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サウジマネー大流出で米経済メルトダウン(エコノミスト9/24号)
『フィナンシャル・タイムズ』記事要旨(8月21日付、1面)
サウジアラビアは百億j単位の資金をアメリカから流出させ、アメリカ離れのサインを送った。流出額について、あるアナリストは、2000億jに達すると言う。個人投資家たちが持ち出したものだ。別の銀行家たちは1000億ドル弱との数字を挙げる。
アメリカの有力シンクタンク、ランド研究所のアナリストは8月、ペンタゴンで「サウジは悪の温床だ」と述べた。この発言は、サウジのエリートたちの間で広がっていた「アメリカでは、われわれは悪魔のごとく扱われ、自分たちの資産がもはや安全ではない」という懸念を一層、深めてしまった。
国際問題研究者、ユセフ・イブラヒムは、サウジ人は、少なくとも最近数カ月で2000億ドルを引き揚げ、アメリカのタカ派による「サウジ資産を凍結せよ」という要求が流出に拍車をかけたと言う。
サウジの対米投資額の詳細ははっきりしていない。だが、アナリストたちは4000億ドルから6000億ドルはあると信じている。株式、債券市場、不動産に投資されている。投資家たちは米国の口座を閉めるつもりはないようだ。資金はヨーロッパの口座に移しつつある。ただ、ロンドンの銀行家たちが見るところでは、サウジ最大の投資家たちの間にはまだそうした動きは出ていないという。
サウジマネーのシフトは、ドル安圧力をかけてきたかもしれない。リヤドのフィナンシャルコンサルタントは「サウジの人々はもはやアメリカの経済にも外交政策にも信頼を置いていない」と語った。(編集部訳)
高まる対米投資リスク〜内田和人(東京三菱銀行ニューヨークチーフエコノミスト)
サウジアラビアが米国から引き揚げたとされる資金は、米国の国際収支規模の約25%から最大50%弱にあたり、それだけみれば、米国金融市場や為替市場への影響は甚大だ。
ただ、米財務省が公表する国際資金循環統計をみると、確かに、昨年9月の米国テロ事件以降、石油輸出諸国の対米株式投資額は異例の減少を示しているが、その一方で米国政府機関債等の債券投資額が増加している。また、サウジアラビア王家の個人的資金がグローバルファンドを通じて米国から洗出したが、その資金の受け皿になったといわれる欧州では、英国を中心に引き続き大幅な対米証券投資を行っている。国際マネーフローは回り道しながらも、結果的に米国をファイナンスする構図が続いている。
もっとも、1990年代後半に顕著であった米国一極集中・再分配型マネーフローが変調を来しているのは事実である。例えば、対米直接投資は急減している。証券取引においてもグローバル運用を行う投資家は、現在の米国投資に対するリスクを感じ始めている。
三つの理由
その理由の第1は、米景気の先行き不透明感の強さである。ここへきて牽引役である個人消費にも陰りが出てきた。特に米国の小売り売り上げ全体の約35%を占める最大の消費需要地域である南部の購買意欲が委縮してきた点は問題である。企業部門も過剰負債の圧縮に加えてハイテク業界を中心に一種のカニバリゼーション(共食い)状態が起きており、リストラ強化や企業淘汰のリスクが払拭されない。IBMやインテルといった優良企業でさえ、先行き厳しい業績見通しを示している。
第2は、マクロバランスの悪化だ。米国の経常赤字問題は、民間貯蓄投資バランスの投資超過から財政収支の赤字が主体となる質の悪い構造へ転換しつつある。もとより、近年の米国財政収支好転は、株価上昇を背景とした個人のキャピタルゲイン税の急増による面が大きかった。それが株価バブル崩壊によって、個人所得税は一転して55年以来の2年連続の滅収を記録する事態に至っている。
ブッシュ政権下で10年問にわたる個人所得減税及び大規模なテロ対策予算が組成されており、米国財政は構造的な赤字体質へ逆戻りしている。
第3は、米国株式市場のボラティリティー(変動)の高さである。S&P株式指数の20日間ヒストリカルボラティリティー(価格変動率)は8月に約50%近くにも急騰した。この水準は実に、98年のヘッジファンドLTCM破綻時を上回る。一方でブラックマンデー(87年)以降の年間平均利回りをみると、米国株式が10・5%であるのに対して、債券(含む社債)も8・6%と意外に遜色ない。
投資家は中期的な運用スタンスを債券重視型へ切り替えており、米国株式市場からの資金流出が懸念されている。
サウジ・オイルマネーの資金シフトは、FTの記事が指摘しているような米国・サウジの政治的な緊張が主因ではなく、こうした米国ファンダメンタルズの悪化とボラティリティー上昇が背景にある。だからこそ、資金引き揚げはサウジだけの現象と考えるわけにはいかない。さらに広がれば、米経済のメルトダウン(融解)につながり、それは世界経済への深刻な打撃を意味する。このため、G7各国はドル相場のモニタリングやマクロ経済政策を強化するだろうから、米経済はソフトランディングする可能性の方が依然として高い。
しかし、国際マネーフローの変調は決して楽観できず、当面は緩やかなドル安と国債利回りの異常な低水準が続くことになろう。
テロ援助をするサウジの特殊事情(笈川博一杏林大学教授)
サウジアラビアは、米国の定義するテロ組織に資金を提供しているのだろうか。答えはYESだろう。サウジには、そうりしなければならない特殊な事情があることを忘れてはならない。昨年9月11日の同時多発テロ事件を起こしたハイジャック犯19人のうち15人がサウジ人であったことよりも根の深い問題である。テロを支援すること、米国が意図するイラク攻撃に参加しないことは、現在の政体を守るためのやむをえない選択肢だからだ。
