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(1)「ペイオフ敵前逃亡」のからくり
通常国会閉幕の前日(7月30日)、小泉首相は衆院本会議で内閣不信任案が否決されると、官邸に柳沢伯夫金融相を呼んで15分間会談した。
柳沢氏は険しい表情のまま無言で官邸を後にしたが、その後記者団に取り囲まれた小泉首相は平然と語った。
「ペイオフは予定通り実施する。不安のないように対応を考えてもらいたい」
言葉通りなら、小泉首相が国会で何度も答弁してきたようにペイオフ実施の方針は変えないという意味になる。
ところが、本音は正反対だった。柳沢氏との会談では、ペイオフ解禁という小泉改革の基本方針を大転換させることが協議されたのである。
金融庁に戻った柳沢氏自身がそれを明らかにした。
「総理から決済性預金の扱いについて検討するように指示を受けた」
説明が必要だろう。預金を1000万円までしか保護しないペイオフは2段階に分けて実施される。今年4月からは定期預金について適用され、来年4月には、普通預金や企業の当座預金などの決済性預金にまでペイオフの対象を広げて、全面解禁することになっている。
小泉首相の指示はそうした制度の根幹部分を見直せというのだから、事実上、ペイオフを凍結するに等しい。
自民党では、ペイオフを全面解禁すれば、信用金庫や信用組合など地方の中小金融機関から預金者が離れて経営危機に陥り、地域経済に大きな打撃を与えるという批判が強く、大蔵族や金融族議員を中心にペイオフを延期させる法案を議員立法で提出する方針を決めた。
それでも小泉首相は国会では一貫して、
「延期はしない。法案も出ない」――と答弁して自民党の“抵抗勢力”との対決姿勢を演じてきた。
国会審議がすべて終わり、もう予算委員会で追及される恐れがないとなった途端に、自ら抵抗勢力に大幅譲歩したことは、まさに“闇討ち”的政策転換であり、これほど不誠実な総理大臣はかつていなかっただろう。
なによりペイオフ解禁と銀行の不良債権処理は小泉首相の国際公約であり、それを何の説明もないままなし崩しに反古にするやり方では、国際社会から日本の金融行政への不信感が強まり、かえって金融不安を深刻化させる危険性もあることをこの人はわかっていない。
(2) 財務省が主導権奪回
小泉首相の突然の豹変の舞台裏に何があったか。自民党政調幹部が明かす。
「信金や信組といった中小金融機関は自民党の重要な支持基盤だ。各議員は地元の金融機関やその融資先企業から、『ペイオフを延期しないと融資が継続できない』と激しい突き上げを受けており、このままでは10月の衆参の集中補欠選挙や来年春の統一地方選挙に自民党は負けてしまう。大蔵族の小泉首相も事情はよくわかっており、表面的には党と対立しても、最後は事実上凍結するということはあうんの呼吸で決まっていた」
その奥には小泉首相を陰で操る財務省と金融庁の暗闘もあった。
就任したばかりの高木祥吉・金融庁長官は7月29日の記者会見で、ペイオフについて、「延期はしない。激変緩和措置も考えていない」――と一切の見直しを否定したが、その翌日に小泉首相が方針転換したことで面目を失い、直ちに情報収集に乗り出した。
今や塩川正十郎財務相と柳沢氏は国民そっちのけの権力抗争を繰り返している。
最初に仕掛けたのは塩川氏だった。今年初めに株価が急落すると、外国人投資家による“カラ売り”の規制を主張し、G8(先進8か国蔵相会議)など国際会議でも柳沢氏と事前の調整をしないまま日本の金融政策について次々と約束した。
それに対して柳沢氏は7月の金融庁長官人事で逆襲に出た。当初、新長官には塩川氏と財務省が推す原口恒和・前総務企画局長の昇格が内定していたが、直前になって柳沢氏が高木長官に差しかえた。
