現在地 HOME > 掲示板 ★阿修羅♪ |
|
前回の書き込み(“【世界経済のゆくえ】「近代経済システム」における利潤と経済成長の源泉” http://www.asyura.com/2002/hasan11/msg/115.html )で“対外的通貨価値”の変動に関する抽象的な論理を書いたが、現実の「ドル安・円高」傾向などとの関係で不分明なところもあったと思われるので、【世界経済の認識基礎】という共通タイトルに変更し、国民経済間の相対的通貨価値=為替レートの変動に絞って説明を加えたい。
(“「競争モデル」から「独占モデル」へ”と“「近代経済システム」における利潤と経済成長の源泉”も、【世界経済の認識基礎】のなかに収め、“「信用創造」の経済的意味(仮タイトル)”を書き終えた段階で一括して「論議・雑談」ボードにアップする予定)
[対外通貨価値に関する基本]
● 対外的通貨価値は、基本的に、頻繁にかつ大量に取り引きされる国際商品の生産性によって規定される。(原油・鉱物資源・近代工業の生産財・繊維製品から家電や自動車までの耐久個人消費財の生産性が対外的通貨価値の主要規定要因)
● これは、対外的通貨価値が輸出入の主要対象品目になっている財の“労働価値”によって規定されていることを意味する。(“労働価値”は、平均的品質の自動車1台を生産するために要する平均労働量と考えて欲しい)
● 「円高」傾向は、日本の主要輸出企業が競争関係にある外国企業との比較で生産性を上昇させていることの現れである。
● 現実の世界経済では、国際基軸通貨である米ドルが国際商品の価格基準になっており、各国の通貨は米ドルを基軸として価値変動が捉えられる。(“鏡”が米ドルなので、米ドル自身がどのような通貨価値を持っているかは見えにくい)
● 現実の為替レート変動は、「経常収支」(貿易収支・サービス収支・金融収益収支の合計)の影響を受けるのみならず、国際性を有する通貨が“商品”になっている現状から、外国為替取引における需給関係が“対外的通貨価値”を変動させる大きな要因になっている。
● 各国の通貨発券銀行である中央銀行は、自国経済主体がスムーズな国際取引が行われるよう、米国を中心に国際通貨国の国債(広義)・外貨預金・金といったかたちで“外貨準備”を行っている。
このような基本を前提に説明を続けていきたい。
■ 「ドル安・円高」は日本企業の輸出競争力を低下させなかった
「円高」とは、米ドルが基軸(鏡)になるが英国ポンドやドイツマルク(ユーロ)などの諸国際通貨に対して日本円が価値を上昇させることである。
米ドルがユーロに対しても日本円に対しても価値を下げているときは、「円高」ではなく「ドル安」と表現されるべきである。
戦後に固定為替レート1ドル=360円が決められるとき(それ以前は産業別に為替レートが異なっていた。円だから360という半分冗談のような理由で円安気味の固定レートが設定された)からと言うこともできるが、71年の“ニクソンショック”、85年の「プラザ合意」、94年前後の「超円高」、そして、昨今のドル安(円高)傾向に対する政府(経済界)やメディアの反応を受け止める限り、「円高」は、日本経済にとって好ましからざる経済事象と考えられていると言えるだろう。
確かに、繊維製品や洋食器を生産している企業などは、「円高・ドル安」によって、輸出量を減少させたり利益を減少させるなど大きな打撃を受ける。
(1000円の商品を10ドルで輸出していたものが、円高・ドル安になれば、ドル表示で12ドルといった値上げをして輸出しないと円ベースで1000円という売上高を確保できない。コストは円ベースなので、ドル建て価格を円高変動分値上げできなければ、採算割れになったりする。同じ品質の商品を輸出している国の通貨価値が変動しないままであれば、12ドルに値上げすることで輸出できる量が減少することになる)
しかし、「円高」は、個々の経済主体ではなく国民経済レベルで考えれば、打撃と言えない経済事象である。
「円高」が国民経済レベルで打撃になるのは、政府が「円高」の本質を理解せず、「円高」を活用しないで誤った経済政策を採ったときである。
言葉(論理)で説明してもわかりにくいので、統計データで歴史的経緯を確認してもらいたい。
《日本の輸出入と為替レート》
1958年(昭和33年)から2000年(平成12年)の輸出入と為替レートを中心とした経済統計データである。
統計データを見るにあたっては、大きな時代区分として、「高度成長期」(〜70年)・「世界経済変動期」(71年〜80年)・「成熟経済期」(81年〜91年)・「長期不況期」(92年〜)ということを念頭においてもらうといいだろう。
「バブル崩壊」は、89年末から90年にかけて始まった。