テロ援助は“みかじめ料”
サウジは矛盾の国家である。近代国家としての成立は1932年だが、国名の通り“サウド家のアラビア”としての性格は現在も変わっていない。「朕は国家なり」と言ったと伝えられるルイ14世時代の中世フランスと変わらない。必要に迫られて王族以外のテクノクラートが閣僚を務めることはあるが、皇太子兼首相以下ほとんどの閣僚は王族に限られる。在外の最重要ポストである米国大使を長年務めるバンダル氏は、初代国王の孫だ。その一方で、世界経済を支えるエネルギーの供給源となっている。
先ごろ、米有力シンクタンク、ランド研究所の研究者がペンタゴンで「サウジこそアメリカの敵」と指摘した。ある意味で、それは正しいのかもしれない。しかしこの研究者が言うように「だから油田地帯を占領しなければならない」につながるとも思えない。道義上、国際法上の問題はさておいても、もしそうすれば、その過程で1973年の第1次オイルショックが子供の遊びに見えるような大混乱が起こるだろう。サウジがいずれは到達する普通の意味での“国家”への成長の過程で同じことが起こる可能性も高い。
イスラム世界におけるサウジのレゾン・デートル(存在理由)は、イスラムの聖地メッカとメディナを保護し、世界中のムスリムに自由なアクセスを保証することにある。79年にイランがイスラム革命に成功し、革命の輸出を公言していたころ、サウジは苦境に立たされた。それでも、イランからの巡礼を制限することはできなかった。そのためメッカで暴動事件が起こり、数百人の死者を出した。当時は、こうした騒擾がサウジの革命につながらないと確信を持てる人は多くなかった。
サウジはまた、聖地の清浄性をも守らねばならない。それは異教徒の侵入を防ぐことをも意味する。それは、90年に起きた湾岸危機で破られてしまった。ウサマ・ビンラディンが衝いたのはこの点だった。アフガニスタンでイスラムの力によるソ連撃退に参加したウサマにとって、クウェートを占領したイラク軍を撃退するのはアフガニスタン・タイプのイスラム義勇兵軍でなければならなかった。しかし、サウド王家は米軍を中心とする多国籍軍を選択したのである。この確執が、のちにウサマの国外追放につながる。サウド王家の選択は現実的ではあったが、“聖地の清浄性”からすると問題があった。しかも、異教徒は戦争後も居残りを決めた。
それをさらに拡大して、米国が予定している再度のイラク攻撃を承認することはこの矛盾をさらに大きくする。サウジにとって真に脅威となりうるのは、依然としてサダム・フセインが率いるイラクである可能性が高いのだが、イラク攻撃を許せば国家の基本原理を犯すことになりかねない。ウサマ流の考え方こそ、ある意味で、サウジ自身が育てた方向だからだ。国民に覚醒の機会を与えるのは、国家として自殺行為である。
厳格にムハンマドの教えを守るイスラムの守護者にとって、いわゆる原理主義に対する資金等の援助は不可避だった。それはまた、脆弱な政体を原理主義者たちの攻撃から守る役割も果たす“みかじめ科”でもある。一方、国内では政治的傾向の強い原理主義者の活動は絶対に許さないという新たな矛盾を起こす。実際、アラブの“名誉”盟主として非宗教的PLOを援助し、イスラムの守護者として政治的イスラム運動ハマスを援助してきた。
タリバンとの関係ではイスラムの守護者として機能した。タリバンの母胎となったパキスタンの宗教学校は、主としてサウジの援助によっていたのである。タリバン支配地区のアフガニスタン女性が着用を強要されたブルカもまた、サウジの影響である。ソ連の崩壊で中央アジアやカフカスの諸国が独立したときには、それらの国々でイスラムを復活させようと真剣な努力がはらわれた。
サウジは、深刻な危機に見舞われている。財政状況の悪化、年率3%をはるかに超えると見られる人口増加、深刻な失業などは国内の治安悪化を招きかねない。膨大な石油収入に支えられた国民総生活保護とも言うべき公共セクターこそ安定の基礎だが、それがまかなえない状況になるかもしれない。成長が鈍化した世界の経済は73年のオイルショックにつながった需給関係とは遠いものであり、のどから手が出るほど外貨が欲しいロシアが世界第2の石油輸出国として出現したこともサウジを苦境に陥れている。
サウジを怒らせた損害賠償請求
サウジと米国のギクシャクした関係は、昨年9月11日に始まった。アメリカはそれを修復しようとして、今年4月にサウジのアブドラ皇太子をテキサスの大統領私邸に招いた。
外国要人の私邸招待はそれまでに2回しか例がない特別待遇である。しかしこの会談でイラク攻撃の是非とパレスティナ問題をめぐる対立は更に激しくなったと伝えられる。それに油を注いだのが、世界貿易センタービル犠牲者の家族が行ったサウジに対する損害賠償訴訟である。サウジのマスコミはいきり立った。請求賠償額1兆jが、原告側の誤りで当初100兆jと天文学的な数字が発表されたのも事態を悪化させたのかもしれない。広島、長崎の原爆はもちろん、米原住民との戦いまで引用して米国の非道徳性、残虐性を叫んだ。
その一方では、これまでまったく意識していなかった米世論に対する手当ても始まっている。サウジが91年前半にロビー活動に費やしたのは25万jに過ぎなかった(同時期にイスラエル510万j、日本2460万j)のが、急速に増えている。さらに広告会社を雇ってのPR活動も活発になった。
アメリカは8月末、サウジのバンダル駐米大使をテキサスのプッシュ私邸に招いた。さらにサウジ敵視発言をしたランド研究所の研究者が9月に入って辞任に追い込まれた。これはブッシュがサウジ向けに出したサインなのだろうか?