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あおぞら銀行(旧日本債券信用銀行)が漂流している。四八・八%の株式を保有する筆頭株主、ソフトバンクの資金繰りが崖っぷちに立ち、保有株を手放さざるを得なくなっているからだ。
六月十二日、ソフトバンクの孫正義社長は衆議院財務金融委員会に参考人として出席、「保有株の売却を検討し始めた」と述べた。「検討段階であり、売却するかどうかは決めていない」と言葉をついだが、孫社長自身が売却の可能性に言及するのは初めてのこと。固唾を呑んで見守っていた行員の間からは「やはり」という溜息が漏れた。
だが、売却がいつ、どこに、となると、迷走ぶりが浮かびあがる。孫氏自身、他のあおぞら銀株主のオリックスや東京海上火災保険と「二年間は保有すると合意していた」ことを認めた。少なくとも八月末までは保有するが、それ以降は白紙なのだ。また国から譲渡を受けた際に「長期保有」を約束する一札を入れているため「契約の解釈は十分検討したい」と言葉を濁さざるを得なかった。
同じ委員会で参考人に呼ばれた「売られる身」の丸山博あおぞら銀社長は「もし売却せざるを得ないなら、今後の経営にプラスになる良い株主に譲渡してほしい」と、ハゲタカ・ファンドに売って「新生銀行(旧日本長期信用銀行)の二の舞」にならないよう釘を刺した。柳澤伯夫金融担当相も「少なくとも売却は三年待ってくれると考えている」という塩漬け期待をにじませる発言をしている。
金融庁は露骨にサーベラス排除
しかし、新しい枝から枝へ飛び移るしか能のない「浮気鳥」孫社長は、金融庁から厄介な荷ばかり背負わされる銀行にとうに興味を失っている。あおぞら銀を通じてベンチャー企業向けの投融資を拡大するという構想だったのに、国から「ソフトバンクの機関銀行化」しないようがんじがらめにされたうえ、あてにしていた北尾吉孝ソフトバンク・ファイナンス・グループ会長の協力も得られなかったからだ。
残る頼りはそれぞれ一五%を保有するオリックスと東京海上だが、オリックスの宮内義彦会長は当初、国の特別管理下で経営にあたった本間忠世・元日銀理事にあおぞら銀の経営を任せるつもりだった。だが、自殺で目算が狂い、オリックスから丸山社長を出す羽目になる。ソフトバンクからは笠井和彦取締役(富士銀行出身)が非常勤会長に送りこまれたが、まったくのお飾り。東京海上取締役から転じた岩下智親専務(六月二十四日付で退任)が働き蜂で、オリックスと東京海上で経営を支える形になっていたが、宮内会長にはあおぞら銀の経営を引き受ける余裕はなく、株を買い増す気もないようだ。
しかもあおぞら銀内部は、旧日債銀組が割れている。鞘当てしているのは稲垣裕志常務と小倉泉常務。二人とももとは日銀出身だが、故勝田「天皇」以来、外部頭取を抱えてきた旧日債銀には進駐軍を取りこんで官僚化させる風習がある。二人は経営刷新そっちのけで派閥抗争に明け暮れている。
これでは孫社長に嫌気がさすのも無理はない。が、孫社長にとって差し迫った問題は足元のソフトバンクの経営に火がついていることだ。ナスダック(米店頭株式市場)の底割れで、トラの子だったヤフーなど保有株の含み益は急減し、六月二十一日現在で五千億円を割り込んでいる。ソフトバンク自体の格付けがジャンク(投資不適格)となり、非対称デジタル加入者線(ADSL)を利用したブロードバンド(高速大容量)事業—ヤフーBBはまだ採算割れなうえに、今後も膨大な投資資金が必要だ。売れば利益の出るあおぞら銀株は一刻も早く処分したい対象だろう。
いの一番に名乗りを上げたのは、すでに株式の一一・五%を保有する米系投資ファンドのサーベラスである。本来なら、投資資金が潤沢なサーベラスに、株式を譲渡するのが順当な成り行きなはずだ。ところが、金融庁は頑として首を縦に振ろうとしない。
