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米国が大きな転換点に差しかかったとみる水野氏に対して、嶋中氏は過大評価されていた米国経済の修正局面とみる。ただ、2人とも、長期的には「ドル安」で一致する。
水野 和夫(国際証券執行役員・チーフエコノミスト)×
嶋中 雄二(UFJ総合研究所投資調査部長)
今、アメリカで起きていること
―― 米国経済が揺れ出した。
水野 米国は1995年以降、実体経済と連動した強いドルとニューエコノミーで株価が上昇、NYダウ平均は1万1700ドルまで上がった。ドル高は資産効果を高め、購買力が強まって米国内の景気は過熱した。株価上昇は2000年8月まで続いたが、翌9月、半導体のインテルの業績修正という「インテル・ショック」で急落。ITバブル崩壊に至った。その後、01年9月の同時多発テロのショックや、それによる愛国的な動きなど攪乱があったが、ドル高は続いた。そのドルが、実効レートでも今年1月から下落し始めた。
ドル安は00年9月からの米株価バブル崩壊の調整の必然的な過程といえ、日本のファンダメンタルズと関係なく起きている可能性が高い。円高ではなく、あくまでドル安だ。
悲観と楽観の錯誤(嶋中氏)
嶋中 年初の日本経済には悲観論が広まっていたが、3月8日の01年10〜12月期GDP発表直後から、景気底入れ機運が出始め、5月17日の政府の底入れ宣言あたりから、為替市場の受け止め方も徐々に「日本の景気回復」へ変化した。一方、米国は同時多発テロで本格的に景気後退に入り悲観論もあったのだが、昨年末にかけ回復した落差で過大評価が生まれた。現在は、その修正局面と考えるべきだろう。
日米の鉱工業生産の前年比の差は、円・ドルレートと連動している。日本の景気が米国に対して急速にキャッチアップしてきたことが米国の弱さを認識させることにつながり、日銀の量的緩和のペースダウンと相まって、ドルを相対的に下げる面もある。しかも、ワールドコムのような不祥事が起きれば、「米国資本主義の敗北であり、企業収益の立ち直りは期待できない」という悲観論が強まるが、これはケインズ流にいえば「楽観と悲観の錯誤」だ。過度に楽観的だったぶん、その落差から悲観が生まれているだけで、それも早晩修正されるとみている。
以上は短期的な話であり、長期的には、ITバブルを含む米国の10年間以上の景気拡大期の金属疲労が出る可能性は大きい。ただ、だからといって、これからとんでもないことになるとは思えない。
水野 米国経済は、00年9月から大きな転機が起きていると考える。冷戦終結で米国の資本主義は一応勝利した形だが、本当に世界の評価に堪えうるかは疑わしい。「働いた者が報われる社会にする」という米国資本主義の理念は、一定の枠内でしか通用しない。それが、テロ事件などの背景であることは明らかだ。冷戦終結までは、東側世界があったから、その問題は表面化しなかったが、今、米国資本主義の本性があからさまになっている。
嶋中 日米の長期建設循環あるいはクズネッツ・サイクル(建設投資にみられる17〜18年の変動サイクル)は、逆サイクルになっており、日米経済は10年ごとに逆転している。90年ごろは日本がピークにあり、日本の経営者は日本的経営が素晴らしいと威張った。一方、ここ数年は、日本人が盲目的に米国資本主義を模倣している。
現在の米国は、短期の在庫循環では回復局面だが、長期的には建設循環の下り坂だ。90年代の米国は建築契約床面積や構築物建設投資が拡大する循環上昇局面にあったが、最近そのストック調整に入り、90年代の日本に近い動きになりつつある。
逆に、日本は今後、長期的に上がっていく。日本の建設循環は80年代がバブル、90年代はその調整で、現在は調整の終局だ。首都高速道路など東京五輪(64年)前後にできた社会資本が陳腐化しており、その更新投資が起こる。もうひとつは、サッカーW杯で売れたプラズマテレビなどの次世代型耐久消費財や燃料電池自動車など、商品化が遅れていたものが動き始めている。その普及率曲線が10年間の期間で上昇していく流れだ。
危機にある資本主義(水野氏)
水野 今後10年間は、嶋中さんと同じ考えだと思うが、その後の10年は見方が異なる。
なぜか。現在は、資本主義の危機だ。資本主義とセットで成立した主権国家の枠では、今後起きようとしているグローバルな資本主義に対応できないからだ。
初期資本主義では、市場の監視役として、荘園制よりも、オランダやイギリスぐらいの国家規模が適したため、主権を神から地上に置くという16世紀の宗教改革が資本主義を後押しした。しかし、主権国家が国境を決め、徴税権を持つ資本主義の枠組みは、インターネット革命で曖昧になった。
経済のメカニズムはグローバル化し、先進国内では利潤が小さくなったため、途上国との内外価格差を利用し、利潤を確保するなどの動きはどんどん進む。そのグローバルな資本主義をコントロールできるメカニズムができるまでには、相当な時間がかかる。日本も米国も含め、資本主義全体が今後、混迷期に入る可能性が高い。
―― ドル安はどこまで進むか。
水野 今のドルのバスケット通貨(各国の通貨を一定割合でバスケットに入れたように合成して作った仮想上の通貨)は実質実効レートで86年並みの水準だから、円でいえば170〜180円のイメージだ。裏返せば、円が現在1ドル=120円台でそのイメージより円高にあるということは、ユーロが相対的に過小評価されているということを意味する。
