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米国バブル崩壊の余波 (上) ☆☆☆
株式、債券、為替そして金。各市場の値動きに緊迫感が増している。
NY株式市場の方は、やはり安値更新の動きとなってきた。従来から指摘してきたように7月の急落時に付けた価格は「底」ではなかった。四半期の最終日でもあった9月30日には、終値(ダウ30種7591.93j)および取引時間中の安値(同7422.28j)ともに7月の安値を突破している。水準としてはロシア危機が発生し、その後米国の大手ヘッジファンドLTCM(ロング・ターム・キャピタル・マネジメント)が破綻の淵に追いやられた1998年8月以来の安値である。四半期ベース下落率(17.9%)、9月単月の下落率(12.4%)など、どれをとっても○○年以来と形容される数値がならんだ。
もっとも、翌10月1日の取引では、優良株中心に買戻しの動きが強まり1日で346.86j高、4.6%もの上昇をみせ、値動きの荒さはあいかわらずである。
ところが値動きの荒さは同じではあるものの、出来高の方は17億株近辺と7月時点の22〜27億株に比べ大幅に落ちており、やはり大底確認などという状況にはないと思われる。7〜9月期の決算発表を控え、業績見通しを下方修正するところが急増していることから考えても、まだまだ乱高下を繰り返しながらの下落トレンドは続きそうだ。
このようにNY株式に対する“期待”が、時間の経過とともに剥がれているのだが、そのなかで世界的な資金の流れ(いわゆる「マネー・フロー」)も明らかに方向が変わってきている。
このところ為替市場では、スイス・フランの上昇が目立っていたが、これは米国のイラク攻めが現実のものとなるにつれ、資産凍結をおそれた湾岸オイルマネーが米国市場から逃げ出し、ヨーロッパへ流れている証(あかし)として捉えられている(この流れは年始から注目されていた。ちなみにジュネーブにあるレマン湖畔のホテルの7月の利用客統計によると、湾岸地域からの客が前年比で76%増と伝えられている)。もっともこれは、イラク攻撃という特殊要因を背景とするが、いま注目度が上がっているのは、90年代とくに98年以降拍車がかかり、バブル化の片棒を担いだともいえるヨーロッパから米国へという資金の流れの変調である。具体的には、米国金利の低下、株安継続、企業業績の低迷長期化の下で資金の流れが急速に細り、逆に資金の引き上げ(回収)が伝えられているのである。そしてその本家帰りする資金(この現象を金融業界では一般にレパトリエーションを略して「レパトリ」と呼ぶ)の裏側で、米国バブル崩壊の余波とでも呼ぶべきものが起きている。
まず、いま欧州系の保険会社に注目が集まっている。軒並み収益あるいは資産内容が悪化しているのだ。今夏のヨーロッパでの大洪水や昨年のテロによる支払い義務発生もあるが、資産運用にからむ問題である。いうまでもなく多額の資金を運用している保険会社は、国境を越え、様々な投資対象あるいはテクニックを駆使した運用をおこなっている。当然ながら米国株式市場の変調は、運用結果の悪化として直接的に収益に影響を及ぼす事柄である。まして昨今のように世界同時株安となるとなお更である。またそれにともなった破綻企業の増加も保険会社の資産悪化につながっている。問題視されているのは、クレジット・デリバティブ(信用デリバティブ)と呼ばれる融資債権などの回収保証を欧州系の保険会社が大量に受けていることだ。
クレジット・デリバティブとは銀行などの行った融資を借り手が返済できない場合、代わりに返済するというもので、そのリスク(クレジットリスク:信用リスク)を引き受けるかわりに手数料を得るという金融商品である。通常の経済環境であれば不良案件の発生は少なく、手数料丸取りで条件のいい投資となる。ところが現在のように世界的に金融経済が変調をきたし始めると、どんどん不良債権が増え、それが自らの負担(返済義務発生)となって返ってくる。そうした事態に直面し、また直面しそうなのが欧州系の保険会社とされている。なぜならば市場規模にして総額2兆jともされる(相対取引などで正確な金額は不明)クレジット・デリバティブ市場で最大の受け手と目されているからである(米系に比べ欧州系のリスク管理の甘さも指摘されている)。
以前8月19日発信号(“クイック・フィックス”)で米国企業の不正会計疑惑にともなう誓約書提出に関連して、デリバティブにからむ問題がこの先表面化しそうとしたのだが、米国外でまず注目を集めることになっているわけだ。要は、結果的に、米国系金融機関のリスクの受け皿として欧州系保険会社が位置していたということになる。そして株価下落と経済環境悪化で企業の破綻や債務返済の滞る事態、つまりは「信用リスク」が今後さらに上がることが予想されているが、そうなると当然ながらそれを引き受けた方(この場合は保険会社)にも準備が必要となる。たとえば保有している資産を売却し、キャッシュを準備する必要に迫られる。このところのNY株式市場や欧州主要株式市場ではそうした換金売りが出ているとの指摘があるが、ならば、それが市場内の需給悪化につながり、また次の売りを誘発するという悪循環も考えられる。
東京市場8月、9月と日経平均株価が1万円の大台割れにもかかわらず外国人投資家の大量売りが続いている東京市場の背景にも、こうした欧州系の売りが指摘できるのではとも思う。
米国バブルの崩壊が、巡り巡って主要国の市場に影響を与えている図式である。ちなみにNY株がこのところの安値を更新した9月30日、フランスの株式市場は一時7%を越える急落状態になっていた。(つづく)(10月2日記)
金融・貴金属アナリスト
亀井幸一郎