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日銀が銀行保有株の買い取りを決定し、１０年物国債が未達になるなど最近の日本経済には「まさか」なことが多い。このままマーケットの恐ろしさが「まさか」襲ってくる、こともあるのでご用心！
いまさらではあるが、先週は「まさか」と思われる出来事がいろいろと起こった。政治での「まさか」は、金正日総書記が日朝首脳会談の席上で日本人拉致問題を公式に認めたこと。そして拉致された１１人のうち６人がすでに死亡しているという発表だ。日朝首脳会談前、北朝鮮は日本人拉致疑惑に関する情報を小出しすることで日本側の譲歩を引き出す作戦に出ると思われていただけに、金総書記自らが拉致疑惑を認め、拉致された日本人の安否情報も公開したことは予想外だった。
債券市場の「まさか」は、日本銀行の銀行保有株式買い取りの発表と、１０年物国債入札での札割れの２つ。先週１８日に日本銀行は、大手銀行などが大量に保有している株式を直接買い取る方針を決めた。報道によると、日本銀行は、大手銀行から１、２年程度かけて上場株式を時価で４兆円ほど買い取るようだ。通貨の番人である中央銀行が、銀行から民間企業の株式を買い取るなど、通常の金融政策では考えられないことが実施されようとしている。
日銀ショックの翌々日の２０日、１０年物長期国債入札が、価格競争入札分１兆３５００億円に対し、応札額・落札額はともに１兆１８５２億円と、応募額が入札枠に満たない未達（札割れ）になった。１０年債は、流動性が高い債券の代表銘柄の一つであり、ここ数年の運用難もあって人気は衰えることがなかった。そんな状況の中、未達が発生したということで、マーケットの狼狽はすごかった。金利は前日終値の1.180％から一時は1.305％まで急上昇（債券価格は下落）した。
政治・経済両面で「まさか」な状況が続いただけでなく、小泉首相が米国ブッシュ大統領に不良債権処理の促進を明言したこともあり、連休あたりから日本政府の金融政策が転機を迎えたとする報道もでてきたようだ。こうした報道は、日本経済の閉塞感にイライラしてきた投資家にとって嬉しいものかもしれない。しかし残念ながら、これをもって金融政策が劇的に変化するとは考えにくい。政府・日銀はどちらも、不良債権処理に不可欠なインフレ誘導策と企業・金融機関の淘汰を否定しているからだ。
今月３０日には内閣改造が予定されているほか、１０月には衆参補欠選挙が控えている。ここで大幅な内閣改造や、補欠選挙大敗による政権交代といった事態が生じなければ、政府がインフレ誘導策に転換する可能性はない。いまのところ小泉首相は「一内閣一閣僚」にこだわり、塩川財務相や竹中経済財政担当相を留任させる意向を持っている。民主党代表選挙で鳩山氏が勝利したことを考えると、民主党が衆参補欠選挙で議席を大きく増やすことも難しいだろう。日朝首脳会談の結果を受けて、内閣支持率は下落どころか上昇している。結局、小泉政権が続き、今のように緊縮的な財政運営が続けられ、先行減税の大型化や大規模な財政出動は実施されないことになる。
不良債権処理を進めていけば、経営難に陥っている企業や金融機関は淘汰されることになる。しかし、ペイオフ全面解禁の実質延期や、日銀の銀行保有株式買い取り決定をみればわかるように、政府・日銀は企業・金融機関の淘汰をむしろ回避している。地方ほど経営難に陥った企業、金融機関が多いなか、来春には統一地方選挙を控えているだけに、政府・与党は地方経済に悪影響を及ぼす政策はとりづらい。公的資金の活用も視野に入れた不良債権処理も検討されているようだが、国民負担の問題もあることから、大規模な公的資金注入にはいたらないだろう。
中央銀行が「まさか」な政策を発表し、人気があるはずの１０年物国債が「まさか」未達になるなど、日本の経済・金融システムの動揺は著しい。投資家が日本を見る眼は外国人を中心に一段と厳しくなっており、実際、ドル円レートは121円台から124円台にまで円安が進んだ。日本の実体経済はマクロの経済指標をみる限り回復基調を続けていると言えるが、もし頼みの実体経済まで腰折れるようであれば、マーケットは激しい日本売りを仕掛けてくるだろう。来週月曜日（３０日）には８月の鉱工業生産が発表される。予測指数によると８月の鉱工業生産は前月比＋4.5％だが、これを大きく下回るようだと、マーケットが日本経済を「まさか」襲うこともありうるので注意したい。
マーケットエコノミスト 秋新作
提供：株式会社ＦＰ総研
題名には必ず「阿修羅さんへ」と記述してください。