為替レートは資本の流れで決まる。サマーズ前財務長官は、米国の資本効率がいいからドル買いが起き、経常赤字になると説明したが、その資本効率とは株価上昇だった。2回目のバブルはそう簡単に起きないだろうから、1ドル=100円、さらには1ドル=80円の可能性もある。
そうなると大変だ。日銀、欧州中央銀行(ECB)が介入し、最後は米連邦準備制度理事会(FRB)も出てくる。その連携で、最終的にドル安回避の合意はできるだろうが、ドルが相当安くならなければFRBの介入はないから、5年タームでは、1ドル=100円から80円の可能性は十分にあり、瞬間的には79〜75円を超える場面も考えられる。
ただ、そこで相場が定着することはないだろう。
嶋中 その点は同意見だ。円高・ドル安の方向に行く。これから10年間、時間をかけながら1ドル=70円台を目指すのではないか。米国が長期的に悪いなか、日本が長期的に好転していくとみるからだ。
もう一つ、重要なのは、中国が世界の需要吸収力を持つ巨人になることだ。今は中国からの安い製品の流入が問題にされるが、今後は現在の米国市場のような巨大市場となるだろう。
日本経済に力強さはあるか
―― 日本の景気の見通しはどうか。
水野 1〜3月、4〜6月で生産の回復をみると、電機、自動車など輸出比率の高いところは非常に順調に生産が伸びたが、それ以外はほとんど横ばいだ。1〜3月のGDPは個人消費と輸出が半々の寄与度だが、個人消費はあまり期待できず、前期はほとんど輸出だけでGDPが押し上がっていく。貿易統計をみると4〜5月も輸出が伸びているから、輸出主導で十分プラス成長だと思うが、7〜9月あたりから輸出比率の高いところもほぼフラットに入る。7〜9月がピークとなると、景気のボトムの1月から9カ月しか回復しない。これを景気回復と言えるのか。
20カ月は続く回復(嶋中氏)
嶋中 私は、20カ月、景気回復は続くと思う。今年の10〜12月期にちょっと落ちるが、ダウントレンドには入らない。その理由は、CI(コンポジット・インデックス)の一致・遅行比率など長期的な先行指標が上向いているからだ。株価も景気動向指数上は前年比で採用されており、今後はプラスになる。景気回復は年内は挫折しないのではないか。また、現状は輸出主導だが、米国向けより、中国を中心としたアジア向けが猛烈に出ている。4〜5月平均では、アジア向けが前年比18・2%増、対米向けが同0・9%増。もちろん米国の影響を受けるが、アジアが緩衝材となり、多少円高になっても持つだろう。
さらに最近、個人消費が少し改善してきた。5月はプラズマテレビなどで家電が相当持ち直し、販売統計では乗用車が底堅い。百貨店・スーパーも底入れしている。設備投資も、機械受注が4月に上向きの動きをみせ始めた。機械受注は設備投資に対し3〜6カ月先行するため、下期には設備投資も前期比プラスになる。内需に少し動きがみえてきている。
水野 所得からみれば、消費はかなり無理している。実質べース、前期比べースで横ばいだが、雇用者所得は2%ぐらい下がっているから、今のテンポを維持するのがせいぜいだろう。テレビが大幅に売れた一方で、落ちている商品もある。
アジア向け輸出も、アジアが米国圏から外れた自律的な内需に入ったかといえば、そんな段階ではない。米国では株価が下がると翌月の個人消費が落ちる連動がある。4〜6月の輸出は、日本からは出荷だが、米国内で在庫になっている可能性が高い。設備投資については、電機・機械工業は今一番出荷が伸びているが、実質稼働率に直すと6割だ。これでは単に更新投資ぐらいしか起きない。
この15年間、米国頼みから抜けだし自律的な経済にするのが目標だったはずだが、結局、公共投資を含めた外生需要頼みから日本経済は脱していない。
嶋中 公共投資が過去5年間抑えられ、景気を落とした原因になっている。公共投資を普通の伸びにしておけば、ここまで落ちていない可能性も考えられる。公共投資は落とし過ぎだと思う。国債発行30兆円枠は撤廃し、都市再生など必要な社会資本整備には聖域を設けるぐらいの気持ちで取り組んでほしい。
株安の展開に(水野氏)
―― 日本の株価はどう動くか。
水野 方向は株安だ。2月に9420円のバブル後最安値まで下がった後、政府のデフレ対策効果があった。5月に1万2000円をもう一度織り込む展開となったが、これは3月時点での企業収益3割増益予想が、5月に6割増益に上方修正されたためだ。しかし、4〜6月期の決算が7月に出て、それが未達の可能性が高まってくる。
嶋中 要は、短期循環で基調はどう向かっているかだ。回復途中では、エアポケットのようにふっと高度が下がることはある。ワールドコム事件や、テロ懸念、中東・印パ情勢、第2次デフレ対策など、いろいろな材料をこなしながら、株価は結局は、上向いていくとみる。
米国経済は「先行き不安」
米国経済は好調な個人消費と住宅投資に支えられ、1〜3月期は6.1%(前期比年率)という予想外の高成長率となったが、これが持続するという見方は少ない。
みずほ総合研究所の真壁昭夫・主席研究員は「市場関係者のコンセンサスだった7〜9月期以降の回復シナリオは可能性が低くなった」という。4〜6月期成長率のコンセンサスは2〜2.5%(同)だが、「1%台もありうる」(真壁氏)。株価下落による逆資産効果に加え、住宅ローン金利引き下げや昨年の減税が消費を下支えする効果が薄れ、企業収益の下方修正で設備投資予想も低調だ。
クレディスイス・ファーストボストン証券の岡田靖チーフエコノミストも「実体経済の数字こそ堅調だが、金融市場に問題が生じ、デフレ傾向も見えている。これらは何らかの形で実体経済に波及する。成長率低下は避けられない」とみる。(編集部)