輸出 輸入 差額 為替 成長率 CPI 家計 失業 出比 入比
========================================================================
58年 1,036 1,092 -56 359.70 7.3 2.1 9.0 9.5
59年 1,244 1,296 -52 359.20 9.3 1.1 6.4 2.2 9.4 9.8
60年 1,460 1,617 -157 358,30 13.3 3.9 10.9 1.7 9.1 10.1
61年 1,525 2,092 -567 361.77 11.9 4.8 10.4 1.4 7.9 10.8
62年 1,770 2,029 -259 358.20 8.6 7.1 12.6 1.3 8.1 9.2
63年 1,963 2,425 -462 361.95 8.8 7.6 4.9 1.3 7.8 9.7
64年 2,402 2,858 -456 358.30 11.2 3.5 12.0 1.1 8.1 9.7
65年 3,043 2,941 102 360.90 5.7 6.4 9.1 1.2 9.3 8.9
66年 3,520 3,428 92 362.47 10.2 4.1 9.5 1.3 9.2 9.0
67年 3,759 4,199 -440 361.91 11.1 4.3 10.3 1.2 8.4 9.4
68年 4,670 4,675 -5 357.70 11.9 4.1 11.3 1.1 8.8 8.8
69年 5,756 5,408 348 357.80 12.0 4.6 11.5 1.1 9.2 8.7
70年 6,954 6,797 157 357.65 10.3 7.3 15.6 1.1 9.5 9.3
-----------------------------------------------------------------------
71年 8,393 6,910 1,483 314.75 4.4 6.5 10.3 1.2 10.4 8.6
72年 8,806 7,229 1,577 301.10 8.4 4.7 11.3 1.4 9.5 7.8
73年 10,031 10,404 -373 280.00 8.0 11.7 19.7 1.3 8.9 9.2
74年 16,208 18,076 -1.868 300.91 -1.2 23.4 24.1 1.4 12.0 13.5
75年 16,545 17,170 -625 305.15 3.1 11.5 14.8 1.9 11.2 11.6
76年 19,935 19,229 706 293.00 4.0 9.6 9.4 2.0 11.6 11.5
77年 21,648 19,132 2,516 240.00 4.4 8.1 10.8 2.0 11.7 10.3
78年 20,556 16,728 3,828 195.10 5.3 4.3 6.5 2.2 10.0 8.2
79年 22,532 24,245 -1,713 239.90 5.5 3.7 7.0 2.1 10.2 10.9
80年 29,382 31,995 -2,613 203.60 2.8 7.8 7.3 2.0 12.1 13.1
-----------------------------------------------------------------------
81年 33,469 31,464 2,005 220.25 2.8 4.8 5.0 2.2 12.8 12.1
82年 34,433 32,656 1,777 235.30 3.1 2.9 7.1 2.4 12.6 11.9
83年 34,909 30,015 4,894 232.00 2.3 1.8 3.2 2.6 12.2 10.5
84年 40,325 32,231 8,094 251.58 3.8 2.3 4.6 2.7 13.2 10.6
85年 41,956 31,085 10,871 200.60 4.4 2.0 4.9 2.6 12.9 9.5
86年 35,290 21,551 13,739 160.10 3.0 0.7 1.8 2.8 10.3 6.3
87年 33,315 21,737 11,578 122.00 4.5 0.0 1.7 2.8 9.4 6.1
88年 33,929 24,006 9,923 125.90 6.5 0.7 4.5 2.5 8.9 6.3
89年 37,823 28,979 8,844 143.40 5.3 2.4 3.0 2.3 9.2 7.1