そこで今回のペイオフ見直しでは逆に財務省が巻き返し、高木長官に大恥をかかせた――という具合だ。
(3) 外資=大蔵OBの打算
この7月、財務省と金融庁がペイオフ延期をめぐる水面下の攻防を展開していたさなかに財務省=旧大蔵省の有力OBたちが相次いで外資系金融機関に天下った。
国際金融局次長から関税局長、国土庁事務次官を歴任した久保田勇夫氏が『東京スター銀行』の親会社である米国の投資ファンド『ローン・スター』の日本法人会長に就任し、松野允彦・元証券局長は米国大手証券会社『ゴールドマン・サックス証券』のシニア・アドバイザーに招かれた。
久保田氏は都市基盤整備公団副総裁、松野氏は全国地方銀行協会副会長からそれぞれ外資に転じた。
問題は外資系金融機関がなぜ、この時期に有力な大蔵OBを会長や顧問に招いたかの狙いである。
ローン・スターは99年に乱脈経営で破綻した旧東京相和銀行(現・東京スター銀行)を買収したのをはじめ、日本企業の買収などにすでに4兆円を投資しているとみられており、今年春には新たに約5300億円の企業再生ファンドをつくったばかりだ。これは、経営不振の銀行や企業を買収し、資産を切り売りしたり、あるいは再生させて株価を上げることで高い利益をあげる≪不良債権ビジネス≫といわれるやり方だ。
小泉内閣は銀行の不良債権処理を金融再生の柱に掲げており、ローン・スターにすれば、大蔵OBを日本法人のトップに据えることで財務省や金融庁とパイプをつくり、商売を有利にしようという思惑が透けて見える。
一方の松野氏がシニア・アドバイザーに就任したゴールドマン・サックスは外資の中でも日本の不良債権ビジネスのさきがけ的存在で、昨年1年間だけで4兆円にのぼる日本企業のM&A(合併・買収)の仲介を手がけている。
そればかりではない。同社は今年1月に株のカラ売りを行なっていたとして東京証券取引所などから処分を受けたのに続いて、6月には、関連会社7社が不良債権ビジネスで得た利益50億円を海外に移していた問題で東京国税局から追徴課税された。
その手口は、銀行が抱える不良債権の不動産を安く買い叩き、高く転売した利益を税金の安いオランダの会社に送っていたというものだ。
松野氏は証券局長時代、山一証券の“飛ばし”と呼ばれる損失隠しの経理操作を黙認し、山一破綻の原因をつくったとして国会の参考人招致で追及された人物だが、大蔵省時代は銀行課長や関東信越国税局長を務め、国税当局にもニラみが効く。
そうした経歴をみても、外資への天下りはまさに“用心棒”的役割を期待されてのことではないかという疑問が浮かぶ。ゴールドマン・サックス証券広報部は、率直な言い方をする。
「当然、監督官庁とのパイプ役という面もあるし、そういう方(大蔵OB)がいれば何かとありがたい部分があるということでアドバイザーをお願いした」
日本の銀行が抱える不良債権はIMF(国際通貨基金)の試算では120兆円ともみられており、不良債権ビジネスを専門にする欧米の≪ハゲタカ・ファンド≫からみればまさに垂涎の的だ。
逆にみると、財務省や金融庁が金融行政=不良債権処理の主導権を争うのも、日本の銀行が経営難で天下りの受け入れを減らす中で、外資という新たな天下り先利権をどちらが握るかという対立に他ならない。
(4) 前金融庁長官はシティ天下り説
その去就が注目を集めている大物官僚がもう一人いる。7月に退官したばかりの森昭治・金融庁前長官だ。
柳沢大臣とともにペイオフ実施を推進し、旧長期信用銀行や旧日本債券信用銀行の破綻処理の責任者だった。
その森氏の退官直前、金融庁内にある情報が広がった。「シティバンクから天下りの打診が来ている」――。