何と言っても「同じ地獄を見た」新生銀行の小骨がのど元に刺さっている。あおぞら銀に先立って新生銀は、米系の投資ファンド、リップルウッドが募集した投資組合「LTCBパートナーズ」に譲渡されたが、その契約に瑕疵担保条項が盛りこまれたため、新生の「貸しはがし」に対する融資先企業の怨嗟の声は国内に蔓延している。野中広務・元官房長官も瑕疵担保を認めた柳澤金融担当相の甘さを批判した。
柳澤金融担当相も、リップルウッドと五十歩百歩のサーベラスにあおぞら銀まで渡してしまえば、政治的にも風当たりが強まることを恐れている。臆病な金融庁も政治家に小突き回されるのはご免で、「サーベラスにだけは売れない」というのが本音なのだ。
だから、日本経済新聞(六月十一日付)で「金融庁が金融機関の株を二〇%以上保有する主要株主に対して規制を強化し、短期の株式売却益を狙う投資ファンドには主要株主になることを認めない」という記事を書かせたのだ。明らかにサーベラス排除である。
「日本連合」はとんでもない劇薬
だが、ほかに買い手はいないのか。孫正義社長の見積もりでは、あおぞら銀の資産価値は一二〇〇億円ほど。その四八%だから、総額では五百億円から八百億円あたりが売値になりそうだ。候補は限られてくる。
▼ローンスター これも米系投資ファンドに変わりはない。すでに東京スター銀行(旧東京相和銀行)を手中に収めているが、あおぞら銀と東京スター銀を合併させて株式公開を目指す。
▼BNPパリバ フランスの大手銀行である。新生銀のときにも出てきた名前である。こちらはファンドではなく、銀行自体であおぞら銀を買うもので、買収資金が巨額なだけにBNPパリバがどこまで本気か不明だ。しかし柳澤金融担当相と金融庁の「外資毛嫌い」を考えると、どうも目がない。国内勢はいないのだろうか。
▼地銀連合 あおぞら銀の弱みは旧日債銀のリテール(小口金融)の弱さをひきずって顧客基盤が薄いところにある。それならリテールに強い地銀とホールセール(大口金融)に強いあおぞら銀を組み合わせれば、相互に弱点を補いあえる。コンサルタント会社が持ちかけたが、地銀の側が三月危機をやり過ごしたことで危機感が薄れ、カネが集まらずに立ち消えになった。
そこへ究極の「劇薬」が登場した。
▼日本産業投資 日本版投資ファンドという触れこみだが、正体がはっきりしない。日経新聞がそこに名を連ねる人士の名に幻惑されて「日本連合」として持ち上げたため「白馬の騎士」と勘違いされた。今年三月に設立されたというが、実際は一九九二年十月に成立している。今年三月に港区赤坂から千代田区霞が関に本社を移転した形で、休眠会社をにわか仕立ての投資ファンドに衣替えしたのだろう。
「A行投資趣意書—新しい産業金融・信用創造の再構築を目指して」
株取得の名乗りを上げるに際して、日本産業投資が作成した趣意書のタイトルである。A行とはあおぞら銀のことだ。新たな事業分野として「企業再生事業・アドバイザリー・M&A(企業の買収・合併)の強化」、「自己資本投入による不良債権投資の強化(あおぞら債権回収会社機能充実)、「ファンド設立による企業再生・不良債権投資の強化」などを挙げている。
収益の見積もりは、アドバイザリー業務による手数料収入が年十億円、不良債権投資が年五百億円程度の投資で七十五億円程度の収益、ファンドについては運用資金が五百億円として十億円の収入—などとなっている。いずれも現在、年四百億円を超える貸し出しによる収益に比べると小さいが、銀行そのものを不良債権ファンドに変えてしまうという「ビジネスモデル」が浮かび上がってくる。
「私募CBグループ」と関係?
