、みずほホールディングスでも7966億円、三菱東京フィナンシャル・グループも6707億円に達する。
これはあくまで推計値にすぎない(例えば大和総研の推計では銀行全体で約3兆5000億円)。3月末の保有株を基に推計したため、各行が3月末から9月末の間に行った株式売却や、減損処理などは反映していない。ただ、実際には「株価急落でほとんどの銀行は保有株の売却を予定通り進められなかった」(準大手証券)だけに、各行とも保有株の評価損が3月末に比べ大幅に膨らんでいることは間違いない。
評価損が膨らめば膨らむほど、銀行が不良債権処理に回す資金の余裕はなくなる。
推計によれば、TOPIXが900ポイントを下回ると事態は深刻だ。各行が自己資本比率10%を維持しながら、今期に予定している2兆5000億円の不良債権処理を進めると、余裕資金は枯渇する。
TOPIXが750ポイントまで下がると、事態の深刻の度は著しく増す。中には不良債権処理の原資そのものを失い、自己資本比率8%を辛うじて維持する状態の銀行も現れる。保有債券などの評価損益にもよるが、不良債権処理を加速するのは無理な相談だ。
こうした深刻な状況の中で、竹中平蔵・新金融担当相がまず取り組むべきことは何か。それは「大口債務企業にメスを入れて、金融行政に対する市場の信認を取り戻すこと」(外資系証券アナリスト)だ。
●市場との認識のギャップ大
これまで株式市場は、不良債権問題に対する経済閣僚の見解の食い違いに振り回されてきた。柳沢伯夫・前金融担当相が金融再生委員長だった1999年9月に「日本の金融危機は、過去のもの」と発言していたことも市場関係者は忘れてはいない。その後、柳沢氏も金融庁幹部も「金融危機ではない」との認識を繰り返してきた。市場との認識ギャップは激しく、金融庁に対する市場の信認は地に落ちている。
その信認回復の第一歩は、巨額債務を抱える企業に対する査定を今以上に厳しくすることだ。市場原理を無視した銀行支援で温存された大口債務企業は、ゼネコン(総合建設会社)、流通など数多い。日銀は、融資先企業が生み出す将来のキャッシュフローがしぼんできている前提で、銀行が貸し倒れに備えて積み立てるべき引当金を算出すると、大幅な積み増しが必要になると試算しているという。
それに加えての株価下落。9月18日、日銀は先進国に例のない銀行保有株式の買い取りを発表したが、その理由をある日銀幹部は「金融庁の動きがあまりに鈍かったからだ」と、半ばやけ気味に語った。大幅な引当金の積み増しが必要という認識に立てば、せめて株式評価損の衝撃は和らげたい、と日銀が考えたのも無理からぬことだ。
新金融担当相に就任した竹中氏はもともと、不良債権問題に関しては日銀と認識を一にする。今後、資産査定の厳格化が実施されるのはほぼ間違いない。今回の内閣改造で、市場の信認回復の第一歩を踏み出したと言って良いだろう。
株価の下落、査定の厳格化によって、引き起こされる事態は明白だ。大口債務企業に対する不良債権が多い銀行の自己資本比率が、海外で業務展開するのに必要な8%を下回る可能性は高い。国内銀行に身を縮めて「4%銀行」にならなければ、公的資金の投入は避けられそうにない。
ただ、投入すればすべて片づくというわけではない。政府は98年に大手行への公的資本注入に踏み切ったが、この時、経営者責任は問わなかった。結果は散々たるもの。不良債権処理が進まなかったばかりか、銀行経営の効率化さえも達成できなかった。
●「RCCに企業再生能力なし」
再度、公的資金を注入する場合はこうした事態を避ける必要がある。具体的には、経営陣の刷新のほか、過去の資本注入で国が保有している優先株を普通株に転換する、「実質国有化」をちらつかせながら、銀行経営者に不良債権処理を半ば強制的に迫ることが必要になるかもしれない。
もっとも不良債権問題は銀行への公的資金注入だけでは終わらない。債務者企業をどうするのかという問題が残るからだ。6ページでも触れたように、8月初旬の民間エコノミストとの会食で、小泉純一郎首相は不良債権処理に関して、「産業と一体再生を目指す」との原則を披露した。
その後もこの原則に変化がないとすれば、産業再生の担い手が必要となる。今のところ担い手として有力視されているのは整理回収機構(RCC)だ。問題企業の査定を厳格化し、銀行に引き当てを積み増させたうえで、時価に近い実質簿価(簿価から引当金を引いた額)でRCCが債権を買い取るわけだ。これはRCCを事実上の「バッドバンク」にすることを意味する。だが、この構想には危惧する声も根強い。KPMGフィナンシャルの木村剛氏は「(住宅金融債権管理機構を前身とする)RCCは債権の回収機関としては機能しても、企業再生の能力はない」と言い切る。
ではどうするのか。市場機能を利用するしかないだろう。引き取った債権をそのまま投資家に売却したり、債務を株式化したうえで投資家や事業会社に売却するのである。「RCCが巨額の不良債権を買い取る場合は、その保有期間は短ければ短いほど良い」(中島精也・伊藤忠商事金融部門チーフエコノミスト)。その際に2次損失が出た場合は、公的資金で穴埋めするしかない。
政府が公約している不良債権の最終処理の期限は2004年度末。来年3月末までにその道筋をはっきりさせなければ、市場は再び株価下落で応えるだろう。小泉首相が掲げる構造改革も、経済が混乱したままでは実現不可能である。「不良債権処理なくして構造改革なし」。果たして小泉首相はその認識をどこまで強めているのだろうか。(田村 俊一、大豆生田 崇志)