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地方空港の滑走路延長は本当に必要なのか 投稿者 たにん 日時 2002 年 9 月 19 日 20:35:27:

2002年09月19日発行 第210号 論説
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 ■■■    日本国の研究           
 ■■■    不安との訣別/再生のカルテ
 ■■■                       編集長 猪瀬直樹

「空港の整備等に関する行政評価・監視結果報告書」を読む
         ――地方空港の滑走路延長は本当に必要なのか:第2回


〔中部国際航空における『費用対効果分析』の不思議〕

●第5の第一種空港、計画の発端と経緯

 わが国には現在、第一種空港が4つある。羽田(東京国際)、成田(新東京
国際)、伊丹(大阪国際)、関空。これに加えて、平成17(2005)年には中部
国際空港が仲間入りする。

 まず、その計画の発端と経緯を「数字でみる航空 2001」(運輸省航空局監
修 航空振興財団発行)の記述をもとに、簡単にふりかえる。

 昭和60(1985)年12月に岐阜、愛知、三重の3県と名古屋市および地元経済
界により(財)中部空港調査会が設立され、空港の設立に向けての調査が始まっ
た。4年後の平成元(1989)年には候補地を伊勢湾東部海上とすることで合意。
平成8(1996)年には、第七次空港整備五カ年計画の閣議決定で「中部圏にお
ける新たな拠点空港の構想について、定期航空路線の一元化を前提に、関係者
が連携して、総合的な調査検討を進め、早期に結論を得た上、その事業の推進
を図る」との方針が示された。この閣議決定を受けて翌平成9年から国土交通
省(旧運輸省)が具体的な調査検討を始める。

 同年12月。愛知県知事は国土交通省(旧運輸省)に対し、「名古屋空港の地
元2市1町の首長からの、定期便存続は極めて困難であるとの認識を明示」し
た上で、「一元化後の地域振興等について要望する文書が提示された旨報告す
るとともに、県として責任をもって一元化を行っていくとの文書を提出」した。
要するに、中部地域における利用者のニーズの増加に対し、名古屋空港のキャ
パシティは早晩限界を超えるとの予測である。

 あとはとんとん拍子にことが進んでいく。同月には政府予算案において、中
部国際空港の新規事業化のための予算が計上され、翌平成10(1998)年5月に
は事業主体、中部国際空港株式会社が設立されるのである。

●利用者便益の計測方法

 さて、問題は国土交通省(旧運輸省)がおこなった「費用対効果分析」であ
る。利用者負担の差異は以下のようになる。中部国際空港をつくる場合とつく
らない場合を比較して、愛知県住民が北米行きの飛行機に乗るまでの運賃は約
78倍。所要時間は約4倍(中部国際空港利用の場合、運賃850円・所要時間
1時間48分。いっぽう新潟空港利用の場合、運賃66,260円・所要時間6時間47
分)である、と。「そんなに便利で安く国際便に乗れるならぜひつくってほし
いと愛知県民は思うにちがいない」と彼らが思ったとしたらあまりに県民をば
かにした話だ。

 つくらない場合――。国土交通省(旧運輸省)は、北米に行きたい愛知県住
民は新幹線を使って新潟空港に赴き、そこから韓国(ソウル)の北米路線をつ
かって目的地に向かう、とした。なぜか? 成田空港も関空も取り扱い能力の
限界にあり、両空港の北米路線が利用できないと想定したからだ。

 仮に「成田空港も関空も取り扱い能力の限界にあり、両空港の北米路線が利
用できない」としよう。だが、ソウルに行くにしても、新潟空港経由よりよほ
ど負担の少ない経路があったのである。たとえば、小松空港利用の場合、運賃
46,170円・所要時間4時間52分。岡山空港なら、運賃45,260円・所要時間4時
間17分である。国土交通省(旧運輸省)が費用対効果分析を実施した平成9
(1997)年には、小松空港および岡山空港ともすでにソウル路線が就航してい
る。どこが“総合的な調査検討”か。

 中部国際空港のホームページ
http://www.cjiac.co.jp/jigyou/jigyou04.html1)には、「明快な空間・心
配りのあるターミナル」と、そのコンセプトがうたわれている。

 総事業費7680億円。公式ホームページの〔事業の概要〕には、「将来の航空
輸送需要として旅客数は国内で年間1200万人、国際で800万人」と記されて
いるが、その「将来」がいつなのかは明示されていない。


〔青森空港の場合〕

 第三種空港である青森空港もまた滑走路3000メートル化をねらっている。こ
の空港は、県都青森市の中心部から南方10キロメートル、標高200メートル
の丘陵地に昭和39年、県設置・管理の第三種空港(滑走路1200メートル)とし
てオープンした。その後、高速大量輸送時代に入りジェット化に対応した空港
の整備が求められ、平成2年に滑走路2500メートルの新空港に生まれ変わった。

 定期便は、旧空港時には東京、大阪、札幌のみであったものが、現在、東京、
大阪(伊丹、関空)、札幌、名古屋、福岡、広島、沖縄(11月〜3月)、ソウ
ル、ハバロフスク(4月〜10月)の計10路線が就航している。公表されている
最新のデータでは、乗降客数は平成12年度には158万人、11年度には166
万人にまで達し、第三種空港のなかで利用者数最多となっている。

 青森空港は、アメリカ、ヨーロッパ、オセアニアへの直行便を運行するため、
そして積雪による欠航・遅延を減少させるために、滑走路の3000メートル化を
希望している。だが、果たして国際便が必要なのか、雪と滑走路の延長にはど
のような関係があるのか。

●雪が降ったら滑走路がすべる!?