90年 41,457 33,855 7,602 135.40 5.3 3.1 5.2 2.1 9.4 7.7
91年 42,360 31,900 10,460 125.25 3.1 3.2 5.2 2.1 9.0 6.8
-----------------------------------------------------------------------
92年 43,012 29,527 13,485 124.65 0.9 1.7 2.7 2.2 8.9 6.1
93年 40,202 26,826 13,376 111.89 0.4 1.3 1.2 2.5 8.3 5.5
94年 40,498 28,104 12,394 99.83 1.0 0.7 -0.6 2.9 8.2 5.7
95年 41,531 31,549 9,982 102.91 2.5 -0.1 0.6 3.2 8.3 6.3
96年 44,731 37,993 6,738 115.98 3.4 0.1 1.5 3.4 8.8 7.4
97年 50,938 40,936 10,002 120.92 0.3 1.8 2.7 3.4 9.8 7.8
98年 50,654 36,654 14,000 115.20 -0.8 0.6 -1.1 4.1 9.8 7.1
99年 47,548 35,268 12,250 102.08 0.8 -0.3 -2.4 4.7 9.3 6.9
00年 51,654 40,938 10,716 114.90 1.7 -0.7 -2.4 4.7 10.1 8.0
※ 「輸出」・「輸入」・「差額」の単位は10億円。「為替レート」は対米ドル表示で円単位。その他の項目の単位は%。
「差額」は貿易収支に相当するもので−は赤字。「成長率」はGDPの実質経済成長率。「CPI」は消費物価指数の対前年比。「家計」は勤労者家計の実収入の対前年比。「失業率」は完全失業率。「出比」及び「入比」は名目GDPに対する輸出及び輸入の比率。
上記データを見ると、71年の“ニクソンショック”と85年の「プラザ合意」という大きな「ドル安(円高)」に見舞われても、円表示ベースの輸出は減少せず(円高になれば同じドル建て価格で輸出すると手取りの円額は多くなる)、貿易黒字も、減少するどころか大きく増大していることがわかる。
71年は、対前年比で対ドル価値が12%上昇した。
輸出額は20.7%増加し、輸入額は1.7%増加している。貿易収支の黒字は、前年の9倍以上となり初めて1兆円の大台を超えた。但し、GDPは、実質で4.4%と前年の10.3%に比較して大きく下落した。“第一次・第二次石油ショック”が大きな影響を与えているが、71年以降、貿易収支の黒字は1兆円台のベースになったとも言える推移である。
85年は、対前年比の対ドル価値が20%上昇した。
輸出額は4.0%増加し、輸入額は3.6%減少している。貿易収支の黒字は、対前年比で34.3%増大している。GDPは、実質で4.4%と前年の3.8%に比較してわずだが上昇した。貿易収支の黒字は、85年から現在に至るまで、10兆円前後をベースとして推移している。
どちらも「円高」という経済事象ではなく「ドル安」であった。そして、そのような変動が起きても、貿易収支の黒字幅は大きく拡大している。
71年と85年の「ドル安(円高)」で見られる違いは、71年はドル表示ベースでも輸出が増加しているが、85年はドル表示ベースでは輸出が減少しているということである。
93年から95年は、日本円がどの国際通貨に対しても価値を上昇させるという「円高期」であった。
さすがに、この時期は、円表示ベースの輸出額を減少させ、貿易収支の黒字も減少させている。
その要因が、“貿易摩擦”を受けて80年代後半から顕著になった生産拠点の海外移転を加速させたためなのか、為替レートが持っている国際競争力調整機能によるものかどうかは即断できない。
このように、統計データを見る限り、「円高・ドル安」が日本経済(企業)の輸出競争力を低下させるとは判断できないのである。
■ 「円高」が日本企業の輸出競争力を低下させなかった理由
71年と85年という「ドル安変動」と94年前後の「円高変動」の経済状況的差異は、71年や85年は好況とは言わないまでもそこそこの経済成長を達成し、完全失業率も71年1.2%・85年2.6%であり、勤労者家計実収入の対前年比も71年10.3%・85年4.9%であったのに対し、94年は、完全失業率が2.9%で、勤労者家計実収入の対前年比もマイナス0.6%と58年以降初めてマイナスを記録している。
もう一つ、消費者物価指数の対前年比を見ると、71年6.5%・85年2.5%であるのに対し、94年は0.7%である。
