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来年4月のペイオフ全面解禁を前に、第2地銀や信金、信組から大手都銀への預金流出が進み、「再延期を」と悲鳴が上がる。金融当局は解禁の方針を崩さないが、これに強く異議を唱えるのが、野村総合研究所主席研究員の論客リチャード・クー氏だ。「ペイオフ解禁は非常識。このまま全面解禁すれば、景気はさらに悪化する」と大警告を発しているのだ。米国発の世界同時株安による金融危機が懸念される折から、傾注すべき提言ともいえる。
「預金者の不安が払拭(ふっしょく)されるまで、全額保護を続けることがぜひとも必要」
21日の全国信用金庫大会。長野幸彦・全国信用金庫協会会長は、柳沢伯夫・金融担当相、速水優・日銀総裁を前に強く訴えた。
破綻(はたん)した金融機関の預金払い戻し額を元本1000万円と利子までとするペイオフでは、来年4月から普通預金も対象となる。
顧客に定期預金から普通預金への移し替えさせ、預金流出の阻止を図った第2地銀や信金、信組も“安全地帯”の消滅を前に危機感は高まる。
預金流出に歯止めがかからない裏で、「すでにとんでもなく恐ろしいことが起こっている」とクー氏は指摘する。
「中小企業への貸し渋り、貸し剥しがいっそう激しく、GDP(国内総生産)を何%も引き下げている」というのだ。
「金融機関は定期預金を持っているからこそ、中小企業に金を貸せる。ATM(現金自動預払機)のキーを叩くだけで消えてしまう普通預金では、貸せるわけがない」
現実に中小企業への影響は深刻とみられ、日本商工会議所の山口信夫会頭も「中小金融機関の預金が大手や郵貯に流れ、中小企業への融資財源がなくなる」と全面解禁の延期を要望している。
「昨年11月にMMFが元本割れした際、実質1カ月程度で法人保有残高が14兆円から3兆円にまで減少した。普通預金も預金者が疑心暗鬼に陥れば、一気に大移動する可能性がある」
金融関係者がこう指摘するなか、インパクトが大きい地方自治体の公金や企業の大口預金がどう動くかが焦点となる。
東京都は独自に、預金先の金融機関を格付けするが、「国自身が(ムーディーズなどの)格付け会社に国債の格下げで文句をつけている現状」(市場筋)で、どの金融機関が健全なのかを見極めるのは大変難しい。
そこで、クー氏は「1行でも『危ない』とウワサが広がると、企業や自治体は同じ格付けの預け先から預金を引き上げざるを得ない。海外に移す−などとなれば、まさに(経済破綻した)アルゼンチンの世界だ。そんなリスクまでとって、ペイオフを全面解禁して何のメリットがあるというのか」と語気を強める。
与党内からも火の手が上がり始めた。相沢英之・自民党税制調査会会長が「今の景気情勢では延期せざるを得ない」。野田毅・保守党党首も「来年4月から全面ペイオフ体制に入るのは、暴風雨の中で窓を開けるような話だ」と懸念する。
これに対し、柳沢氏は「ペイオフが通常の状況なので、ペイオフに耐える金融機関になることが大事。今は延期は全く考えていない」、速水優日銀総裁も「内外の信認回復のためには予定通り実施した方がよい」と歩調をそろえる。
再延期は、小泉純一郎内閣の構造改革路線に逆行するとの認識で一致しているようだ。
「ペイオフ解禁は国際公約」。これが全面解禁派の主張のようだが、クー氏は「旧大蔵省や海外の金融当局を調べても、ペイオフが国際公約という認識はまったくない。それでも解禁するというのは、金融当局の無理解と意地でしかない」と真っ向から反論する。
柳沢氏は4月に金融機関の「安全宣言」を発したが、クー氏は預金者心理をこう分析する。
「国民は(安全宣言を)全く信用していないから預金が動く。決して非合理な行動ではなく、内外の格付け機関がほとんど全行を最悪の格付けにしている状況下、預金者は選びようがないのだ。ペイオフを延期すべきという声が上がっているのも極めて健全な流れ」
こうも断言する。「現在の金融システムは通常の状況ではない。この状態でペイオフを解禁するのは集中治療室にいる人を外に連れ出して運動させるようなものだ。金融庁は銀行の検査を厳しく行うべきだが、定期預金を含めて全額保護に戻すべきで、5年や10年はペイオフの話はしないほうが良い。このまま全面解禁すると、貸し渋りはもっとひどくなり、景気はさらに悪化する」
一方、第一生命経済研究所経済調査部主任研究員の熊野英生氏は「金融健全化と表裏一体だったはずのペイオフ議論だけが独り歩きしている。ペイオフ論議に目を奪われること自体、経済無策の小泉内閣の術中にはまっている」と指摘する。
さらに、「金融機能の正常化をいつまでにやるか明言し、公的資金注入やRCC(整理回収機構)への不良債権の分離などの抜本策を講じ、ペイオフも正常化に合わせて解禁すべき。最悪なのはペイオフを再延期しただけで金融健全化を何もやらないことだ」とも。
問題の本質に目をそらし、その場しのぎを続ける金融行政のツケは、言うまでもなく、我々国民に回ってくるのだ。