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新紙幣の発行が決まった。この機会に、円のデノミ(通貨単位の変更)も同時に実施すべきである。本年から1ドルとほぼ同じ価値を持つ1ユーロ紙幣が流通している。円もデノミの実施により、円の価値を分かりやすくすることが重要だ。新紙幣発行に伴うコストと、デノミ実施に伴うコストには、共通なものが多い。新紙幣発行はデノミ実施の良いチャンスだ。
デノミとは例えば、今の百円を一新円と呼ぶ、或いは百円=一両という新単位を導入することである。これまで、百円と表示されていたものが、一新円(または一両)と表示される。
デノミを行うと言うことは、通貨を「分かりやすく」して、通貨に対する国際的な認知度を高める効果がある。地域統合とグローバリゼーションの同時進行は、世界における通貨の数を減らし、通貨間の競争を激化させている。日本が、アジアや世界の中で経済統合・金融統合を進めて行くためには、円の国際的な利便性を高めて、対ドル三桁という発展途上国通貨の姿から脱却することが必要である。ちなみに OECD(経済協力開発機構)メンバー三十カ国のうち、日本よりも対ドルレートの数字が大きい国は、トルコ(七桁)、韓国(四桁)、ハンガリー(三桁)の三カ国にすぎない。
1879年に一円=金0.75グラムと決められたときには、一円は、ほぼ一ドルの価値があった。その後、円はドルに対して減価し、1930年までに一ドル約二円、さらに、1931年の金本位制からの離脱の結果、一ドル約四円になった。それからさらに戦時体制、戦後の極度の品不足、ハイパー・インフレを経て、円の価値は、対ドルで約百分の一になってしまった。戦後の占領下、1949年に一ドル三百六十円と決められた。その後の高度成長と生産性の上昇は、円の対ドル価値を約三倍にして、今にいたっている。
現在、困難な局面に差し掛かかった日本におけるデノミは、明治維新の初心に帰って、もう一度構造改革を行おう、と言う決意表明、さらに戦時・戦争直後のインフレの清算を行い、インフレを将来起こさないという決意を示すことになろう。
デノミへの主な反対論は、単位変更に伴う切り替えコストの発生と、端数切り上げによる便乗値上げの心配である。
しかし、コストの発生は、需要の発生でもある。ATM(現金自動預け払い機)の切り替え、通貨単位の変更のためのコンピューター・ソフトの開発などは、銀行業や流通業でコストだが、電子機械産業や印刷業では、特需となる。経済全体で見ると、GDP(国内総生産)押し上げ効果を持ち、経済の活性化のチャンスとなるかも知れない。
また、現金で保有(タンス預金)している人たちも、新円切り替えに当たり、紙幣交換よりも、いっそのこと耐久消費財を購入しよう、と考えるかもしれない。ユーロ切り替えの際に、スペインでは、耐久消費財ブームがおきた。
既に決まった紙幣発行を前提として考えると、デノミを実現する追加費用(特需)はごく小さなものになる。この新紙幣発行の機会を逃すと、次のチャンスまで、またかなり時間が要る。その間に、世界の通貨統合は進む。ハンガリー、トルコのユーロ圏参加、韓国のデノミが起きれば、世界中で三桁台の主要通貨は、円だけとなる。
便乗値上げや、インフレの可能性があるという声もあるが、広告の氾濫した現代、しかもデフレのジ状況下では、そのような心配は、要らないのではないか。むしろ競争力のある小売店が価格を上昇させることが出来れば、物価下落(デフレ)の脱却につながるかも知れない。
現状がデフレであることは、デノミ実施のためには、またとないチャンスなのである。
東京大学先端科学技術研究センター教授 伊藤 隆敏氏
(専門は国際金融論。ハーバード大博士。一橋大教授、財務省副財務官を経て現職。51歳)