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日本経済に“円高恐慌”が迫る。１６日の海外外為市場で円は一時１ドル＝１１５円台に突入し、１７日の東京外国為替市場も開始直後、約１年５カ月ぶりに１１５円台をつけた。日本経済にとって、「１１５円」は生命線。国内主要輸出企業の平均採算ラインであり、これを突破すると、日本経済の頼みの綱の輸出部門が採算割れで「赤字」転落し、「歯止めを失い、一気に１１０円まで円高が進む」との見方が強い。円高阻止の有効な手立てを持たない政府・日銀に勝ち目はあるのか…。
「日本の事情による円高というよりも、米国の事情によるドル安だ。景気の先行き不安や相次ぐ粉飾会計の発覚による“米国不信”が根底にあるだけに、日本としては打つ手がない」
「しかも、米国の通貨当局は米国輸出企業に追い風となる円高ドル安をむしろ歓迎し、日本の当局が協調介入を呼びかけても、知らん顔。市場は日米当局の“ミゾ”を見透かし、円買い・ドル売りを仕掛けている」
大手銀為替ディーラーは、いっこうに歯止めがかからない円高の背景をこう解説する。
１６日のロンドン市場では１ドル＝１１５円４１銭を付け、昨年９月の米国同時多発テロ直の１１５円８０銭を破り、年初来高値を記録した。
続くニューヨーク市場も、１１５円台後半で取引を終え、１７日の東京市場も開始直後の午前９時現在、１ドル＝１１５円８９−９０銭と前日（１１６円３２−３５銭）に比べ４４銭の円高・ドル安となり、昨年２月２８日以来、１１５円台に突入した。
１ドル＝１１５円は日本経済の命運を握る生命線だ。内閣府が今年１月に上場輸出企業に対して実施したアンケート調査によると、輸出が赤字とならない採算レートは平均で１１５円３２銭。現在のレートはまさに赤字スレスレの水準なのだ。
塩川正十郎財務相が「１１５円まで容認」という具体的水準に言及し、円高を加速させる“大失言”をやらかしたが、これも日本の当局がこのラインをいかに重視しているかの表れだろう。
「円高になると、日本からの輸出品のドル換算価格が上がり、売れなくなる。ドル価格を下げれば採算が悪化する。しかも、ドルの売り上げを円換算して受け取る代金も目減りする。何とか景気が底入れした日本経済だが、米国向けを中心とした輸出だけが頼みの“一本足打法”。支えの輸出企業の業績が悪化すれば、日本経済はたちまち失速してしまう」（銀行系証券エコノミスト）
輸出企業では、年度初めに想定為替レートを設定し売上高や経常利益を予想する。この想定レートを基に円売りドル買いの為替予約を入れておき、円高が進んでも円の受取額が目減りしないよう準備している。
日銀短観の６月調査によると、対象企業の想定レートは平均１２５円７３銭。昨年度末のレートは１ドル＝１２７円台だから、当時、大半の輸出企業経営者は「米国経済はＶ時回復し、日本経済は低迷が続く。従って、円が強くなることはない」と考えていたわけだ。
ところが、ふたを開ければ、３カ月で１０円以上の急激な円高。今、輸出企業の経営者は「真っ青」になっている。
今年３月期決算で経常利益が空前の１兆円を突破したトヨタ自動車の場合、想定レートは１２５円。１円の円高が進むと売上高が１００億−２００億円が目減りするため、１年間１１５円水準が続くとすると、１０００億−２０００億円もの減益要因となる。
想定レートが１３０円のソニーの場合は、減益要因はなんと４５００億円にも達する。
円レートが１１５円台で何とか踏みとどまってくれれば、それでも何とかなるが、先行きはまったく予断を許さない。
グリーンスパン米連邦準備制度理事会（ＦＲＢ）議長は１６日（現地時間）の議会証言で、「最終需要は増大しているが、今後の拡大ペースは不確かだ」と述べており、米国経済の先行き不安によるドル売り圧力はまだまだ続くのが確実だ。
さらに、単なるドル売りではなく、ドル安、株安の「米国売り」が本格的に始まっているとの指摘もある。
「これまで絶好調の米国に世界中から資金が流れ込み、これが米国の株高を演出してきた。これらの資金が一斉に米国から退避し始めており、最近の米国株安はその表れ」（在米日系証券アナリスト）というのだ。
日米通貨当局の思惑の違いから協調介入の実現は絶望的。日本政府は依然として、「景気は一部で持ち直しの動きがみられる」とうそぶく。
手をこまねいている間に、確実に“円高恐慌”は迫りつつあるのだ。
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