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訪米中の小泉純一郎首相は１２日夕（日本時間１３日早朝）、ブッシュ米大統領と首脳会談を開いた。イラク攻撃や北朝鮮問題と並び、懸案の経済問題は置き去りにされ、大統領はデフレと株価低迷の元凶である不良債権の「早期処理の加速」を注文しただけ。国民が給与カットやリストラ、不況にあえぐなか、経済の実体と離れた出来レース。専門家はこぞって、イラク攻撃支持の取り付けという思惑に加え、不良債権処理に隠された「ブッシュの罠（わな）」が待ち構えていると指摘する。
会談ではイラク問題で、ブッシュ大統領が「イラクは国連決議を次々に破り、我慢の限界だ」とイラ立ちを示すと、小泉首相は「憤慨はよく分かるが、もう一段の協調体制を取れる対策を考えてほしい」と応じた。
小泉首相が１７日、金正日総書記と会談する訪朝について、ブッシュ大統領は「大量破壊兵器やミサイルの問題もおろそかにできず、強い関心を持っている。米国も対話の道は閉ざしていないと伝えて」と述べた。
いずれも重大な問題だが、国民の最大の心配事である経済問題について、小泉首相は「株価で心配の向きもあるが、構造改革は着実に進んでいる。小泉内閣の最大の任務は日本経済を立派に立て直すことだ」と強調。
「不良債権処理も加速させる」とも述べると、ブッシュ大統領からは「しっかりやってほしい」と注文があった。
玉虫色というのか形式的というのか、白々しいやりとりに、市場の関心は最初からない。
ブッシュ大統領が国連演説でイラク攻撃に強硬姿勢を示し、グリーンスパンＦＲＢ（米連邦準備制度理事会）議長が議会証言で経済成長の下方修正を示唆、財政赤字拡大に懸念を示したことが悪材料視され、１２日の米国市場はダウ工業株３０種平均が２００ドルを超す急落。１３日の東京市場も下落して始まった。
２月の会談では、事前にブッシュ側が構造改革と不良債権処理を進めるよう強く求める親書を小泉首相に送っていたが、本番では「小泉首相を信じている」と経済問題に踏み込まなかった。
６月のカナダ・カナナスキスサミットでの会談でも同様で、今回も「互いの傷をなめ合う」三文芝居が再演された。
不正会計や株価下落で景気の先行きに不安を抱える米国。日本もデフレ不況が続き、平均株価が一時９０００円割れし、中間決算を前に金融不安の再燃も懸念される。
小泉首相持参の手土産も、デフレ対策という名のＰＫＯ（株価維持策）や、財源もはっきりしない２兆５０００億円規模の減税策と、「粗品」に近い。厳しい注文が付くとも予想されたのだが…。
「イラク攻撃の支持取り付けがブッシュの直近の最大の命題で、小泉内閣を追い詰めるようなことを言うわけがない」と分析するのは、独立総合研究所の青山繁晴氏。
「構造改革が進んでいると考えている国民は誰もいない。改革の遅れを指摘されるとダメージが大きい」という小泉首相側と、図らずも利害が一致したというわけだ。
だが、小泉首相側の意外に？巧みな交渉術もあったとも指摘する。
「米国の言いなりの小泉首相が会談前、イラク攻撃で『国際協調と大義名分が必要だ』と発言のトーンを変えた。イラク攻撃支持を明言していたら、会談で経済の話が出てくる可能性もなくはなかった。つまり、自分を高く売ったわけです」
ＵＢＳウォーバーグ証券チーフエコノミストの白川浩道氏は、ブッシュ側の意図を斟酌（しんしゃく）する。
「追加的な財政出動を求めると、小泉首相の政治生命に関わりかねない。といって金融緩和をさせて円安にするのは、製造業寄りのブッシュ政権には都合が悪い。残るは金融システムの安定化を求めることぐらい」
腐っても日本は世界第２の経済大国。それが低迷すると、米国の懸念材料とならないのか。
「米国からの輸出の比率は欧州とアジアがそれぞれ４とすると、日本は２に過ぎない。米国は経済回復の支えを日本側に期待していない。ジャパン・パッシング（日本無視）。小泉政権が下手に変わったことをやって信用恐慌を起こすより、何もやらない方がましという程度」（白川氏）
ヘビの生殺しだが、そんな思惑を知ってか知らずか、米国のお墨付きを改めて得た小泉首相。不良債権処理を最優先にするのは必至である。
首脳会談前に来日したハバード米大統領経済諮問委員会（ＣＥＡ）委員長は、塩川正十郎財務相に「処理を克服する必要がある」と要求した。
だが、実はブッシュ政権には大きな狙いがある。青山氏は説明する。
「不良債権処理の加速は、借り手企業をつぶすということ。米国の最大関心事は破綻（はたん）企業の買収。多くの業種で日本企業が狙われているが、不良債権処理進行という名の日本企業の叩き売りが始まる」
すでに、メリルリンチが旧山一証券を買収したほか、旧長銀をリップルウッドなどがわずか１０億円で買収した新生銀行の場合、瑕疵（かし）担保条項を盾に貸し剥（は）がしで企業を破綻させてもうけ、ひんしゅくを買っている。
「米国資本主義を露骨に代表した政権」（青山氏）のもと、外資にとって濡れ手で粟のビジネスチャンスが転がっている、というわけだ。
白川氏も「米国の金融機関や企業も疲弊して余裕はないが、来年秋以降、米国経済が回復すると、いろいろと注文をつけてきそうだ」と言う。
「日本は良くも悪くも、外圧を受けないと変われなかった。宿題をもらわず、何も変わらないままジリジリと悪くなるのは最悪のシナリオ」と白川氏は懸念を示す。
実体経済の悪さに素知らぬふりをし、奇妙な停滞感が覆う日本経済だが、日に日に危機的状況に追い込まれている。

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