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外為市場筋では、本邦通貨当局による度重なるドル買い/円売り介入にもかかわらず、ドル/円は徐々に下値探りの状況に傾きつつある。市場関係者によると、その背景としては、米国株の変調を背景としたドルに対する総じて悲観ムード、想定外に勢いを保つユーロの動向などが挙げられている。さらに、市場の一部では、足元のドル資産離れは、米国軍によるイラク先制攻撃といった軍事行動に備えた動きと捉えることも可能ではないか、との見方が浮上している。
足元、ドルに対するベア・センチメントを増幅させているのが、米国株式市場の変調。ナスダック総合指数、ダウ工業株30種はともに年初来安値を更新しているほか、前年9月に記録した米同時多発テロ事件後の安値をも視野に入れつつある。
米国株式市場の崩れについては、「企業収益の回復シナリオに不透明感が強いほか、エンロン問題を起因とする企業会計に対する不信感が根強くくすぶっている」(外銀)との見方が多い。
また、ドイツ証券ストラテジストの下出衛氏は、株式離れの一例として、「カリフォルニア州職員退職年金(カルパース)が、リターン低下を理由に、上場株式への投資を減らし、プライベート・エクイティの組み入れを増やすことを検討と一部で伝えられたが、同基金は、ブル相場のスタート期にあたる1995年に国内株を比率を33%から38%に大幅引き上げするアロケーション変更を行っている。米最大の同年金が、今回報じられているように動くとすれば、需給面でも本格的なベア相場入りを象徴するものとして注目される」と指摘する。なお、下出氏によると、18兆円強の同基金の資産内訳は、株式が39%、海外株19%、債券28%、不動産8%、プライベート・エクイティ6%だという。
経常収支における巨額の赤字にみられるように構造問題が指摘されるなか、リスク資産を中心にドル資産離れを加速されているが、一部関係者からは、ここにきて緊迫化の様相も見せつつある中東情勢の動向が一段とドル売りを誘っている、との見方も浮上している。
コメルツ証券のストラテジスト、一尾仁司氏は、「熱狂したワールドカップも終えんに近づき、ポスト・ワールドカップは再び軍事的緊張が高まるとの見方が台頭してきている」とみる。同氏によると、「6月前半、米国の仲介努力もあって、印・パ情勢が沈静化に向かって以降、軍事的緊張は低下した印象だったが、中東情勢を中心に攻防が続いていた。24日にブッシュ米大統領が”アラファト追放”を含む中東和平計画を発表し、再び、視線が中東に集まり始めている」という。
市場では、「7月4日の米建国記念日のテロ再発のうわさが出るなか、投資家は基本的に慎重姿勢。こうしたなかでは、 中東情勢の緊迫化やテロ再発懸念は、株式についても為替についてもドル離れの材料になりえる」(別の外銀)とされる。
この点に関連して、国際投信投資顧問・経済調査部長の荒武秀至氏は、「足元のドル安は、米軍によるイラク先制攻撃に備えた動きだ」と分析。ドル実質実効レートの割高修正やドル資産再配分の動きから、資源国通貨やユーロが買われる地合いが続いているが、「短期的には、米軍による早期イラク進攻懸念が、ドル離れを誘引しているのではないか」とみる。
同氏は、「一本柱が通っているのはテロ対策とみられるカナナスキス・サミットで、議長国カナダが主張する”アフリカ援助増額”を抑え、米国が”対テロ戦争への同意”を取り付けることができるかが注目される」と指摘する。「世界的な株安連鎖のきっかけとなっているドル資産離れは、短期的にはイラク要因も影響している。今回のサミットについても、小手先の戦術ではなく、政治的な協調が図れるかが焦点だ。足元の株安・ドル安について、米国サイドから目立ったコメントがみられない点もこうした意味合いで捉えることができるのではないか」と話す。
そのうえで、同氏は、メインシナリオとしては、「サミットにおいて、湾岸戦争における多国籍軍派遣とまでいかなくても、米側としては何らかのコミットメントを得たいというのが本音ではないか。米国におけるイラク先制攻撃の**確度が高まっているとみるが、攻撃開始直後は瞬間的に米株とドルの急落はありえる。もっとも、11月に中間選挙を控えるなかで、イラク問題の早期解決を図りることで、”戦勝国ムード”が醸成。米株・ドルに対するベア・センチメントは、これを契機に払拭される可能性もありうる」とする。
前出の一尾氏も、「仮に、軍事行動が起こった場合は、”有事のドル買い”復活の見方はあるものの、現状の相場展開から見送り気分を強める公算が大きい。世界の軍事支出の36%程度を占める米国の軍事費がさらに拡大することを重荷に感ずる可能性があること、たびたび警告が出される米国を標的とするテロの再発懸念を高めることなどが影響するためだ。ただ、早期解決となった場合に限り、不透明要因の軽減を好感すると考えられる」としていた。
一方、荒武氏は、ドルのリスク・シナリオとしては、1)早期にイラク侵攻したとしても長期化懸念が台頭すること、2)早期に軍事行動を行わず、市場にモヤモヤしたムードが残ることのほか、3)住宅価格の急落――を挙げていた。
ブッシュ米大統領はきょう、カナダのクレティエン首相との会談で、”ドルは市場原理に基づいて推移する”との見方を示し、為替に関して異例のコメント。市場では、「ドルの急落を避けたい一方で、対ユーロなどを中心に健全なドル安を黙認。他方、円については、単独介入でかつスムージングオペについては暗黙の了解を示している」(外銀)と読む関係者が少なくない。
加えて、インドスエス・ダブリュ・アイ・カー証券東京支店副支店長の草野豊己氏も、「ドル安/ユーロ高の地合いのなか、ユーロにつられる形で円が高くなっているが、そういった局面では、本邦通貨当局によるドル買い/円売り介入が見込まれるため、リファイナンスという観点からは米国サイドにしても半ばウェルカムの状況ではないか」とする。
ユーロが想定外の勢いを示し堅調を持続するなか、本邦当局によるドル買い/円売り介入の効果についても、懐疑的な向きが増えつつある。目先的には、「ユーロ/ドルのパリティも既に視野に入っている」とされるなか、ドル/円の下値メドも徐々に切り下がっている。
市場からは、早期のイラク問題解決を前提に「ドル/円の円高進行は最終局面を迎えつつあるのではないか」(荒武氏)との見方も一部で浮上。「仮に”戦勝ムード”が広がった場合は、一時的にドル資産から逃避していた資金が再び米国に還流するきっかけを促す可能性もある」(外資系証券)との声も聞かれている。「ドル・ベア・センチメントは行き過ぎの感があるほど、弱気ムードが広がっている」(シティバンク・エヌ・エイ国際金融本部バイスプレジデントの稲村秀彦氏)ともされるなか、ムード転換の契機として、「今回のサミットで、米国が”対テロ戦争への同意”を取り付けることができるかどうかが注目される」(荒武氏)との指摘が出ていた。