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【メキシコ市・藤原章生】
「メキシコのアルゼンチン化」。こんな言葉が一時、メキシコのメディアを賑わした。ヒル財務相が6月、議会で「国営企業の民営化などに財源を頼る我々は、(90年代の)アルゼンチンと似た問題を抱えている」と発言。これが「危機寸前」と曲解され通貨ペソと株価が下落、大臣更迭の声まで上がった。「両国は全く異なりメキシコが危機を迎える事はない」と収拾に走る財務官僚らに、メキシコ経済の現状を聞いた。
米国仕込みのエコノミスト、財務省のラウル・マルティネス・オストス広報部長は対外債務の表を示し「メキシコはもう国際通貨基金(IMF)から1ドルも借りていません」と強調した。
94年末から95年にかけての通貨危機の際、IMFや日米カナダ政府はデフォルト(債務不履行)を防ぐためメキシコに総額558億ドルを緊急融資した。「我々はIMFの助言に従い危機を切り抜け借金を返した。過去6年間、平均4・5%の成長を続けており、アルゼンチンとは全然違う」と広報部長は強調する。
同省のロドリゴ・ブランド経済財政分析部長によると、海外投資などで貸付金などが回収不能となる危険度を表すカントリーリスクの指数は、アルゼンチンの7000、ブラジルの1500に比べ、メキシコは300。「5年前には3国とも同レベルだった」という。
90年代、国債を乱発したアルゼンチンは1400億ドルを超す公的債務を抱え昨年暮れ、債務不履行状態に陥った。しかし、国民の反発を恐れる政府は、財政緊縮や増税などIMFの出した条件にすんなり従わず、今も融資を受けられない。
「アルゼンチンは国営企業売却で潤った90年代の放漫財政に未練がある。割れてしまった古い皿にテープを貼ってしのごうとしているが、メキシコは割れた皿を捨て新しい皿で再出発した」と広報部長。
メキシコの場合、米国との地理的近さが救いになったとも言える。通貨危機の発生は、94年1月に北米自由貿易協定(NAFTA)が締結された直後。米国にとって対米貿易が全体の8割強(01年)を占めるメキシコ国内の米資本を守る意味も大きかった。「アルゼンチンの主な外資はスペイン、フランス、ドイツなどで米資本は少ない。IMFが支援に消極的な理由はそこにもある」とエコノミストのホセ・ブランコ氏は指摘する。
緊縮財政で福祉を切り捨て、貧富の格差を広げるIMFの手法への反発は強い。これに対し広報部長は「マーストリヒト条約の下、欧州諸国は皆IMF的手法で成長した。IMFと米財務省の助言に従う以外、成長の道はない。何よりもマクロ経済の長期的成長が先であり、貧富の格差は仕方ない」と語る。
だが対米依存の強いメキシコの経済構造は米国の景気動向の影響を受けやすい。米国の景気減速が伝えられる中、今年の経済成長率は低迷しそうだ。「メキシコで政治家がポロリと何かを話した時は、本音のことが多い」。ヒル財務省の発言問題に、ヒメキシコ最大の国営企業、メキシコ石油公社のある幹部は不安を隠せないようにこう話した。