森氏は欧米の金融機関の間で極めて評価が高いといわれる。久保田氏や松野氏と同じく旧大蔵省出身で、駐米公使も経験した国際通ということだけではない。森氏は金融再生委員会(金融庁の前身)の事務局長当時に、破綻した旧長銀に総額7兆円の税金を投入して損失を埋めたうえで、米国の投資ファンド『リップルウッド』に10億円で売却した。その際、生まれ変わった新生銀行に対して、引き継いだ資産の価値が2割以上下がれば政府が買い戻すという3年間の『瑕疵担保特約』をつけた。新生銀行はその契約を利用して経営破綻した百貨店『そごう』などへの融資を次々に政府に肩がわりさせることで再建をなしとげた。日本の金融当局による過剰ともいえるサービスを受けたことになる。
そのリップルウッドはシティバンクやゴールドマン・サックスとも投資関係があり、シティバンクのリード元会長は新生銀行のシニア・アドバイザーでもある。
森氏のシティバンクへの天下り説も、金融庁内では「旧長銀の瑕疵担保特約が評価された」とも見られている。
そうだとすれば長銀投げ売りの≪論功行賞≫を提示されたようなものではないか。
さすがに森氏は天下ってはいない。金融庁行政の責任者の立場にあった者として当然の態度だろう。
当のシティバンクでは、
「そうした情報が流れていることは承知しているが、当行としては森前長官に天下りを打診したことはない」
そう否定しており、水面下で交渉があったかどうか、あるいは別の外資系金融機関からの誘いだったのかの真相は、今後、森氏の再就職先が決まればおのずと明らかになる。
(5) ハゲタカの手口「つぶして転売」
小泉首相のペイオフ見直しの指示を受けた金融庁は、早速、企業の当座預金を今後も全額保護する方針を決めて預金保護法改正の準備に取りかかっている。
それと同時に金融庁が進めているのが、地方銀行や信金・信組など中小金融機関の合併や統合の際、税金投入を可能にする仕組みだ。つまり、ペイオフ破綻する前に税金で救済して他の銀行に合併させるか、外資に売却してしまおうという作戦なのである。
中小金融機関が淘汰されることで一番儲かるのは、いうまでもなく、税金投入という“持参金”付きで買収できる外資に他ならない。
前出のゴールドマン・サックス証券以外にも、米国のモルガン・スタンレー証券が日本の不良債権処理で得た利益を海外に隠していたことで東京国税局に摘発されている。
転売の手口もえげつない。
例えば、不良債権の象徴のようにいわれたゴルフ場の場合、外資の手にかかると莫大な利益を生む“夢の投資”となる。幹部が解説する。
「赤字ゴルフ場を二束三文で買収すると、すぐに倒産させる。そうして会員権を紙くずにしたうえで、クラブハウスなどに入っているテナントや社員をすべて追い出す。できるだけカネをかけずにリフォームした上で『新規オープン』と銘打って新たに会員権を販売してごっそりと資金を集める」
外資系金融機関の中には、そうした短期で儲ける不良債権ビジネスを順調に進めるため、日本の金融機関が隠している不良債権を調べ上げて金融庁に“密告”し、金融庁が調査に入って処理を勧告するところを見計らって、
「うちが買収しましょう」
と持ちかける手口で知られるハゲタカファンドもあるほどだ。外資はそうして得た利益の税金も払わず、外国に持ち出しているのだから、この国は完全に食いものにされているといっていい。
立教大学経済学部の山口義行教授は、小泉政権の金融政策を鋭くこう批判する。
「金融庁は外資の手を借りて不良債権処理を進めようとしているが、そもそも外資には日本を再生させようという考えはない。再生可能な企業まで外資の商法に巻き込まれて破綻してしまう。小泉改革とは、金融再生の役に立たないどころか、日本経済を根底から破壊してしまうものだ」
小泉首相は場当たり的な金融政策を打ち出すことしかできず、財務省や金融庁の役人は天下りとひきかえに日本の銀行や企業を売り渡す。
それでは国民の金融資産1400兆円がいずれハゲタカに食いつぶされるのは時間の問題ではないか。