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振るい落とされる(?)「ウィーク・ロング」 (☆☆☆)
金融市場にとって、波乱と緊張の1週間が終わった。
広範囲のドル売りが継続されるなか、新たな粉飾会計問題が発覚した。現地6月25日の株式市場取引終了後公表された、米長距離通信大手ワールドコムが38億j(約4700億円)もの利益を水増ししていた(同社発表ベース)という事件である。翌26日の株式市場では、ダウ30種が一時9000j割れ(8926.57j)、ナスダック総合株指数も一時テロ後の安値を更新する1400ポイント割れ(1375.53)まで売られこととなった。この日は、為替市場でドル安も加速し、対円でも118円台を記録している。
金融市場の動揺は、さすがにカナダのカナナスキスで開催されていたサミットの主要議題のひとつになったが、「株式市場への信頼回復に各国が協力、努力することで一致」、「世界経済の回復基調は持続している」としたものの、「短期的には株安・ドル安、中東・テロなどに不確実性」があると結んで終わった(日本経済新聞6月27日夕刊4版)。報道でも指摘されているように、このところのサミットは、扱いの難しい経済問題は避ける傾向が強く、今回のポイントも「ロシアの首脳会議への仲間入り」を鮮明に打ち出すという部分だった。話はそれるが、この5月、ロシアがNATO(北大西洋条約機構)の「準加盟国」の位置付けとなることが確認されており、今回のサミットでも米ロの急接近があらためて印象付けられたというところか。言うまでもないが、NATOの当初の目的を考えると、ここにきていかに国際政治の枠組みが変わっているのかということを考えさせられるとともに、それはそのまま投資環境の変化をも意味することを頭に入れておくべきだろう。
いずれにしても大荒れの展開となった先週は、月末であるとともに四半期(4〜6月)の、また上半期(1〜6月)の終了日という節目でもあった。NY株式市場は月間でダウは686j(6.91%)、ナスダックは153.10ポイント(9.47%)の下げとなった。四半期では、ダウが1164.69j(11.19%)とテロが発生した昨年7〜9月期以来の下げとなり、ナスダックのほうは382.72ポイント(20.73%)と率にして7番目の下げとなった。上半期でみた場合、それぞれダウ782.25j(7.80%)、ナスダックは495.69ポイント(25.4%)の下げを記録し、特にナスダックは、上半期としては最高の下げ率となっている。多くのファンドが基準価格を気にする期末ということもあり、「ウィンドウ・ドレッシング」と呼ばれる基準価格上昇を狙った買いもあったと思われるが、下値をかろうじて支える程度の効果だった。一方、この間のドル建て金価格は、率にして四半期で3.4%、上半期で12.5%の上昇となった。
さて、こうした環境での先週の金価格だが、こちらも軟調な展開となった。週末6月28日のNY市場では、前日比5.70j安の313.90jと5月20日以降の下値支持線であった315jを下回ったことから、テクニカル(チャート分析)面からは調整局面入りということになった。
ワールドコム問題で株式市場が揺れた26日こそ取引の途中で326.40jと前日比6j高程度まで買われたものの、結局株式市場が取引終了にかけ値を戻すにつれ、「金」のほうは利益確定の売りが出て320.8j、前日比0.3j高まで上げ幅を縮小するという展開だった。この日、株が安値から戻した背景として、ブッシュ発言等上げられているが、NY株式市場では(NY証券取引所、ナスダックともに)「空売り」が空前の規模に膨れ上がっており(NY証取75億株)、売り方の利益が乗っていることから、急落場面では利益確定の買戻し(ショート・カバー)が入ったことが要素として大きいと思われる。月末、期末という“時間帯”は今回の局面で無視できない要素である。また、エンロン問題発生から時間が経過し、会計疑惑問題への関心が市場に広がり、「次はどこか」というある種の“予感”が働いていたことも、「ワールドコム」がいわゆる「サプライズ(突発的な材料)」とならず一方通行的な株価下落に至らなかった背景として指摘できる。そこに、月末、期末という“時間帯”が市場に影を落としたということである。それが、株のさらなる下げを回避させ、「金」の上げを抑制し、むしろ売りを先行させた。
もう少しわかりやすく説明すると、株式市場では期末を控え、利益を確保したい向きは買戻しに向かい、期末の基準価格(つまりは運用結果)を意識する向きは、買いを入れ支えたということである。28日の金市場では、取引終了間際に大口の売り注文があり、薄商いのなか値を消したと伝えられているが、これもいわば“痺れを切らした”買い方が期末ということから利益確定の動きに動き、結果的に大幅な下げにつながったということであろう。
このように先週の金市場にも「期末」という特殊要因が影を落としていることから、価格の乱高下は割り引いて考える必要はあるものの、理由はともかく少し展開は変わっていることは否めない。
金市場では、ファンドが大幅買い越し状態にあることを6月7日配信号で取りあげたが、その後も状況は変わっていない。先週末発表された6月25日までのデータを見ても37,969ロット(約118d)もの買い越しを続けている。先行きの価格展開を強気に読んでいる「証(あかし)」でもあるが、価格が上昇基調にあるときには、回転が効き(新規資金の流入で売りがカバーされる状態)、気にならなかったものが、価格が止まると急に“重荷”になってくる。同じ状況でも、今度は上値を抑える要因として捉えられ(少し上がると売りが出る)、それを嫌気した売りが増える可能性が高まる。したがって、急落はなくとも新たなサポート・ラインとなった310jを下に試す局面も考えられることとなった。ただし、中東情勢など突発的な出来事に対する急反発の可能性も市場参加者の頭にあることから、積極的な空売りもし難いという状況でもある。株式市場も安定したわけではなく、この先さらなる波乱もあるだろう。株でも金でも為替でも、「買い」を「ロング」と呼ぶが、目先の価格動向に投資判断を左右されがちな、いわゆる「ウィーク・ロング(弱腰の買い方)」の“振るい落し”が進み始めているわけで、名実ともに調整局面入りしている。今回の上昇相場に乗り遅れた向き、あるいは高値圏で見送りを構えていた実需家の動きがどのレベルででてくるのか、いま足元の内部要因上の注目点である。(6月30日記)
金融・貴金属アナリスト
亀井幸一郎