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「"株価の沈鬱"日本は最先進国?」みずほ総研・眞壁氏
QUICKエコノミスト情報VOL.64みずほ総合研究所 主席研究員 眞壁昭夫氏 10/30
【景況判断】現状(3ヵ月前比):横ばい 先行き(3ヵ月後):やや悪化 GDP予測:2002年度▲0.2%(0.2%) 2003年度0.3%(0.5%)
【金 利】短期:ほぼ横ばい TIBOR3ヵ月 0.80% 長期:横ばい 10年物新発国債1.07%
【円 相 場】やや円高120円/1ドル
【株 価】株安 日経平均8,200円GDP予測値は実質GDP成長率、前年比%。カッコ内は直近10回分の平均値長短金利、円相場、株価は3ヵ月後(2003年1月末)の予測値
1.景気見通し:「先行き下振れリスクの増大」
足許の日本経済は、牽引役であった輸出の頭打ち傾向を受けて、回復のペースは鈍化している。アジア向けの中間財輸出は、依然好調を維持しているものの、半導体製造装置やIT関連部品には陰りが見え始めている。頼みの米国経済の減速傾向もあり、輸出は数量ベースで見ると5月をピークに横ばい状況だ。
国内の需要項目を見ると、いずれも停滞から抜け出せない。冬のボーナスカットや企業のリストラの動きなどから、所得・雇用情勢は今後一段と悪化すると見られる。それに加えて年度後半、保険料負担増などの要因もあり、国民負担は増加することが予想される。家計部門は、一段と厳しい状況に追い込まれるだろう。個人消費や住宅投資は、当面、低迷が続くと考えられる。また5月以降、軟調な株価動向が続いていることもあり、 このところ、企業経営者のマインドは慎重さを増している。設備投資にも大きな期待は出来ない。8月の機械受注が前月比13.6%と大幅マイナスになったことを見ても、今後、設備投資計画が減額、ないしは先送りになる可能性が高いと見られる。さらに、政府は緊縮財政を継続している。ここでも、デフレ圧力が働くことになる。景気の先行きに下落リスクが増大していると考えるべきだ。従来、日本経済は輸出が伸びると、輸出企業中心に業績が回復し、それによって設備投資増加・賃金の上昇を通して経済全体が上向く好循環のパターンが存在した。ところが 、現在、その循環がワークしなくなっている。それは、日本社会にあまりに多くの不確定要因が存在するため、それらのリスクに見合った高い期待収益率を期待することが難 しいからだ。だから、経済活動が盛り上がらない。有体に言えば、国全体が現在・将来に懸念を持っているので、今はとにかく何もしないで専守防衛に努めていると言える。こうした状況が続く限り、自律的に経済が回復する可能性は低いだろう。政策当局はそうした現状認識に立って経済を下支えし、不確定要因を一つずつ消去して、国民の不安感を払拭することが必要と考える。
2.金融環境:「心配な株価動向」
日本経済の現状を考えると、日銀の超緩和姿勢は変えようがない。短期金利は低位安定が続くはずだ。年末、期末要因で、多少短期金利が強含む局面はあるかもしれないが、大手企業の破綻など、予想外の大きなイベントが起こらない限り低位安定が続くだろう。長期金利は、潤沢な資金を背景にして、基本的に低下へのモメンタムが働き易いとみる。ドル/円の為替は、日本経済の下振れリスクなどから円安方向へ傾き易いものの、米国の政策当局としても国内景気を勘案すれば、一方的なドル高を容認することは難しいとみられる。当面、120円台のボックスの展開が続くと予想する。但し、米国経済の減速感が早期に顕在化したり、イラクに対する武力行使が現実味を帯びてくるようだと、ドルが売り込まれる可能性がある。リスクシナリオとして、頭に入れておくべきだ。
最大の問題は株価動向だ。株式市場は、不良債権処理に関する竹中ショックをほぼ織り込み、落ち着きを取り戻してはいるものの、株価は低迷状況が続いている。株価動向は、金融機関の経営に直接影響を与えると同時に、国民や企業経営者のマインド面にも大きなインパクトを持っている。今後も、株価の低迷が続くようだと実体経済に与える影響は大きい。日銀の株式買取計画発表でも、株価が上昇したのは一時的で、株式市場の心理状況が悪化していることは顕著だ。また、米国を初めとする世界の主要市場が、不安定な展開になっており、株価の下落が世界的な金融市場の混乱に繋がる可能性も否定できないだろう。特に、日本の株式市場では、政府のデフレ対策が市場の期待を裏切るようだと、一段の株価下落の可能性が高まる。今後も、株価動向には十分な注意が必要だ。
3.注目点:「必要な政策転換」
90年の冷戦構造終焉以降、世界経済はデフレ・ディスインフレ傾向に直面している。最近は、その傾向が進展していることもあり、主要国の株式価格は不安定な展開を続けている。資本の蓄積が進み、個人や企業が資本市場との関与を強めている現在、株価の低迷は経済活動に大きな影響を与える。株価下落が実体経済に下押し圧力を及ぼし、実体経済の悪化が株価を押し下げるスパイラル的な動きも見え始めている。デフレの先進国である日本では、バブル崩壊との相乗効果で、典型的なデットデフレの中に落ち込んでいる。
世界経済を取り巻くデフレ圧力は、冷戦構造の終焉による生産能力の増大と、安価な労働力を擁する旧共産圏諸国の世界経済への参加という、二つの大きな構造的変化によるところが大きいと考えられる。構造変化であるため、小手先の弥縫策では対処が難しい。
その悪循環を阻むために、二つの方策が直ぐに頭に浮かぶ。一つは技術革新だ。技術革新によって、人々の購買力を刺激するような新商品が出てくれば、新しい有効需要を創出することが出来る。また、その技術力が世界各国に広がるまでは、相対的に高い労働力を使っても主要国が競争力を維持することが可能だ。労働力という生産要素の価格収斂の方向性を、一時的にでも押し止めることが出来る。
もう一つは、相対的に高い賃金水準の日米欧などの主要国で、賃金水準を下げることで新しい価格体系を作る。つまり、現在の価格体系を一度御破算に賃金を下げ、低い労働賃金を基準にした新しい価格体系を作り直すのである。これは、賃金水準の低下、それに伴う生活水準の下落という痛みを伴う。この痛みは、人々にとっては、かなり深刻な問題になるだろう。
その痛みを和らげる方法がある。それは、今までの物質的な価値観を変えることだ。つまり、より多くのものを作って、それによって豊かさを実感するのではなく、余暇など人生のクオリティーの向上により大きな価値を見出すのだ。この新しい価値観によって人々は、ある程度、生活水準の低下を痛みと感じなくて済む。ガルブレイスは、そうした新しい価値観を持った経済社会を作る候補として、日本を挙げている。日本は世界の最先進国だというのだ。光栄なことである。
<眞壁昭夫氏略歴>
1953年生。76年一橋大学卒、第一勧業銀行入行。83年ロンドン大学経営学部大学院終了。
メリルリンチ社ニューヨーク本社出向、第一勧銀総合研究所金融市場調査部長、同主席研究員などを経て、2002年4月から現職。主な著書・論文「図解これ以上やさしく書けない金融」(PHP研究所、2001年9月)、「資本コストの理論と実務」(東洋経済新報社、2001年2 月、共著)。東洋経済「統計月報『エコノミスト・コンセンサス』」、週間東洋経済「マーケ ットLINE UP」、村上龍「JMMメールマガジン」、などのコメンテータ。