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6月に入って政府税調は増税路線を明確化。これとともに株価も下落し始めた。だけどまだ増税も何もしてないのに株価はなぜ下がったの?
日本株の下落が続いている。6月の日経平均(225種)終値は、6月3日の11,901.39円をピークに1,400円以上下落している(6月24日現在)。一方で、日本景気を示す経済指標は堅調を続けている。鉱工業生産は4月まで3ヶ月連続で上昇しており、5月の輸出も金額ベースで前年比+8.8%、数量ベースでは同比+15.0%と絶好調だ。7月1日発表予定の日銀短観も大幅な改善が確実な情勢。株式市場とマクロ景気の間の乖離が気になるところだ。
この株と景気の乖離を説明する理由として、政府税制調査会(政府税調)の6月14日の答申(あるべき税制の構築に向けた基本方針)を指摘する者が多い。先週のコラム「責任の取れる決断を税制論議に求めるのは無理?」でも紹介したように政府税調は、法人課税について、(1)法人税率引き下げの否定、(2)外形標準課税の早期導入、(3)租税特別措置の整理・合理化の3点を答申した。後でも述べるが答申の内容はどれも法人にとって増税に思える。国内投資家だけでなく、税制と景気との連動性を重視する外国人投資家も、今回の答申をネガティブに受け止め、日本株を大きく売り越した可能性を考えてもいいだろう。実際、日経平均は、政府税調の答申内容がほぼ固まった12日から19日にかけて1,000円近く下落した。
たしかに「増税答申=株下落」という図式は非常に分かりやすい。とくに政策議論に不慣れな投資家は、この図式が事実のように思えてしまうのだろう。そこでこの図式の真偽をチェックするために政府税調の答申内容を簡単にみてみよう。まずは(1)法人税率引き下げの否定。現在の日本の法人実効税率は約41%で、米国カリフォルニア州の税率とほぼ同じ。しかし、ドイツ等の欧州各国の税率は30%台、アジア諸国では20%台後半と日本に比べ低い。このため経済界では5%程度の法人税率の引き下げを要望していたが、今回の答申はこの税率引き下げの可能性を否定した。
次は(2)の外形標準課税の早期導入。外形標準課税は黒字企業だけでなく赤字企業にも課税する税方式。これまで赤字企業は法人税負担がゼロだったわけだから、外形標準課税が導入されてしまえば、全ての赤字企業は増税ということになる。
最後は(3)租税特別措置の整理・合理化。租税特別措置とは、「本来の税制ルールとは違う特別ルール」のこと。日本の税制では、中小企業や特殊な事情を持つ企業への配慮措置を用意している。今回の答申は、配慮という名の特別ルールがあまりにも多くなってしまっているので、こうした配慮措置をできるだけなくしていきましょう、というものだ。
ここまでの説明を読むと、答申の全てが増税のようにみえ、日経平均下落の理由と考えたくもなる。しかし冷静に考えてみれば、この3つの答申はマクロベースでは増税にならず、日経平均対象銘柄企業にとってはむしろ減税になる点を忘れてはならない。(1)法人税率の引き下げ否定は、現在の税率を「引き下げない」と同時に「引き上げない」わけで、いわば現状維持。(2)外形標準課税の導入は赤字企業にとっては増税だが黒字企業にとっては2%程度の減税だ(例えば日本総合研究所レポート「企業課税のあり方」をご参照)。(3)租税特別措置の整理・合理化は中小企業にとって増税だが、大企業の多くはそもそも租税特別措置を利用していない。まとめれば日経平均対象銘柄企業にとって(1)と(3)は中立で(2)は(業種によって)減税。今回の答申で日経平均が大きく下落したとする説は、やや考えすぎということになる。
では話を戻して日本株下落の理由は何だろうか。考えられる理由は円高と景気の腰折れ懸念の2つだ。米国景気の回復力の弱さや不透明なインド・パキスタン・中東情勢などを背景にドル売りが速いペースで進んでいる。今のところ昨年までの円安効果から輸出は好調を維持しているが、現状の円高(ドル安)スピードのまま為替が推移するようだと、輸出が伸び悩むことになる。また、回復が見込まれる企業収益が、輸出の鈍化によって下押しされるようなら、景気再失速のリスクが高まる。株は景気の先行指標といわれる。新聞を賑わす税制議論よりも景気の先行き(特に輸出動向)にもっと注意を払っていこう。
マーケットエコノミスト 秋新作
提供:株式会社FP総研