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来春のペイオフ全面解禁の延期論が高まる一方で、個人マネーの一部は銀行預金から金(ゴールド)や不動産といった実物資産へ着実に流出を続けている。すでに金地金の売れ行きは前年より高い水準で推移、投資用のマンション購入も目立っている。全面解禁の実施時期が流動的なため、個人の多くはまだ普通預金に資金を停留させている状態だが、こうした慎重なマネーにも「今年秋ごろに変化が出てくる」(不動産関係者)との見方もある。
<根強いゴールド人気、個人の危機感のバロメーター>
金地金を求める個人客が絶えない東京・日本橋の田中貴金属工業本社。店員が取り出した時価約130万円相当、重さ1キログラムの純金の延べ棒(金地金)の表面には、指紋のような波状の模様がうっすらと光り、鋳造の際に最後に冷えた部分には表面張力の影響でヘソ状の窪みがある。およそ縦11.3センチ、横5.2センチ、厚さ1センチの金塊は、手のひらにずしりと重い。
このゴールドバーが、4月のペイオフ一部解禁の後も、根強く売れ続けている。田中貴金属工業によると、6月の投資用金地金販売量は前年同月比で約2倍。今年2月の8.5倍には及ばないものの、「先行き不透明感から分散投資の一環として、若年層から高年齢層まで幅広い世代が購入している。購入者にタクシーを呼ぶことも少なくない」(同社)という。
ペイオフ前夜ともいわれた今年1─3月に、日本が輸入した金は40トン以上。昨年10─12月と比べ2.5倍へ膨らむなど、金への需要は飛躍的に高まった。だが、金融庁による銀行安全宣言に伴い金の需要は落ち着き、4月以降の個人投資家は、1─3月と比べて模様眺めになっている。
金の調査研究などを国際的に手がけるワールド・ゴールド・カウンシルの豊島逸夫氏は、こうした状況を、来春のペイオフ全面解禁の行方をにらみながらの“普通預金へのパーキング”と表現する。「来春のペイオフ全面解禁が延期される可能性も高く、まだ猶予期間があるとの見方から、個人マネーは普通預金に“パーキング”している状況だ。一般投資家は目先の危機には敏感に反応するが、いったん危機が遠のくと、のど元過ぎれば、となりやすい。今年はその繰り返しが続くだろう」として、一進一退が続くと述べる。
「個人が危機感を感じる局面になると、金といった実物資産への資金流入が強まりやすい。7月に入り株価が急落しており、再び日本の金融システムに不安を抱き、金に投資する動きも始まっている」と、同氏は微妙な変化にも言及している。
<都心部の不動産投資も堅調、年金不安や超低金利も購入要因に>
三菱地所<8802>が日本最大級の超高層ツインタワーとして売り出した東京・江東区東雲のW(ダブル)コンフォートタワーズ。30代の購入が約半数を占める一方で、「ペイオフ解禁をにらみ、40代以上の方が、投資目的で1LDKタイプを購入する動きが通常よりも目立った」(三菱地所)という。
不動産経済研究所によると、首都圏の1─6月の新築マンション発売戸数は史上第二位の4万4090戸と、当初予想を上回る数字となった。工場移転や企業のバランスシート調整に伴い、都心の土地が次々と出ていることも影響している。角田勝司社長は、実需面について、「大企業サラリーマンの需要が減った分だけ、シングルや団塊ジュニアの需要が増えている。熟年層の都心回帰も強まっている」とトレンドを説明する。
こうした都心回帰の流れや単身世帯の実需にも下支えられ、都心部での投資用ワンルームマンション販売は堅調だ。個人投資家向け投資用ワンルームマンション販売で、首都圏最大手の菱和ライフクリエイト<8896>の西岡進社長は、ペイオフも不動産需要を支える一因だと指摘する。西岡社長は、「特に年明け以降、4月のペイオフ一部解禁にあわせ、50代以上の方による投資用ワンルームマンションの現金購入が増えた。普通預金に待機している個人マネーの動きは、4月以降はまだ本格化はしていないが、今秋ごろに何らかの変化が出てくるのではないか」と期待を込める。
さらに西岡社長は、ペイオフ要因に加え、超低金利の銀行預金と比べた投資妙味や公的年金の減少をにらんだ将来への備え、といった要因も不動産投資をサポートしていると語る。
不動産コンサルタントの井上康子氏も、「高所得の30代の単身女性が中古マンションを都心部で購入する姿が目に付く。自分のために1戸、投資のために2戸、合計3戸というようにローンを組んで購入している。日本人は不動産投資に及び腰とされるなかで、魅力のある金融商品が乏しいことも大きい」と述べる。
各地で開催される個人向けマネープランセミナーも、白髪の高齢者から子連れの若手ファミリー層が集まり盛況だ。「それだけ将来に不安を抱える人が多い。個人のペイオフ対策でお金の流れ先の代表はやはり普通預金だが、将来の年金不安や超低金利による運用難も手伝って、金や投資用マンションも売れている」とファイナンシャル・プランナーの武田浩美氏は指摘する。
内閣府のデータによれば、家計における2000年末の非金融資産(実物資産)は1247兆円、金融資産は1415兆円。99年からは実物資産のほうが金融資産を下回っており、「実物資産の多くを占める土地の資産額が目減りした影響が大きい。実物資産と金融資産を合計した総資産も縮小しており、株価下落を含め、資産デフレの影響が否めない」(複数のエコノミスト)。
J.P.モルガン証券・調査部長の菅野雅明氏は、ペイオフの影響について、「一言で言うならば多様化が進んでいる。1─3月は安全資産だけに資金が向かったが、4月以降は手探り状態。ここにきて、米国株安に端を発した金融市場の不安定性が増しており、個人は再び様子見になりかけている。今後デフレが進むならば、土地など実物資産へ資金が向かいづらくなる可能性がある」と述べ、微妙な状況にあると指摘する。ペイオフ解禁後の銀行預金は決して安全とは言えないが、金相場の振れや不動産の流動性の低さなど、実物資産投資にもリスクは残る。
今後、個人マネーの地殻変動がどのような形で明確になるか、積み上げられた金融資産は実物資産に向かうのか──。「ペイオフ全面解禁をにらんだ個人マネーのシフトは確実に広がっている」(ファイナンシャル・プランナーの武田氏)との声が聞かれている。