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平成１４年４月からの沖縄振興特別措置法に、金融業務特別地区創設、という項目が盛り込まれ、名護市がその地区に指定されました。では、この金融特区構想とは一体どんなものなのでしょうか？
海外には税制が優遇されている特定の地区に、世界中から金融機関や関連サービス業が集積して金融特区を形成しているところがいくつかあります。ケイマン島やバミューダ島などが有名で、優遇税制の恩恵を受けるためにヘッジファンドなどが設立した実態のないペーパーカンパニーが多いのが特徴です。それに対し、普天間飛行場の代替空港受け入れの条件である沖縄県北部地域振興策の一つとして発案された名護市金融特区構想は、実態のある企業を誘致して、金融関連業務の集積を図り、産業の振興、経済の自立、雇用促進を達成することを目指しています。では、名護市や計画を主導する内閣府の思惑通りに計画は実現するのでしょうか。
名護市が注目している雇用促進型金融特区の成功事例は、アイルランドの首都ダブリンにあるIFSC(International Finance Service Center)です。1987年にスタートしたIFSCには世界中から1000社を超える金融関連業務が集積し、間接的なものを含め8000人以上の雇用を生み出しました。IFSCを中心とする金融関連サービスは、時を同じくして発達したIT産業とともにアイルランド経済の牽引役となり、成熟した経済圏であるヨーロッパにおいて際立って高い経済成長を達成することができました。それに伴い、90年代初頭には15%を超えていた同国の失業率は4%を下回るまでになりました。
そのIFSC成功の最大の要因は、海外からの投資促進および雇用創出のために行われた優遇税制です。IFSCに進出した企業には10%という低率の法人税率が適用されるだけでなく、不動産税の免除や企業に有利な減価償却制度などの優遇措置が受けられる仕組みになっています。同センターは、その名のとおり国際金融業務を主軸におき、海外企業の誘致活動を積極的に展開したことが功を奏したと言えます。
では、名護市も同様に成功することができるでしょうか。
名護市の金融特区もIFSCと同様に優遇税制がとられることになりました。しかし、税制に関する大幅な規制緩和を勝ち取ることができず、特区内の予定実効法人税率は26%というIFSCと比較して高い水準に設定されたばかりでなく、雇用を促進するため、優遇措置を受けられるのは20名以上の従業員を雇用する事業者に限られています。IFSCに進出した企業の従業員数は平均で7名程度であることを考慮すると、適用の基準は厳しいものであると言え、特区への進出のインセンティブが十分であるかどうか大変不透明です。
また、監督官庁の足並みがそろわず、特区の呼び水となるような金融関連業務に対する規制緩和の進展が遅れていることも懸念されます。IFSCの発展は、単に安い人件費を生かしてバックオフィス業務を担う、ということに留まらず、他地域にはみられない先端金融サービスが行われ、それが他の分野へ波及効果を与えたことが大きく寄与したと言えます。名護市の金融特区では、アジア株の取引市場創設などが検討されていますが、今のところ計画が具体化される見通しはたっていません。
「沖縄経済を本土なみに」という掛け声の下、これまで公共事業中心の沖縄振興策がとられてきましたが、その効果は限定的でした。名護市は、ハコモノ建設ではなく金融特区というソフトの振興策による発展を期待しているようですが、最新IT設備を完備した巨大金融センターを建てたはいいが、企業が集まらない、という結果ではハコモノ振興策と代わり映えしません。アジアには既に香港やシンガポールといった金融センターが周辺に控えており、その中で沖縄に金融関連企業を誘致するには関連監督官庁のより一層の規制緩和が不可欠です。そのためには名護市や沖縄県が、特区のビジョンを明確にしてそれをアピールし、国民の多数から強い支持を得る努力をこれまで以上に行う必要があるのではないでしょうか。
シンクタンク研究員 植田昌宏
提供：株式会社ＦＰ総研
題名には必ず「阿修羅さんへ」と記述してください。