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http://www.mainichi.co.jp/life/family/syuppan/economist/0210/08.html
<特集>国債バブル・このままでは日本経済が壊死する
銀行の国債保有高が今夏、史上最高となった。「ほかに買うものがないから」だ。日本経済のデフレは一層強まっている。そんな中、日本銀行が銀行保有株の買い取りを決定したが、市場の反応は芳しくない。デフレに押される形の「国債バブル」はいつまで続くのか。このままでは成長分野の企業にカネが回らず、日本経済が壊死してしまう。
平野 純一(編集部)
日本銀行が9月18日に決めた銀行保有の株式買い取りは、市場関係者に衝撃を与えた。
だが、市場はまだ様子見といった段階だ。翌19日の株価は上昇したが、週末20日は株価も債券も下落し、ついでに円まで下落する「トリプル安」になった。”日本失望”の売りである。20日には、財務省が実施した10年物国債の入札で初めて、応募額が入札枠に満たない「未達」が起きた。これも市場が疑心暗鬼に陥っている証拠である。
日銀の決定にも、海外の見方は冷ややかだ。英『フィナンシャル・タイムズ』紙(9月19日付)は「金融緩和派の中原伸之・前日銀審議委員も驚く政策」と皮肉り、米『ウォールストリート・ジャーナル』紙(9月20日付)は、「Tokyo’s Latest Mistake」(東京の最新の過ち)と題して、「なぜ速水総裁がこのようなことをしたのか理解できない。苦しくなったら日銀が株を買ってくれるというモラルハザードをもらたらしただけ」と批判した。
市場が様子見なのも、海外から批判を受けるのも、銀行の不良債権処理、デフレスパイラルからの脱却といった日本経済の根本問題に、いったい誰がイニシアチブを発揮して対応しようとしているのか、まったく分からないからだ。
小泉純一郎首相の公約は「不良債権問題を速やかに処理する」だったが、抜本的な施策は一向に示されない。今回の日銀の政策も、財務省と金融庁は理解を示したが、竹中平蔵経済財政担当相は当初「聞いていない。理解できない政策だ」と不快感をあらわにした。19日に日銀幹部が竹中氏に”ご説明”に訪れ、なんとか協力を得られる雰囲気にはなったが、政府内部は決して一枚岩ではない。そして、肝心の政府側が出すはずの経済対策は、具体策をまとめられずに苦慮している。
企業収益と賃金の下落が止まらない
そうこうしているうちに、日本経済には、デフレスパイラルが一層深刻化していることを示すデータが散見されるようになってきた。「企業収益」と「賃金」の下落に歯止めがかからないのである。
法人企業統計季報による2002年第2四半期の全産業売上高は、前年同期比マイナス9・2%と、01年第3四半期以降マイナスとなって以来、最大の下落となった。厚生労働省の調査による勤労者の現金給与総額も、7月は前年同月比マイナス5・2%で、統計が始まって以来最大の落ち込みだ。
深刻なのは、下落の内容だ。昨年ももちろん給与は落ちているのだが、それは所定外給与つまり残業代やボーナスが減ることによる下落だった。しかし今年3月以降は、所定内給与つまり本給の方が、マイナス1%を超える下落率が続いている。
この点を、朝日ライフアセットマネジメントの吉川雅幸シニアエコノミストは懸念する。「残業代は経済が少し良くなれば戻るが、本給はなかなか元に戻らない。ここ数カ月の企業収益と賃金の下落は、今年初めとは明らかに異なり、”断層面”を生じてデフレが一層深刻化する状況を示している」と分析する。
デフレによって、名目的な売り上げが伸びないので、企業はついに残業代やボーナスにとどまらず、本給にまで手を付け始めた。これは当然、消費に影響して、経済を一層冷やすことになる。これまでは、どちらかといえば資産デフレを原因とするフローのデフレを懸念する見方が多かったが、いよいよ経済活動の「根幹部分」に火がつき始めた。
このようなデフレの実態があるから、誰もリスクが取れずに、国債に資金は向かう。
特に銀行は、もはや投資先は国債しかないといった状況だ。7月の全国銀行の国債保有は79兆4495億円で史上最高となった。国内だけでは足りず、米国債やフレディマック(米連邦住宅金融抵当金庫)債券を中心に、金融機関の海外向け長期債投資は、4月以降、毎月1兆円を超える規模に達している。これらの状況を総合する形で表れているのが、現在の長期金利1%すれすれという数字である。
実は98年にも、金融システム危機を背景とした長期金利1%割れがあった。だが、状況はその時より深刻といえる。
長期金利は、理論上は「実質金利+期待インフレ率+リスクプレミアム(財政の危険度)」にほぼ等しい。また、実質金利と実質成長率は長期的に考えれば、ほぼ等しくなる。「実質成長率+期待インフレ率」が名目成長率なので、つまり長期金利とは、名目成長率とリスクプレミアムの合計に等しくなる。
財政は、98年より現在の方が悪化している。98年度の国債発行残高は295兆円だったが、02年度は413兆円に膨らんだ。それだけリスクプレミアムは増大しているのだから、同じ長期金利なら、期待される名目成長率は一層低下している。
国債バブルはあと10年続く?
