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「リアルオプション」という言葉を耳にしたことはあるだろうか。金融オプションの考えを実物(リアル)資産へ適用しようというものだが、近年その利用が広がりつつある。一体どんな考え方?
「リアルオプション」とは、もともと1980年代半ばに米国のファイナンス学界で生まれた考え方で、実務の世界では主に石油、金、銅等の天然資源採掘ビジネスなどの業界で用いられてきた。
ではどのような考え方かというと、経営の意思決定や経営戦略における柔軟性をオプションと考えることから始まる。「オプション」とは「選択できる権利」のことであり、例えば金融の世界では、1年後に1$=110円で円をドルに交換できる権利のことを、通貨オプションと言ったりする。この権利の保有者(オプションの購入者)は、1年後にこの権利を行使してもいいし、しなくてもいい。金融マーケットの世界では、このような権利の売買が活発に行われており、この権利の値段は金利水準や、将来の変動性などを考慮し数学的に計算できるものとなっている。このような考え方を、企業経営に当てはめ、意思決定の柔軟性を「選択できる権利=オプション」と捉え、金融オプションに対し、「リアルオプション」と呼んでいる。
より詳しく説明してみよう。経営の意思決定におけるその時点、時点で利用できる情報は、限定されていたり不完全なものであったりする他、多くの誤った情報や雑音も含まれているものだ。そんな環境下、だからといって、経営者は意思決定を回避するわけにはいかない。その結果、事後的に言えば経営判断を誤ったという事態も発生するかもしれない。そこで、意思決定を回避するのではなく、現在のように不確実性に満ちた経営環境のもとでは、経営環境の予期しない変化に意思決定を適応させる自由度を確保しておこう、そのことが何よりも重要である、という考え方が「リアルオプション」の思考である。
従って、例えば、事業の拡大を図る際には、経営環境などをにらみながら、段階を踏んで事業を徐々に拡大してゆくのが合理的となるだろう。事業環境がよい方向に進めば、次の拡大が図られるべきだろうし、逆に環境が悪化した場合には、事業拡大を見合わせる、当該事業を縮小する、さらには全面撤退するという柔軟な意思決定を行うことができるからだ。
一つの例を挙げれば、環境対応型の次世代型自動車を開発する際の開発投資などで説明すると分かり易いだろう。次世代自動車の開発はとても巨額の費用が必要で、投資回収の見込みは長期のものとならざるを得ず、しかもその見込みもかなり不透明にならざるを得ない性質のものである。加えて、第1世代の自動車は技術的にも十分なものではないことが多い。通常の投資基準ならばとても「投資OK」とはならないのだが、実際にはこういう性質の投資はよく行われる。そこで使われる文言は「この投資は『戦略的に』必要不可欠なものだ・・・」というものが多く、この投資の価値がどのくらいのものか数字で語られることは少ない。
これをより科学的にアプローチしたものが「リアルオプション」である。第1世代自動車の先行投資をすることによって、将来大型商品になるかもしれない第2世代の自動車に対する投資機会(投資オプション)を手に入れられるわけであり、現時点でのこの開発投資の価値は、第1世代の投資の価値に加え、第2世代の投資を行うかどうかの選択をできる権利の価値も含まれる、と考えることができる。(この権利の価値を数学的に計算することができるのだが、複雑になるので本稿では省略する。)
米国のCEOの4分の1が「リアルオプション」アプローチを用いて経営の意思決定を行っているとのデータもあり、これを機会に考え方のエッセンスや長所・短所を学んでおくことは決して無益なものではないだろう。
松尾大輔
提供:株式会社FP総研