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激戦中国金融市場(下)予期せぬ政策変更――試される邦銀の忍耐力。
七月四日、北京。中国人民銀行が邦銀を含む外国銀行の幹部を招き、ある会合を開いた。「銀行の健全性維持のため、新しいルールを導入しようと考えているが、ご意見をうかがいたい」。人民銀行側の説明に邦銀幹部は耳を疑った。
内容は外国銀行が中国の銀行から調達できる人民元に上限を設定するというもの。人民元の預金がさほど集まらず、貸し出し原資の多くを中国の銀行から借り入れている邦銀から見れば、融資を縮小しろと言われたようなものだ。
「外国銀行に対する事実上の貸し出し規制じゃないか」。憤る外銀幹部に対し、人民銀行は「意見を聞きながら検討を進める」とだけ言い残し、席を後にした。
昨年十二月の中国の世界貿易機関(WTO)加盟に伴い、邦銀は金融分野でも規制緩和が進むと期待した。ところが最近は逆に規制を強化するかのような措置が目立つ。
人民銀行は今年春にも支店ごとに人民元の貸出額に対する自己資本比率を八%に維持する案を打診。その後、自己資本の拡充計画を提出するように外銀に通達してきた。業界では「WTO加盟後はむしろ外銀の新規支店開設の認可が滞り始めた」「一部の邦銀が人民元取扱業務の認可申請を却下された」という話も流れた。
中国が態度を硬化させた裏には、一つの「事件」があったと邦銀担当者は指摘する。南京で合弁事業を展開するスウェーデンの通信機器大手、エリクソンがサービス内容などを理由に、人民元借り入れを地元銀行から外銀に切り替えたことだ。現地紙は「南京エリクソン事件」を繰り返し報道。「このまま市場開放を進めれば外銀に金融市場を乗っ取られてしまうと中国当局は危機感を強めている」と邦銀の中国担当者は口をそろえる。
国有企業への相次ぐ貸し倒れで、中国の四大国有商業銀行の融資に占める不良債権比率は昨年末で二五%。五〇%近いという試算もある。人民銀行は五年間で一五%に削減する方針を打ち出しているが「不良債権処理で大量の雇用を抱える国有企業の破たんが相次げば社会不安につながりかねず、処理は思うように進まない」(アジア開発銀行研究所の吉冨勝所長)との見方が大勢だ。
そこで考え出したのが「日本の優良企業などへの融資を増やすことで、不良債権比率を相対的に引き下げる戦略ではないか」と、邦銀の担当者は勘ぐる。実際、中国の銀行は日系の大手企業への営業攻勢を強めている。進出企業からは「規制緩和を手放しで進めれば中国の銀行は競争に勝てない。外銀への規制を強化する事態に備え、地元の銀行との関係は続けていく」(三洋電機)との声が漏れる。
問題は一連の規制の影響が欧米の銀行より邦銀に大きく出ることだ。米シティバンクや英HSBCなどは上海などで中国国内顧客向けの外貨預金を開始しており、これを人民元預金の獲得にもつなげたい考えだ。
これに対し経営体力が低下し、海外でのリテール業務のノウハウも乏しい邦銀は及び腰。邦銀の間では「今回の規制強化は邦銀を排除しようと欧米銀が陰で仕組んだのではないか」との憶測まで飛び交っている。
中国市場ではこれまでも、地方政府が全額出資するノンバンク、国際信託投資公司(ITIC)の債務不履行を巡る当局の政策に痛い目に遭わされるケースがあった。予期せぬ政策変更リスクに対する邦銀の耐久力が試されている。