現在地 HOME > 掲示板 ★阿修羅♪ |
|
民間企業の設備投資の先行指標である機械受注が5月も増加。設備投資は低迷を続けると考えていた政府も景気の現状判断を上方修正しそう。しかし政府の考えをこのまま信用していいのだろうか?
本日(7月11日)、内閣府から7月の月例経済報告が発表される予定だが、おそらく景気の現状判断は上方修正されるだろう。5、6月の「景気は底入れしている」という表現が「景気は一部で底離れの動きもみられる」といった形になると予想している。多くの読者にとっては、「底入れ」も「底離れ」も同じように思えるだろうが、政府が「景気の現状はさらに改善している」と判断しそうだということくらいは覚えておいても良いだろう。
景気の現状を整理すると、マクロ統計ベースでの輸出、生産、業況判断の改善が目立つ。5月の貿易統計をみると、輸出数量は前年比14.8%増と大幅に上昇した。アジア向け輸出が鉄鋼、化学、半導体を中心に大幅に増加したほか、米国向け、欧州向け輸出もプラスに転じている。また5月の鉱工業生産は、輸出が好調な電気機械、輸送機械、一般機械を中心に前月比+3.9%と4ヶ月連続で増加した。在庫調整は終了しており、出荷は16ヶ月ぶりに前年比プラスに転じている。6月調査の日銀短観をみると、全体的に景況感の改善が示されている。企業の景況感を表す業況判断DI(「良い」−「悪い」)は、大企業・製造業が3月時点の予測−27を大幅に上回る−18と急改善。大企業・非製造業は製造業より緩やかであるが、同予測−21を上回る−16までマイナス幅が縮小した。中小企業でも、業況判断DIは改善に転じており、特に製造業ではマイナス幅が大幅に縮小している。
これだけ材料が揃っているのだから、政府が景気判断を上方修正しても問題ないように思える。確かに、現状は輸出の回復から生産活動も活発化し、製造業を中心に業況はよくなっている。しかしこうした状況はすべて輸出の状況次第。最近のドル安・円高の進展で輸出が腰折れしてしまえば、回復のシナリオは全て壊れてしまう。公共投資は厳しい財政事情を背景に減少基調を続けている。個人消費も雇用所得環境が厳しく大幅な増加は期待できない。政府が景気判断の上方修正に慎重になるのも分かる気がする。
読者もご存知のように、GDPの構成要素には輸出、公共投資、個人消費の他にも、民間企業の設備投資という大きな需要項目がある。ただ設備投資の原資である企業収益は、依然として前年比マイナスであり、企業の設備投資意欲は非常に低い。政府の景気ウォッチを担当する竹中経済財政担当相も設備投資が自立的に増加するとは考えていなかったようだ。実際、6月27日の講演では、「日本の法人の税負担は著しく高い。法人課税の実効税率引き下げが必要だ」と述べ、法人の税負担を軽減する必要性を改めて指摘した。これは減税でもしなければ設備投資は増えないという考えの裏返しだろう。しかし大幅な法人減税については、財務省が難色を示しており、すぐに現実化しそうな雰囲気ではない。結局、リスクがあるとは分かっていても輸出に寄りかかるしかない、と竹中大臣は諦め半分だったに違いない。
そんな状況が今週月曜日(7月8日)に逆転した。設備投資の先行指標である5月の機械受注(船舶・電力を除く民需の受注額)が前月比0.2%増と2カ月連続で増加したのだ。じつは市場のコンセンサスは前月比−3%前後。4月が同比8.4%増と大きく増加したため、5月はその反動減が予想されていたのだが、実際は反動減もなく増加を維持したことになる。これで来月発表される4-6月期は、01年4-6月期以来の前期比プラスに転じる可能性が高くなる。過去のパターンをみると、機械受注は設備投資の動きより半年ほど早く動く性質を持つので、このパターンを機械的に当てはめれば、設備投資は今年の秋口には底打ちし、輸出から設備投資へのバトンタッチが、ギリギリのタイミングで成功することになる。
ここまで読んで、少しできすぎた話ではないか、と考えた読者もいることだろう。そのとおり。誰も政府の景気回復シナリオを保証しているわけではない。機械受注は設備投資の先行指標であるが、これだけで設備投資の動向を完全に予想できるわけではない。日銀短観や他調査機関による設備投資アンケートは、依然として設備投資の低迷を示している。仮にマクロベースで設備投資が回復したとしても、業種によって回復度合いは異なるので、株価の動向は一様ではない。政府発表を鵜呑みにせず、常に真偽をチェックするのが投資家である読者の仕事だ。そして私のようなエコノミストやアナリストの意見を有効に活用できるかどうかで自分のレベルを知ることができる。
マーケットエコノミスト 秋新作
提供:株式会社FP総研