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2002/08/30 海外市場動向
注目の秋が始まる☆☆
金価格に値動きが出始めている。
7月下旬からNY株式市場が急速に回復するにつれ反落し、その後おおむね310jをはさんだ値動きを続けてきたNY市場の金価格。それが、ここにきて株式市場やドル相場に対するいわば“感応度”が上がりつつあるように見える。値動きの荒さだけを捉えると、株式や為替と同じく金価格のほうもそれなりに荒れており、今月に入り1日で6〜8jもの動きがみられた日もあった。ここで指摘しようとしているのは、値動き自体は3j程度であるが(それでも以前に比べれば大きいが)、それが頻繁に繰り返されるようになっていることである。まだまだ夏休みシーズン中ゆえ取引高は少ないが、“胎動”とでも表現したくなる値動きである。
背景となる材料はいくつかあるが、足元の関心事は、内外で注目が集まっている米国のイラク攻撃の有無である。当初より、早ければ9月にも、という見方があり関心度は高かったが、主要国はもとより米国内でも早期攻撃に対し意見の割れが伝えられ、来年以降との見方が支配的となっていた。それが8月に入り議論は再び活気付いてた(原油価格が30j突破をみせた背景のひとつでもある)。ただし、ここまでのところはかつての政権の主要閣僚を含め(特に米国の単独行動に対する)反対意見が高まっていた。またブッシュ大統領自身も早期の攻撃には消極的な姿勢とも伝えられていた。
それが、今週26日(月)にチェイニー副大統領(元国防長官でもある)が退役軍人の集会でのスピーチで、「どのような行動も辞さない」と先制攻撃排除せずとの意思を明確にしたことから、にわかに注目度があがった。その後、ラムズフェルド国防長官が、(こちらも身内の)海兵隊向けのスピーチで、「適正行動をとる」ことのほうが国際的な賛意を得ることより重要である旨の発言をし歩調を合わせている(要は攻撃開始に対する国際的コンセンサスは必要ないということか)。(真偽は不明だが)
8月初旬に流れた一部の情報によると、すでに米軍はイラク周辺国の基地に合計10万人近い兵員の展開を終えており、国防総省筋から7〜8万人規模の地上部隊を使った作戦も提案済みとされている。もともと、「まずは外交ルート」というパウエル長官の「国務省サイド」と強硬派のラムズフェルド長官の「国防総省サイド」の意見の食い違いが伝えられていた問題である。
いずれにしても、9月入りとともにますます論議は高まりそうだ。すでに米議会ではこの件に関し公聴会を開く方向で調整に入っているとされている。議会サイドは、ブッシュ政権(行政サイド)の単独行動を認めない方向で動きはじめているわけだ。また、国際的にもドイツ、フランスまた中国がイラク攻撃反対を表明するなど、こちらも米国の単独行動を認めない動きである。イラクの方も外相が中国や中東近隣諸国を訪問するなど外交活動を活発化している。そうした中で現地29日にチエィニー副大統領は、イラクが近いうちに核兵器を保有する危険性を指摘し、再度、「何もしないリスクの方が何かするリスクよりもはるかに大きい」と発言するに至っている(26日にも同様の発言)。
ドル建て金価格のほうは、今年に入りここまでのところ、時間を掛けながらも下値切り上げパターンで推移してきた。
何か価格を刺激する事件や事故などの「材料」があって、突然値を上げたり、また下げたりという価格展開とは無縁だった。言うまでもなく、米国のイラク攻撃発生は、こうした「材料」になるので、金価格は反応することになるだろう。ただし、先の原油価格30j突破が、多分に“イラク攻撃が近い”という心理的影響を反映したものとなっているように、金市場のほうも「(時期は不確定ながら)攻撃はある」ことを前提に取引されているのは否めない。こうした取引状況を「(材料を)織り込み済み」と表現するが、経験則に照らし合わせると、攻撃開始で仮に価格が急上昇しても、その高値維持期間は短期で終わることが過去多かった。イベント・ドリブン型(突発材料での価格変動)の相場展開は、“滞空時間”が短いのが通例ということである(あの9・11後の株価の下げですら、比較的短期での戻りとなった)。
もちろんマーケットは“生き物”であるから、経験則に当てはまらないことも往々にして起きる。筆者が考え付くものから2、3上げると以下のようになる。
まず、以前取り上げたように金市場は整理が一巡(「買い残」が減少)しており、ファンドの買い越し高は低水準となっている。むしろ8月13日発表分では、今年に入り初めてわずかながらも「売り越し(476コントラクト、約1.5d)」に転じたほどである。その翌週8月20日発表分(最新データ)で再び「買い越し」になっているが、その数量は4708コントラクト(約14.6d)である。5月から7月にかけてのピーク時には、重量換算で146dあったので文字通り一桁少ない水準である。つまり、こうしたイベントが想定されるときは、事前に買いが膨らんでいるのが通常であるが、今回は幸か不幸かその前に整理されてしまっており、利食い待ち状態のものが少ない。
この買い余力がどうでるかがポイントである。ひよっとすると、値幅を大きくするかく乱要因になるのかもしれない。
さらに、戦闘行動に入った場合の米国の経済と金融市場の状況である。まずは米国は当事国となるので、ドルにとってもいい話ではない。すでに膨大な経常赤字や赤字転落が確定的な財政状態がドル売りの材料になっているのである。おまけに反対に傾いている国際世論を振り切って攻撃に入ったとなると、戦費の問題もある。それに大規模な地上軍投入必須とされる戦いは、先のアフガン攻めとは状況が異なるだろう。米兵が傷ついたり死亡したりというときに、個人消費の盛り上がりもあるまい。こうしたことは、もちろん政府内で想定済みであろうから、やるからには短期戦が前提であろうが、果たしてどうなるか。原油価格もロシアからの供給体制など準備はしているが、一時的であれ価格の上昇は経済にとってダメージである。こちらも不確定要素は多い。それでも米国は動くのではと、個人的には思うが、果たしてどうなるか。
いよいよ来週から夏休み明けとなるが、金市場のみならず市場全般また国際経済にとっても注目の秋となりそうだ。(8月30日記)
金融・貴金属アナリスト
亀井幸一郎