かつて長期金利がまだ5〜6%あった90年代前半、証券会社の営業マンたちは、金融機関などに対して、こう言って国債を売っていた。
「バブルが崩壊して、これから期待成長率は下がる一方です。残存年数が少ない国債をお持ちでしたら、いま切り替えておいた方が得です。満期になってからでは、次の金利が低すぎます」。しかし今では「他に何か買うものがありますか? 何もないでしょう。国債以外に手を出したら大変なことになります……」である。
もはや論理的な思考ではなく、銀行は国債を買っている。民間企業に資金需要はなく、銀行も貸そうとは思わない。中小企業では貸し剥がしさえ日常的になっている。日銀の大幅な金融緩和で銀行の手元にはおカネがたくさんあるが、それは妄信的に国債に向かっている。そんな状態がいつまでも続けば、日本経済はどこにも血液が回らなくなって「壊死」していくだけだ。
三菱証券の水野和夫チーフエコノミストは、「資金を民間の成長性の高いところに流す経路をつくらなければ、長期金利の低下はいつまでも続く。それを回避するために必要なのが『構造改革』だが、構造改革はちっとも進まない。”国債バブル”はあと10年たっても終わらないかもしれない」と話す。
非効率な分野の投資を排し、成長性の高い分野への投資ができなければ、この構図は変わらない。
このような危機に対して日銀は先に”球”を投げた。政府は今度こそ、小手先ではない抜本的な改革を示せるのか。マーケットはそこを見ている。
史上初の10年物国債「未達」 底流にある「国債暴落」の恐怖
財務省が9月20日に行った「10年物国債」の価格競争入札で、史上初めて、応募額が入札枠に満たない「未達」が起きた。満期が短い国債ではこれまでにも起きているが、10年債では初めてである。財務省は「シンジケート団が引き受けてくれるので問題ない」と平静を装ったが、未達はイコール、国の信用が落ちたことを意味する。
同日は、1兆8000億円の発行枠のうち、1兆3500億円を価格競争とし、残りをシ団引き受けとしていた。しかし、応募額は1兆1852億円にとどまり、入札枠に満たなかった。
市場関係者によると、今回の未達には特殊事情もあった。まず第一に、18日に日銀による銀行保有株式の買い取り政策の発表があり、資金は株式に向かって、国債は下落するのではという意識が機関投資家の中に広がってしまったことがある。
その他にも、9月中間期末を間近に控え、機関投資家は大きなポジション変更に消極的だったこと、また政府側が出すはずの経済対策が依然として不透明、さらには予定されている内閣改造で経済閣僚はどのような人選になるのか読めない−−などといった理由も重なった。
しかし、たとえ特殊事情があったにしても、未達が起きたことは事実。底流には、経済のさらなる悪化によって財政赤字が拡大し、国債増発を余儀なくされる、つまり「国債暴落」が起きるかもしれないという恐怖が、投資家の中に醸成されていることは間違いない。(H)