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アルゼンチン
That Sinking Feeling
沈没へのカウントダウン
国民は預金「強奪」に怒り銀行は破産状態
外銀も続々撤退の構えで経済システムに死が迫る
コリン・バラクラフ(ブエノスアイレス)
アルゼンチンの銀行システムは昨年まで、南米で最も信頼できるシステムの一つとみられていた。91年までは軍事独裁やハイパーインフレーション、崩壊寸前の国営金融機関など悪い印象が強かったアルゼンチンだが、この10年は外国資本の着実な流入と対ドルの固定相場制に支えられ、経済も安定していた。
米シティバンクやドイツ銀行などの大手も含め、外国銀行が続々とアルゼンチンに進出し、国民も彼らにトラの子を託した。預金は米ドルで引き出せるという保証のおかげで、預金量は急増。GDP(国内総生産)に占める銀行預金の比率は、89年の4%から10年間で28%に増加した。
だが今や、それも様変わりだ。国民は、貯蓄の大半を「強奪」し経済危機を招いた張本人として、銀行に憎悪の目を向けている。抗議デモや暴力にそなえ、外銀の支店は金属製のシャッターを設置。多数の警備員を置くようになった。
だが、銀行自身も弱っている。経済危機が表面化した2001年後半以降、銀行はざっと200億ドルの損失をこうむった。預金全体の75%を集めていた外銀への打撃はとりわけ深刻だ。
「外銀は逃げ出したい一心だ」と、米J・P・モルガン証券の新興市場アナリスト、ジョイス・チャンは言う。「大半の銀行はすでにアルゼンチン子会社に見切りをつけ、撤退の機をうかがっている」
政治判断で状況が悪化
銀行危機は、昨年後半の大規模な信用不安に端を発している。1410億ドルの公的債務をかかえる政府が債務不履行に陥る不安から、国民は貯蓄の引き出しに走り、昨年最後の数カ月間で預金の4分の1が流出した。政府は、銀行の破綻を防ぐため預金の引き出しを制限。預金者は猛反発し、経済活動はマヒ状態に陥った。
12月24日になると、政府は対外債務の支払い停止を宣言。今年初めには固定相場制も放棄した。預金を引き出すこともままならない国民は、恐怖におののきながらペソの急落を見守った。
今年1月1日に大統領に就任したエドゥアルド・ドゥアルデも事態を悪化させた。通貨下落による預金の目減りを緩和するため、預金とローンを異なるレートでドルからペソに切り替える政策を導入したのだ。銀行は1ドルの預金を1.4ペソに交換させられる一方、1ドルの貸し出しからは1ペソしか回収できなくなった。
対ドルレートで73%安というペソの急落が、さらに追い打ちをかけた。たとえば、5万ドル相当だった住宅ローン債権が、今では1万3500ドルの価値しかない計算になる。借り手にとっては朗報だが、銀行にとっては大打撃だ。
政治的には受けのいい政策だが、それが「金融システムを崩壊させた」と、INGベアリング証券(ブエノスアイレス)の元幹部、スティーブン・ダーチは言う。貸し出し余力を失った銀行は、利益を上げることができなくなった。
外銀は子会社切り捨てに
外銀は今、撤退か否かの選択を迫られている。すでに撤退を決めた銀行もある。4月、アルゼンチンの中央銀行はカナダ系のスコシアバンクに資本の増強を命じたが、親銀行はこれを拒絶した。「システム危機を解消するための明確なルールが確立されないかぎり、追加的な投資をする気はない」と、同行の広報担当者は言う。
5月と6月には、フランスのクレディ・アグリコル銀行とドイツのウエストLBグループも撤退を決めた。この動きが米シティバンクやスペインのサンタンデル・セントラル・イスパノといったアルゼンチンで最大級の外銀にまで広がれば、深刻な社会不安を引き起こすかもしれない。
「銀行には預金者が要求するお金は残っていない。社会的混乱は避けられないだろう」と、ブエノスアイレスのある投資銀行家は言う。
