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激震 竹中リポート(中) ◆大規模な貸しはがし懸念  【読売新聞】 投稿者 招き猫 日時 2002 年 10 月 29 日 10:22:29:

http://www.yomiuri.co.jp/atmoney/special/28/saiken65.htm

◆大規模な貸しはがし懸念
 
「突然のルール変更がなされれば、銀行の信用創造機能に対する大きな制約要因となり、深刻なクレジット・クランチ(信用収縮)を引き起こしかねない」

 25日夜、大手7銀行・グループのトップは、竹中経済財政・金融相が検討している不良債権処理の加速策に反対する異例の共同声明を発表した。声明に盛り込まれたこの言葉を、銀行側の単なる“脅し文句”と受け流してはいけない。


 民間のエコノミストの間でも、「竹中報告」の危険性を指摘する声が強くなっている。野村総合研究所のリチャード・クー主席研究員は「とんでもない貸し渋りが起こる。本来の目的である不良債権処理の加速も実現しない。百害あって一利なしだ」と厳しく批判する。

 竹中氏が主宰する金融庁のプロジェクトチームは、「日本の銀行の自己資本はかさ上げされている」という木村剛・KFi代表の主張を全面的に取り入れ、経営の健全性を測る指標の自己資本比率(注)の計算ルールについてアメリカ並みの厳しい方式を採用する方向だ。

 こうしたルール変更が実現した場合、英系HSBC証券の推計によると、今年9月末の大手8銀行・グループの自己資本比率は平均で10・1%から5・3%に一気に低下する。ほとんどの大手行が海外業務を展開する上で必要な自己資本比率の最低ライン「8%」を下回る。

 金融機関の多くはルール変更で自己資本が低下した分の穴埋めを自力増資でまかなうのが難しいため、金融庁から公的資金の受け入れを迫られる。しかし、金融機関は経営責任の追及を恐れて公的資金の注入を拒否し、自己資本比率のアップに死にもの狂いで走り出す可能性が強い。残された比率アップの近道は、自己資本比率の分母である貸出残高を圧縮することだ。

 その結果、金融機関は貸し出しを抑制する「貸し渋り」、貸し出し資金を回収する「貸しはがし」に猛然と突き進むことになりかねない。

 民間シンクタンク、日本総合研究所の試算は、戦慄(せんりつ)すら覚える予測を導き出している。

 「竹中報告が実現すれば、4大メガバンクだけで最大約93兆円に上る貸しはがしを引き起こす恐れがある」――貸しはがしの規模は国の一般会計予算(今年度約81兆円)を上回る。それによって、332万人の失業者が生まれ、実質国内総生産(GDP)も6・4%減少する、とはじき出す。

 金融システムの正常化を目指す不良債権処理の加速策が、大規模な信用収縮を引き起こせば、それこそ「金融恐慌」を誘発しかねない。

◆邦銀、海外撤退に拍車も

 実は、金融機関による貸し出し圧縮の動きはすでに始まっている。

 金融庁は18日、UFJ、あさひの両銀行に対し、中小企業向けの融資額が計画に達していないとして、業務改善命令を出した。過去の公的資金注入の際に約束した中小企業向け貸し出し計画に比べて、UFJが2兆5000億円、あさひが1兆4000億円それぞれ下回った、という理由からだ。

 経営基盤が弱い中小企業は、貸し倒れに陥るリスクが大きい。不良債権を一掃するように迫られる結果、経営の安定した大企業への貸し出しに傾斜するのは、銀行にとっては当然の行動に違いない。「不良債権の処理を加速させながら、中小企業にどんどん貸せと言われても無理だ」(大手行中堅幹部)というのが金融界の本音だ。

 全国銀行の貸出残高は42か月連続で減少しており、9月末には前年同月比5・3%減と過去最大の減少率を記録した。貸出残高はピークだった97年12月末(491兆円)よりも約64兆円も落ち込んでいる。

 大きな理由は、デフレ不況の長期化で企業の資金需要が縮小していることだが、金融機関による貸し出しの圧縮もかなり影響している。

 一方、大手銀行の間では、「公的資金を受け入れて国有化されるよりは、海外業務から撤退した方がましだ」との声までささやかれている。

 海外支店を閉鎖して海外業務から撤退すれば、国内業務だけの銀行に適用される自己資本比率の最低基準「4%」をクリアすればいい。ルールが変わっても、海外から撤退すれば、大手行は公的資金の注入を避けることができる。

 大手銀行12行のうち、都市銀行では大和、あさひの2行が、信託銀行では中央三井信託、UFJ信託、みずほアセット信託の3行がすでに海外業務から撤退している。これらの銀行は不良債権の処理で財務的に余裕がなくなり、撤退に追い込まれたと受け止められている。

 邦銀の海外支店による貸出金は、97年には80兆円前後に達していたが、現在は20兆円余りと4分の1に縮小した。邦銀の海外撤退に拍車がかかれば、日本の企業は海外での資金調達に大きな制約を受け、海外進出にブレーキがかかりかねない。

 海外に工場など118拠点を抱える東芝の島上清明副社長は「邦銀からは、いろいろな意味でサポートを受けている。その邦銀が海外からさらに引き揚げれば、悪影響を受けるだろう」と懸念する。竹中報告が邦銀を海外撤退に追い込めば、国際競争力の低下に苦悩する日本企業に致命的な打撃を与える恐れが強い。(経済部 林田 晃雄)

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