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株式相場の急落、不透明感が強まる景気、内容が十分でなかった「企業規制強化法」の成立――。こうした米国の状況を見渡すと、過去12年間に日本が陥った窮地に米国もはまり込むのかどうかについて考えざるをえない。
「『日本に学ぶ』時がまたやってきたんですね」。先日出席したパーティーでメリルリンチのブローカーにこう質問すると、彼は真顔で「米国はすでに日本ですよ」と答えた。
もちろん、米国と日本には共通点もあれば相違点もある。10年前の日本がそうだったように、米国をリセッション(景気後退)に導いたのは過剰な設備設備だった。需要の落ち込みによる通常のリセッションと違い、こうしたリセッションには金融緩和による景気刺激はずっと効きにくい。
連邦準備制度理事会(FRB)のエコノミストは、研究リポート「デフレの予防:1990年代の日本の経験からの教訓」のなかで「90年代初めの日本で、エコノミストやマーケットがデフレ不況を予測できなかった事実は、同様の状況下にある金融当局にとっての警告だ」とし、「デフレを事前に予測するのは非常に難しい」と結論づけた。(原文は、http://www.federalreserve.gov/pubs/ifdp で入手可能)
FRBがそう考えているのは興味深いが、もう1つの日米の共通点と思えることは、FRBが昨年、次々に利下げをし、住宅ローンが低下したことで、消費者向けローンの多くが「無担保債務」から「住宅担保債務」に形を変えてしまったことだ。つまり、FRBは80年代末から90年代初めの日本のような不動産バブルを作ってしまったわけだ。
相違点
一方、米国と日本の相違点を指摘する専門家は多い。オリエンタル・エコノミスト誌の編集者カッツ氏は「米国ではテクノロジー株がバブルだったが、日本では経済全体がバブルだった」と説明。米国は不良債権が少なく、株価収益率(PER)が低く、投資収益率が高く、何よりも迅速な対応力を持つ政治システムの存在によって、日本が陥った状況を簡単に回避できると主張する。
もっと基本的な理由を挙げるのは、日本に関する著作があるスイスの政治経済学者のレーマン氏だ。同氏は、米国は日本に比べ大学やシンクタンクが優秀で、社会全体に活力があり、移民政策も柔軟なことから、世界中の優れた学者や研究家を集めていると指摘。「自らに問いを発し、自浄作用が働くという称賛すべき能力を備えたダイナミックな社会のなかに米経済は成り立っている」と述べている。
自浄作用?
残念ながら、いくつかの点については首をかしげざるを得ない。民主主義が機能していることが米国の苦境脱出のカギを握るというのは正しい。しかし、迅速な対応力を持つ政治システムや自浄作用があるとの点は疑問だ。こうした理想を高らかに掲げる愛国者や政治家は裏付けを失い始めている。
実業界との関係が深いブッシュ大統領の登場や、最近の企業スキャンダルの続出も偶然とはいえないのかもしれない。米国民は自浄能力を失ってしまったのではないだろうか?民主主義の衰退によって、米国のシステムは自動制御が働かなくなってしまったのではないか。答えはわたしには分からない。考えただけでも不安になる疑問だ。
このほか、日米の相違点として経常収支や貯蓄率の水準が指摘されないことは奇妙だ。バブルがはじけた当時の日本の経常収支は大幅な黒字で、貯蓄率も高かった。これが日本政府の対応を遅らせたのだが、日本がズタズタにならずにすんだ背景に高水準の経常黒字と貯蓄率があったのもまた事実だろう。
一方、現在の米国の経常収支は赤字。赤字額はGDPの3.5%を占めており、今後はさらに膨らむ可能性が高い。貯蓄率はほぼゼロ。家計部分の貯蓄率はマイナスになっている。
こうした状況は、米国は日本が直面しなかった難問にぶつかる可能性を提示する。「米国は日本ではない」という見方は「米国が心配する必要はほとんどない」と同じ意味で用いられることが多いが、米国には日本になかった不安があるということが明白になるかもしれない。(パトリック・スミス)