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イラク攻撃と金市場〜ユニラテラリズム。
一般に「単独行動主義」とか「自国利害中心主義」といった日本語訳で紹介されている言葉である。そしてブッシュ共和党政権が登場した後の米国の外交政策を包括的に指し示す言葉として知られている。具体的には、地球温暖化防止のための二酸化炭素など温室効果ガス排出を制限した「京都議定書」からの離脱、また「包括的核実験禁止条約(CTBT)」の批准拒否、最近では、国際社会にとって非常に深刻な罪を犯した個人を国際法に基づき訴追し、処罰する「国際刑事裁判所」設立規定の批准拒否など、国際協調行動には一線をおいた米国の行動パターンを表すものとして使われる。「国際ルールに縛られない米国」「米国は例外」など、その言わば“我がまま”振りが、欧州を中心に批判の的にもなっているわけだ。
そしていま足元で注目されているのが、イラク攻撃にかかわる国連決議の行方である。
以前から国連決議によらぬ単独攻撃の可能性を示唆する発言が、ブッシュ政権主要閣僚(特にタカ派とされるチェイニー副大統領や国防総省関係者)から続いていたこと、また先月20日には「国家安全保障戦略」が発表され、「必要ならば単独で行動」し「先制して自衛権を行使する」として名実ともに、その可能性を示していたためだ。ただし、さすがに国際世論の風当たりは強く、「査察」問題の扱いを中心とする安保理事会を前にしての水面下の交渉では、米国側が譲歩する形(強行姿勢の緩和)で「イラク修正決議案」は合意に向かっていると報じられていた。構図としては、査察にからみ小なりとも疑義があれば自動的に武力行使に移行できるという米英と、あくまで攻撃はそのための新たな国連決議が必要であるとする仏、中、ロ3カ国の意見対立である。
それが22日の段階で、イラク「修正」決議案が、文言は「修正」されてはいるものの、内容は変わっていないことが判明したとして、再び紛糾することになった。
報道の流れをみていても、メディア自体が翻弄されているのが感じられるのだが、それほど大国同士の激しい駆け引きが演じられているのである。そこには、石油を中心とした資源や地勢学的な利害の対立がある。急浮上した北朝鮮核保有表明という問題もあり、まだ、まだこの問題は、二転三転がありそうだ。
仏に代表される欧州サイドの弱みは、1999年のコソボ紛争に際し、NATO(北大西洋条約機構)軍が、国連決議なしにユーゴスラビアを空爆したという事実である。この際は、過去の安保理決議のいわば拡大解釈により正当性が主張された。したがって、米国サイドも湾岸戦争当時の取り決めを持ち出し、押し切るとの見方がある。明25日には、ブッシュ大統領がテキサスの自邸の牧場に江沢民主席を招いての米中首脳会談が予定されている。根回し外交が続くが、26日からメキシコで始まるAPEC(アジア太平洋経済協力会議)に際してのプーチンロシア大統領との米ロ首脳会談の予定の方は、モスクワでの不測のテロ発生で流れてしまった。中心議題にイラク、北朝鮮核保有問題が座っているので、この階段で予定が流れたことが、また次の新たな政治上の流れにつながっていくのだろう。ひとつひとつのイベント(事件・事故)の発生とその相互作用のなかで、事態は微妙に変化しながら進展してゆく。
そうした情勢の変化を映し出すのも、金市場の特徴である。
このところ金市場は、国内価格の方こそドル円相場の値動きにしたがい多少の値動きを見せているが、海外価格(ドル建て)の方は、310〜325jのレンジ相場を続けている。ただし、その中心的価格は、320j近辺から310jの攻防戦というふうに切り下がってきた。
この背景に、NY市場でのファンドの「買い」から「売り」、「売り」から「買い」、そしてまた「売り」という振り子のような投資スタンスの変更がある。そして、それらは国際情勢や株価の動向などから決断され、実行されている。
過去何度か取り上げた米商品先物取引委員会(略してCFTC、米証券取引委員会SECと同列の政府組織)が毎週末公表している取引状況(売り、買い、それぞれのポジションの状況)が、その動向を探る手がかりとなる。それによると、NY市場では、7月最終週に大幅買い越し状態から一気にスクェア(売り買い拮抗)になっていたファンドのポジションが(この間に金価格は高値330jから瞬間300j割れまで下落)、8月中旬以降の、米国政府の対イラクテンションの高まりに呼応する形で「買いポジション」が積み増しされていた(価格は再び330j近くまで上昇)。そして直近のピークは、10月1日時点の42,702ロット(重量換算約130d)で、5月から6月にかけての年初来のピークに迫る規模まで膨らんでいた。それが現時点で手に入る最新データによると、10月15日時点で15,914ロット(同約50d)にまで減少している。
これはファンドが、9月から10月にかけての対イラクテンションの高まりとNY株の急落のなかで買い進んだものを、その後の株価の戻りとブッシュ政権の対イラク攻撃の国際協調路線への歩み寄りを受けて、一転して「買いポジション」を手仕舞い(決済を意味する言葉で、この場合「売り」を意味する)始めたことを示している。この「売り」によりこの間の金価格は、取引時間中の高値329.3jから安値313jまで下げることとなった。そしてその後も、この調整売りは進んでいると思われ、今週末発表予定の数値は、さらに整理が進んでいることを示すことになりそうだ。いま足元で市場参加者が注目しているのは、その整理進捗過程で価格はどの程度持ちこたえられるのか、という点である。ひとつの目安として具体的には、現在、金価格の200日移動平均線が、309.40jに位置しており、それを下回るか否かということが焦点となっている。というのも、年初からの価格推移の中で、下げ局面でも同平均線を下回ったことがないのである。ファンドのここまでの動向は、買いは手仕舞いこそするものの、売り越しに転じる状況にはないため(カラ売りをするほど金価格は下げるとは思っていない)、維持できれば、次の「買い」の流れのなかで、価格は310j近辺をスタート台とした新たな展開が期待できるというわけだ。そうした面で、短期売買を主体とする投資家の関心が、ここ1〜2週間の価格展開に向いているのである。(10月24日記)
金融・貴金属アナリスト
亀井幸一郎