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先日発表された実質GDPは半期ぶりのプラス成長となりました。これを景気回復初期の状況だと分析する声もありますが、日本が自律的景気回復に移行するための必須条件とは何なのでしょうか?
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8月30日に公表された4〜6月期の実質GDP(季節調整済み)は前期比0.5%増と5四半期ぶりのプラス成長となりました。(注1)
需要主体別の寄与度をみると、民間需要が同+0.1%ポイント、公的需要が同+0.1%ポイント、海外需要が同+0.3%ポイントとなりました。4〜6月期の特徴は、海外需要の大幅な増加が景気の牽引役を果たしていることに加えて、民間需要がプラス寄与に転じたことがあげられます。個人消費(前期比+0.3%、寄与度+0.2%ポイント)が昨年末から堅調に推移していることに加えて、設備投資(前期比▲0.5%、寄与度▲0.1%ポイント)も減少傾向にはありますが、そのマイナス幅は縮小しています。大幅な輸出の増加が生産の増加をもたらしており、景気回復初期の状況にあることは間違いないようです。
こうした景気回復の動きが、今後「企業収益増→家計所得増→設備投資増・個人消費増」へ波及していくことが期待されます。日本経済が自律的回復に移行していくためには、なかでも設備投資が力強く増加していくことが必須条件となってきます。しかしながら、以下の3つの理由により設備投資の力強い拡大は見込み難いと考えられます。
1点目が、米国経済に先行き不透明感が増す状況下、輸出に牽引された景気回復が持続可能かどうかという点です。99年から2000年にかけての景気回復局面と同様、昨年末以降の景気回復局面も輸出に依存したものです。今後の輸出増加に確信がもてない中では、たとえ、生産が足元増加していても、企業は設備投資をすぐに増やそうとはしないでしょう。
こうした状況を足元の統計で確認すると、設備投資の先行指標となる「船舶・電力除く民間機械受注(注2)」(6月前年比▲7.6%)や「民間建設工事受注(注3)」(7月前年比▲16.1%)はいずれも底ばいの状態を脱しきれていません。また、「日銀短観(6月調査)(注4)」などのサーベイ調査においても、企業の今年度の設備投資計画(全産業・全規模、前年度比▲5.1%)は前年度比マイナスの計画となっています。
2点目は、期待成長率(ここでは企業が予想する今後の経済成長率とする)の低下、つまり、企業が日本経済の短期的な先行きだけでなく、中期的な先行きに対しても悲観的であることです。今年4月に公表された内閣府の「企業行動に関するアンケート調査(注5)」によると、企業が予想する実質経済成長率は単年度の見通しでマイナス0.4%、今後3年間で0.6%(年平均)、今後5年間で1.2%(同)といずれも1986年度以降最低の水準となっています。こうした需要動向の中期的な将来予想も設備投資の回復を弱くする要因として作用していると考えられます。
3点目は生産拠点の海外移転の問題です。生産拠点の海外移転がさらに進行すると、その分国内への設備投資を減少させる要因となります(生産拠点の海外移転はプラント輸出に伴う資本財や生産財の輸出増加、直接投資収益の増加などのプラス効果もあり、こうした様々な要因も含めてネットで考える必要があります)。とりわけこれまで日本が得意としてきた低コスト大量生産型の産業は、人件費など生産コストが低く、かつ、生産する製商品の市場拡大が続いている地域へ移転せざるを得ないのではないかと考えられます。
このように、短期的な需要動向の不透明感に加え、企業の中期的な需要動向に対する悲観的な見方などが設備投資の増加を小幅かつ短命なものにしていると考えられます。こうした状況から抜け出すためには、企業による事業の再構築、それを助けるための金融資本市場の整備(リスクマネーの供給)など前向きの投資に向かえるような取り組みを、民間、政府ともに早急に行っていく必要があると考えられます。
(注)本文中に出てくる統計・資料については以下のウェブ・サイトで閲覧できる。
1 http://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/toukei.html#qe
2 http://www.esri.cao.go.jp/jp/stat/juchu/0206juchu.html
3 http://www.mlit.go.jp/toukeijouhou/chojou/index.html
4 http://www.boj.or.jp/siryo/siryo_f.htm
5 http://www.esri.cao.go.jp/jp/stat/h13ank/main.html
電力中央研究所 主任研究員 林田 元就