代表取締役は弱冠四十二歳の公認会計士、土井真樹氏。土井氏は東大在学中に公認会計士試験に合格。卒業後、新日本監査法人に入った後、一九八八年には土井公認会計士事務所を設立するという経歴の持ち主だ。ベンチャービジネスへのコンサルタント業務にも熱心で、ベンチャーキャピタルの「アップライズ・キャピタル」や経営コンサルタントの「ソロンマネージメントシステム」などを設立している。
趣意書では、取締役に石坂康彦・元三菱銀行常務(石坂泰三の四男)、松平忠晃・元埼玉銀行会長(日銀OB)らが名を連ねている。ただ、中には「名前を貸しただけ」と思わぬ反響に驚いている人もいるという。
だが、華麗な経歴や名士の列挙はかえってうさん臭い。土井氏は二年前、日本初の会社型不動産投資信託(REIT)となった「日本不動産投信」の役員を務めていた。同投信が投資家の資金集めに苦労するのを見て、土井氏のお声がかりで東証二部の明治機械、昭和ゴムといった仕手銘柄企業の資金を八億円集めてきた。見返りなしに、仕手資金が投じられることなど本来あり得ない。案の定、土井氏は同投信に五億円の増資を求めた。
「会社を乗っ取ろうとしている」と疑った日本不動産投信の株主は、増資差し止めを求めて東京地裁に仮処分を申請した。五億円の増資を引き受けることになっていた「アップライズ一号中小企業等投資事業有限責任組合」は、土井氏が支配している。増資引き受けを機に〇・一一%しかない支配権を一気に五三・六%に拡大しようとしたのだから、「乗っ取り」と疑われたのだ。結局、土井氏は訴訟で争うことを避け、東京地裁から仮処分が下っている。
これが、業績不振の上場企業を乗っ取り、私募CB(転換社債)や第三者割当増資による資金調達を繰り返し、株価操縦を図る「私募CBグループ」と土井氏の関係を疑わせる原因になった。明治機械や昭和ゴムなどを手がけたとされる主は「私募CBグループ」の代表的存在と言われているからだ。
いったい、日本産業投資はあおぞら銀株買収の資金をどこから調達するのか。日本屈指のパチスロ機器大手や、大看板で騒がれた消費者金融会社、さらに大阪の金融ブローカーの名が浮かんでは消える。最近では「外資系にまで共同戦線を持ちかけている」(関係筋)というから「日本連合」を名乗るなどおこがましい。まさか金融庁がこうした筋の悪いファンドにOKを出すとは思えない。
まともな日本勢はないのだろうか。どうも金融庁の陰で財務省が「隠し球」を画策しているらしい。
▼日本政策投資銀行 かつて旧開銀が北海道東北開発公庫と合併して巨額の含み損を消したように、政府系金融機関の政策投資銀にあおぞら銀を抱かせてしまおうという案だ。政策投資銀が半分以上の資金を出し、残りを投資家から集める。その上で、あおぞら銀を「銀行免許を持ったRCC(整理回収機構)」として今後の不良債権の受け皿—実際はごみ捨て場の「夢の島」にするという一石二鳥である。
財務省の「隠し球」は先送り
一見、政府系金融機関で筋がよさそうに見える。が、このウルトラCは、国鉄清算事業団のようにあおぞら銀の抱える債権を塩漬けし、問題を先送りする財務省らしい手品にすぎない。しかも東日本銀行など財務省OBが天下りしている地銀もそこに抱き合わせ、天下りポストを増やすとしたら、何をかいわんやだ。
こうした財務省の作戦には、実は国税庁も下地づくりに協力しているフシがある。国税庁は最近、モルガン・スタンレー、ゴールドマン・サックスなど米投資銀行の不良債権ビジネスに対し相次いで申告漏れを摘発している。モルガンはオランダ法人を、ゴールドマンの場合は英領ケイマン法人を、それぞれダミー会社として脱税を図ったとして追徴課税された。三月の株式の空売り規制に続いて、不良債権に群がるハゲタカ・ファンドの出口を封じようとしているのではないか。そこにはリップルウッドへの警告も込められているかもしれない。「将来、新生銀を株式公開して海外のダミー会社に株式売却益を移しても、きっちり課税する」脅しとも読めるからだ。
財務省・金融庁・国税庁は外資系を閉め出し、不良債権の「夢の島」をつくるしか知恵がないのだ。だが、あおぞら銀に飯を食わせるビジネスモデルは誰も考えつかない。新生銀は資本収益率を高めようと、瑕疵担保を目いっぱい使って貸し出しを圧縮しているが、あおぞら銀は逆にノンリコースローンなどで資産を積み上げる始末。瑕疵担保の人工呼吸装置が外されれば、金融債の発行もままならず野垂れ死にするのは目に見えている。
砂上の楼閣、あおぞら銀は「二度目の死」を迎えるしかない。