破局を回避する一つの方法は、撤退したり閉鎖する銀行をすべて国有化することだ。預金の支払いは政府が保証する。銀行国有化には90年代前半のフィンランドやスウェーデンの前例もあるし、メキシコも94〜95年の金融危機で同様の政策を取った。
だが、国有化には金がかかる。メキシコの例では、政府は銀行救済のために650億ドル以上を費やした。国民受けも悪いし、IMF(国際通貨基金)との金融支援交渉にも悪影響を与えかねない。
「国有化は検討対象にも入っていない」と、ドゥアルデの広報担当者エドゥアルド・アマデオは言う。「われわれが銀行のためにできるのは、細心の金融政策とIMFとの協調によって、マクロ経済の安定をつくり出すことだけだ」
ドゥアルデは当面、大手外銀が名誉にかけても撤退しないほうに賭けている。だが、銀行の財務状態は悪化する一方だ。預金者は預金引き出し制限の解除を裁判所に訴え、多くの場合、勝訴している。裁判所が銀行に払い戻しを命じた預金の額は、6月だけで10億ペソ(2億7000万ドル)にのぼる。
こうした払い戻しのために、米フリートボストンは7月中旬、6億7500万ドルの損失を計上。同行の損失の総額は23億ドルに達した。スペインのサンタンデルも、アルゼンチンでの事業全体の価値に相当する11億ドルの損失を償却した。
時間かせぎのため、ロベルト・ラバニャ経済財政相は、世論の怒りを抑えると同時に銀行の倒産を防ぐ方策を考え出した。預金されている現金を3〜10年の間に分割払いで償還される債券に振り替えることで、引き出し制限を緩和するというものだ。
だがこれまでのところ、政府の提案に応じて債券に振り替えられた預金は全体の23%にすぎない。預金者は「2年か3年後には、政府がまた預金を別のものに振り替えると言い出すことを恐れている」と、チャンは言う。
待ち受ける過酷な未来
銀行は、債券への振り替えを強制的に行うべきだと主張するが、ドゥアルデは、預金の差し押さえにも等しいそうした政策は憲法違反で、大規模な暴動の引き金にもなりかねないと恐れている。
アルゼンチンの金融システムが長期的にどのような姿になるかについてはさまざまな見方があるが、その規模がこれまでの何分の1かに縮小することは確かだろう。アルゼンチン経済は今年15%のマイナス成長になる見通しで、預金を集めて貸し出しに回す伝統的な銀行業務はもはや存在しない。
信用秩序の回復には相当の時間がかかるだろう。「どうしても必要な金だけは徐々に戻ってくる」と、UBSウォーバーグ証券の南米担当主任エコノミスト、マイケル・ギャビンは言う。「他はすべて国外に逃避する」
経済を立て直し、内外の信頼を取り戻すまで、アルゼンチンの金融環境は過酷なものになりそうだ。国内の物々交換団体はすでに1000を超える。人の弱みにつけ込む高利貸しや暴力団も台頭すると専門家はみる。「返せなければ指の骨をへし折るような連中だ」と、米格付け会社スタンダード&プアーズのアルゼンチン担当、ダイアナ・モンディーノは言う。
穏やかならざるシナリオだが、窮乏と怒りに満ちた今のアルゼンチンに、穏やかな展望を見いだすのはむずかしい。
廃墟と化した金融システム
アルゼンチンの外国銀行は巨額の損失をこうむったうえ、怒った預金者から身を守る必要にも迫られている。以下は痛手を負った外銀の例。
■フリートボストン(米)
2001年後半に金融危機が始まって以降の損失は23億ドルに達した
■バンコ・ビルバオ・ビスカヤ(スペイン)
損失11億ドルを償却
■サンタンデル・セントラル・イスパノ(スペイン)
同じく11億ドルを償却
■ウエストLBグループ(ドイツ)
アルゼンチン子会社を閉鎖
■スコシアバンク(カナダ)
金融システム危機を解消するためのルールが確立されていないとして、系列銀行への資金支援を拒否