 青森空港は、滑走路を延長すると積雪による欠航便が減り、除雪回数が減る
ことで遅延便が減って便利になると主張している。だが、なぜ積雪による被害
が滑走路の延長で回避できるのだろうか、そんな素朴な疑問がうまれるのは当
然だ。

 航空関係者に雪と滑走路の関係を聞いてみた。だが積雪問題は滑走路延長で
解決するとは考えられなかった。つまり、滑走路が長いと航空機が積雪ですべ
りやすくなった滑走路に着陸する際、航空機がスリップして着陸距離が長くなっ
ても大丈夫という程度のことなのだ。通常、雪の降る日は飛行機は滑走路の雪
かきが終るまで上空で待機させられる。ジェット機にとって着陸ギリギリの長
さの2500メートル滑走路では、完璧に雪かきしていなければスリップして着陸
距離が長くなる心配があるため、降下することはできない。3000メートル滑走
路だと完璧に雪かきされていなくても着陸できるという理屈だ。平成12年度の
データによると青森空港の冬季就航率は平均96・4%、就航率が最低の月は5
月で95・2%。このデータからも積雪によって就航率が下がるという因果関係
をみることはできない。

 巨額を投じて滑走路を延長させるのではなく、青森空港は、効果的な雪かき
の方法を考えた方がよい。

 また青森空港は地形の問題もかかえている。滑走路延長予定部分には谷があ
るため、地形が3000メートル滑走路に適していないのだ。埋立てる土木作業が
別途必要になり、通常の滑走路延長工事よりも大幅に建設費がかさむことは必
至だ。

●青森から国際便は必要なのか

 2500メートル滑走路の場合、長距離便用の燃料を積載した“重い”航空機を
離陸させることはできない。つまりアメリカ、ヨーロッパ、オセアニアへは直
行便を飛ばすことはできないのだ。夏季ハワイ便は運航可能だが、滑走路がス
リップすることを懸念して冬季ハワイ便は不可である。したがって長距離国際
便は燃料補給のため成田に寄港することになる。

 だが青森空港は、長距離国際便の直行便を飛ばしたいらしい。それがどんな
に需要が少なくても。現状の2500メートル滑走路で可能な、青森から成田へ寄
港して海外へ行く道順だと不満だというのだ。また、アメリカ、ヨーロッパ、
オセアニア便は成田に寄港して燃料補給をする経由便を運航した実績があるか
ら、長距離国際便の需要があるというのだ。運航実績があるから需要があると
いうのはムチャクチャな需要予測だ。実際、アメリカ、ヨーロッパ、オセアニ
アへの国際便は平成9年度に1回、10年度に3回あっただけなのだから(平成
9年度にフランス往復が1回、10年度にカナダ、イタリア、オーストリア往復
が各1回)。

 また、直行便を飛ばすと利用者のフライト時間が短縮され金銭的負担も減る
からぜひやりたい、青森空港はそんな稚拙な主張もしている。成田に寄港する
と、その分時間がかかるし、お金はかかるから利用者の負担になるというのだ
が、いったい寄港のためにどれだけ負担を強いられているのか計算してみよう。

 青森空港によると、成田に寄港するために追加となるフライト時間、運賃、
諸経費をすべてふくめて現金換算すると、50年間で約58億円、一年間で約1億
1600万円となる。利用者一人あたり1万3600円のコスト負担だ。

 しかしこの計算にはカラクリがある。寄港することで利用者のフライト時間
が増え、そのぶんを現金換算するのはよい。だが、利用者が負担する時間に対
する時給が高すぎるのだ。青森空港は一人あたり1時間3275円にしている。こ
の時間コストを仮に一人あたり1時間1000円で計算しなおすと、負担は約7500
円、約半額となる。

 計算根拠はつぎのとおりである。成田に寄港する場合、国際直行便と比較し
て、追加の所要時間は135時間(フライト時間45分+給油時間90分)。諸経
費をボーイング747型機の場合で計算すると、寄港のため着陸料50万円、航
行援助施設利用料45万円、空港ビル各種施設使用料40万円、ハンドリングチャー
ジ(駐機場での航空機の誘導・けん引等、空港における航空機の地上支援業務
の経費)15万円となる。合計150万円を旅客数で割る。利用者数を288人
とする。負担は、時給3275円だと約13,600円。時給1000円だとは約7500円。

 ちなみに利用者の追加負担は往路だけですむ。寄港は燃料補給のためだけな
ので、往路だけ寄港して燃料をつみ、復路は寄港して燃料を捨てるのではなく、
空の上で燃料を減らして直行で帰国する手があるからだ(参考のため、成田か
ら別便で外国に行く場合の試算をすると、負担は時給3725円だと73,385円、時
給1000円だと55,400円。寄港の方が大幅に安くすむ)。

 青森空港によると、滑走路を延長することで利用者のメリットは一年間で約
2億3000万円、50年間で約115億円になるという。そのうち、国際直行便運
航によるメリットは一年間で約1億1600万円、50年間で約58億円としている。
時給を1000円にすると、これらのメリットを換算した額は約半額になる。

 果たして、青森空港から長距離国際直行便を飛ばす必要があるのか。積雪対
策のために滑走路を延長する必要はあるのだろうか。

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