現在地 HOME > 掲示板 ★阿修羅♪ |
|
日経金融新聞
\5,036/1ヶ月 (内消費税\239-)
http://www.nikkei4946.com/
破たん危機、消費者に不安
今年七月、ドイツ中北部のデトモルト市に本拠を置くファミーリエンフュアゾルゲ生命保険に、大手コンサルティング会社の保険計理士ヴォルフスドルフ氏が特別経営代理人として派遣された。ドイツの監督当局である金融サービス監督庁の依頼を受け、経営状態が悪化した同社の経営を担うためだ。大幅な株安で保険会社の保有株に軒並み含み損が発生、業界に危機感が強まっていた真っただ中のことだ。
◎ ◎
監督庁が生保を強制管理下に置いたのはこれが初めて。経営書類に目を通したヴォルフスドルフ氏は「監督庁はちょうど良いタイミングで介入した」と言う。「早すぎれば市場にいらぬ不安感を与え、遅すぎれば経営破たんを回避できなかった」からだ。
フュアゾルゲはここ三年間で株式の運用比率を一七%から二五%に引き上げていた。この戦略が裏目に出て、株安による損失の拡大が経営悪化の主因になった。保険契約数約三十万件にすぎないこの生保の状況は、決して特異なものではない。
業界中堅のハノーファー生命保険。破たんの危機がささやかれる保険会社のひとつだ。これまで運用収益の顧客還元率の高さが評判だったが、市場環境の悪化で、積極的な益出しが含み損の発生につながり財務基盤を疲弊させているもようだ。
この夏、格付け会社スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)が「投機的」を意味するシングルBに格下げしたことも「危機説」に拍車をかける。監督庁との意見対立で社長と役員一人が今月末での辞任を決めるなど、経営も揺らいでいる。
生保業界全体の二○○一年の株式運用比率は二六・六%と過去最高の水準だった。一九九〇年代後半の株ブームに乗って、それまで慎重な投資戦略をとってきた独保険業界が株式運用に積極的になった。その反動は昨年の米同時テロ後の株価急落で一気に吹き出した。
ドイツ商法の規定では、運用資産は決算日の市場時価を基準に評価損の計上が義務づけられている。政府はテロ後にこの基準を緩和、時価が簿価を下回っても、それが一時的だと判断されれば損失処理しなくてもよいことにした。株安で発生する評価損を穴埋めするために、生保が株式売却を加速させるとの懸念が強まったからだ。背景には株価の悪循環的な下落を断つ狙いがあった。
ところが期待した株価回復はやってこない。逆に一段安となり、ドイツ株価指数(DAX)は五年ぶりの安値を付けた。七月末、S&Pは独生保を一斉に格付け注視リストに載せた。
◎ ◎
今月初め、独会計監査人連盟が運用資産の含み損の処理基準を決めた。決算日までの六カ月間に株価が簿価を持続的に二割以上下回っていた場合、償却義務が発生するという米国方式が提案された。裁量的な先送りはできなくなるものの、必ず期末の時価で処理しなければならなかった旧来の基準に比べれば緩い。最大手のアリアンツやミュンヘン再保険傘下のビクトリア生命保険など体力のある保険会社もこの措置を歓迎している。
生保業界が資金力の消耗以上に恐れるのは、確実な蓄財商品としての生命保険への信頼が損なわれることだった。「最低保証利回り三・二五%」を確保できない生保は一社や二社ではないという市場観測が、消費者の不安をあおっている。
経営難に陥った生保に代わって保険契約を履行する「保険保証機関」の設立が進んでいる。独保険連盟に加盟する約百二十の生保は、「プロテクター」と命名される受け皿会社の年内発足で合意。救済の場合、最高約五十億ユーロ(約六千百億円)を保証する。これで「最後の受け皿」(連盟広報)は整う見通しだが、生保の経営改善が進むわけではない。
持ち合い株式など保有株の重圧にあえぐ銀行ばかりではなく、保険会社も株式市場の回復を祈っている。これ以上の株安はドイツ金融界の存立を揺るがしかねない。
(フランクフルト=
宮本弘美、磯山友幸)