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「信用創造」を担っている銀行の不良債権問題に焦点が当てられているが、銀行は金融緩和政策でなんとかしのいでいくこともできるのに対し、生命保険会社は、経営を大きく転換しなければ存続できない状況に置かれている。
デフレという経済状況は、銀行にとって、不良債権問題をクリアさえすればとてつもなく悪いというものではない。
貸し出し金利>預金金利は“普遍的法則”であり、「信用創造」という詐欺も公認されているし、年間100兆円を超える国債の発行もあるので、自己資本を実質ベースで増殖させることができる。
しかし、日本の生保にとってデフレは、これまでの経営を否定する大災厄なのである。
生保で問題になっているのは“逆ざや”だが、この事象は、デフレが一過性でない限り、生保に商品構成の根底的見直しを迫るものである。
生保の商品構成はインフレ経済を基礎としたものであり、商品が持つ貯蓄性格を説明することで契約金額残高を伸ばしてきた。
しかし、インフレ経済では格好の資本増殖(利益拡大)手法であった貯蓄型生保商品が、デフレ経済では、自分の首を絞め、地獄(破綻)に引きずり込むものに変身している。
● 生保の資金運用手段
生保は、銀行のような「信用創造」はできないが、貸し出し・不動産投資・株式投資・民間債券投資・国債投資など保険料を原資とした幅広い資金運用を行ってきた。
しかし、現在安定的に運用できるのは国債投資と優良企業債券だけと言っても過言ではない状況にある。
生保は、銀行とは異なる性格の金融機関でありながら、不良債権・保有株式価格下落・保有不動産賃貸料ならびに資産価格下落という同じ問題を抱えている。
銀行はそれほど長期の定期預金はないが、生保は、過去に契約したものについては、30年など数十年にわたって契約時点で約束した予定利回りを保証しなければならない。
長期の貯蓄型商品であれば、現在でも2%を超える利回りをうたわなければ契約金額を増大させることはできないだろう。
10年長期国債の利率は1.5%未満であり、安定的な資金運用先のメインが国債であることを考えれば、生保は、“短期”的には「持ち出し奉仕」を行う慈善団体になっていると言える。
● 生保の経営を支えてきたもの
私の経験を話すと、子供のとき親が生命保険の契約を行っており、満期を迎えた30年後に30万円を受け取った。
契約した子供のときの初任給は3千円くらいだから、30万円というと、6〜7年分の年収に匹敵する大きな金額である。当時は、「100万長者」という言葉が生きており、100万円で住宅も買えた時代である。
しかし、受け取ったときの初任給は15万円くらいだから2ヶ月分の収入に相当する金額であり、それを3倍しても住宅購入の頭金にもはるかに及ばない。
生保は、保険料として受け取ったお金をそのまま銀行に預けていたわけではなく、前述したような投資を行って価値の極大化を図ったはずである。
ご存じのように、90年まで、不動産や株式の価格は一般物価を上回る上昇率である。
ここまでは極端ではないとしても、保有する賃貸ビルの一室をつくる金額を受け取って、満期のときにはその1ヶ月分の賃貸料を支払えばいいという構図である。
もう一つの支えは、高度成長期及び安定成長期を通じての契約金額の増大である。
戦後のその日暮らし生活から、生活の安定化を経て、将来の生活設計を考える余裕を多くの人が持つようになった。
これも極端に言えば、満期になった人への払い戻しは、契約金額の純増で賄えるということを意味する。満期になった人々の保険料を原資にして投資した株式や債券そして不動産を売却しなくても支払えるというのは大きな強みになる。
日本の生保は、インフレと国民所得の実質的増加に支えられて成長してきた。
● 生保が陥っている地獄
生保が受け取った保険料を運用している投資対象は、株式が20年前近くの価格まで下落し、商業不動産が90年に較べて価格が1/3まで下落し、融資にも不良債権が生じ、債券投資のみがかろうじて収益を生んでいるという状況にある。
バブル崩壊後本格的な営業を始めた外資生保なら、株式市場が下落傾向にあれば、「空売り」で利益を上げることもできるが、バブル崩壊前から株式を保有し続けている日本の生保は、そのような自分の首を絞める取引はできない。(保有株式を貸して、自分の首を絞めている生保も多いようだが...)
生保の契約金額残高も、「デフレ不況」のなかで、増加するどころか解約者の増加で減少の一途を歩んでいる。
契約金額 純増加額
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95年 2139兆5315億円 54兆8463億円
98年 1909兆2754億円 −59兆5563億円
99年 1859兆8821億円 −49兆3933億円
02年 1145兆6610億円−714兆2211億円(対99年)
5%や2%を超える予定利回りを約束しながら、運用難に陥っているだけではなく、運用資金(保険料収入)まで細っている。
「デフレ不況」が継続する限り、契約金額残高が減少することはあっても増加することはない。
生保は、銀行のように預金の運用に困っているのではなく、解約者・満期者への払い戻しや死亡者などへの保険金支払いの資金を手当てするために、保有金融資産を売却しなければならない状態に陥っている。
売却資産が国債であれば打撃を受けないが、株式であれば株価の下落につながって保有株式の価値を毀損することになる。かと言って、自分のところが株式を売却しなくても、銀行が保有する株式を売却したり、資金手当てに苦しんでいる生保が売却することで、株価は下がる。売却するのも地獄、保有し続けるのも地獄という有様になっている。
さらに付け加えれば、「デフレ不況」の長期化によって、統計学的に想定していない死亡保険金の支払いが生じている。
年間1万人を超えると言われている経済苦による自殺者の増加である。
生保は、資金の運用に窮しているだけではなく、契約金額の減少に悩み、経済苦のよる自殺者の保険金支払い増加で打撃を受けるという状態にある。
● 生保が生き残る道は「掛け捨て保険」のみ
デフレが継続するとしたら、これまで説明してきたことからわかるように、生保が「貯蓄型保険」を売り続けるのは無謀である。
高利を約束してひとから預かった資金を運用してそれで利益を上げるという経済条件はないのだから、これまでメインの商品であった「貯蓄型保険」は、慈善事業になるか、自分自身を破綻に陥れるものになる。
生保が生き残れる道は、損保がそうであるように、本来の姿であるリスクを統計学手法で見極めて保険料と保険金を設定した保険商品の販売に特化することだけである。
政府は日本の保険会社は全部破綻してもいいと考えているフシもあるが、これまでに積み上げられている「貯蓄型保険」は公的債務と同じ性格のものであるという認識で早急に対策を講じなければ、生保の破綻だけでは済まず、国民の金融資産を大きく毀損することになる。
とりあえず銀行は何とかしのげるのだから、まずは二進も三進もいかなくなっている生保問題にきちんと取り組むべきである。
株価や地価が上がればなんとかなるとか、デフレ不況がいつまでも続くことはないなどと高を括っていれば、時間の経過とともに生保=国民資産の傷口はどんどん広がることになる。