「円高」になれば円ベースの輸入物価が下落するので、同一の生産条件で財が生産されていれば、消費者物価指数も下落するはずである。
しかし、71年や85年は、その後の年度も含めて消費者物価は上昇している。そして、94年の場合は、翌95年に、マイナス0.1%と58年以降初めて消費者物価が下落した。
71年と85年の円高時期は、円高で原材料費などのコストが下がるという恩恵を受けながらも、輸出企業は、輸出競争力を維持するため、国内販売価格を引き上げた。
国内販売価格の引き上げが可能だったのは、勤労者家計の実収入増加に代表されるように、消費財に対する総需要が増大したからである。
71年以降であれば、食糧といった基礎的消費財はほぼ満たされている生活水準にあったから、収入(可処分所得)の増加は、利便的消費財・奢侈的消費財・快楽享受サービスもしくは貯蓄にまわったものと推測できる。
輸出企業は、国内市場で利益を確保し、輸出市場で生産量(生産性)を確保したとも言える。
これは、日本人は自分たちが造ったものを高く買い、外国人は日本人が造ったものを日本人より安く買うという構図である。これが、よく言われる“内外価格差”の一因でもある。
為替レートの変動により国際競争力が調整されるという「国際交易理論」は、そのような動きで対応した日本経済(企業)には通用しなかったのである。
そして、94年以降に本格化した「長期不況」と「デフレ不況」は、71年や85年に採った“内外差別価格政策”が採れないことにより生じ、それが長期化しているという見方もできる。
“内外差別価格政策”が採れないことから、輸出企業は、コストを削減して利益を確保するための手法として、生産拠点の海外移転推進策を採った。さらに、国内流通業までが、不況下で価格下落圧力を受けて、販売商品の海外調達に走った。
これらの動きが失業者の増加を招いたことで、日本経済の総需要をさらに減少させ、それが物価下落圧力をさらに高め、またまた失業者を増加させるという悪循環を生み出したのである。
個別経済主体が“合理的”な行動をすることで、日本経済総体を悪化させ、“合理的”な行動をとった個別経済主体も悪化するという“総合の誤謬”の生きた標本をもたらしたのである。
輸出比率が100%に近い企業であれば“総合の誤謬”から自分だけ逃れることもできるが、国内市場の比率が高くなればなるほど、“総合の誤謬”にはまることになる。
71年や85年の「円高・ドル安」に対して“内外差別価格政策”が採れた要因は、実収入の増加だけではない。
71年はともかく85年という段階であれば、日本は、農産物を除き、世界一の“自由貿易”政策を採っていた。(商取引慣行などの非貿易障壁を言い立てれば、米国は、農産物や軍事物資を政府が輸入を働きかけ、英語を使用し、電灯線電圧が違い、右側通行で....などと“泥試合”になる。歴史過程や価値観が異なるものの取引が貿易である)
輸出企業が“内外差別価格政策”が採れた最大の要因は、外国企業に競争者がいなかったことである。
家電や自動車をはじめ日本の輸出依存企業を脅かす競争企業が外国に存在していれば、日本市場を防衛するため、“内外差別価格政策”を採ることはできなかったはずである。
家電製品ではほぼ世界を制覇し、自動車についても、高級車のドイツ製や“特殊米国人好み”の米国製とは棲み分けをしている状況では、輸出製品(仕様は少し異なるが)を日本市場で少々高く販売しても、シェアが奪われるという心配はなかった。
それを示す別の“証拠”は、日本の主要輸出対象国である米国が、85年の「プラザ合意」で大きなドル安(対円で40%)が実現された後も貿易収支の赤字幅を拡大していったたことである。
これは、米国経済は、日本の輸出製品において、対日競争力を根源的に失っていることを示している。
生産していないものは輸出できないし、鉄鋼など軍需で維持されている中間財も輸出競争力に乏しい。軍需で成長してきたコンピュータ関連や航空機が民間需要でも競争力を維持しているだけといった状況に近いものになっていたのである。
■ 農業やサービス業の低い生産性は何に由来するか
このように書いてきたからと言って、「円高」を推進すべきだと主張しているわけではない。
最初に列挙したなかの、
● 対外的通貨価値は、基本的に、頻繁にかつ大量に取り引きされる国際商品の生産性によって規定される。(原油・鉱物資源・近代工業の生産財・繊維製品から家電や自動車までの耐久個人消費財の生産性が対外的通貨価値の主要規定要因)
とあるように、金属洋食器など輸出入量が少ない商品や国内で自給される財やサービスの生産性は、対外通貨価値にほとんど反映されない。
このため、米のように基本的に国内自給政策が採られている財は円高で売れなくなるということはないが、ぎりぎりの輸出競争力で輸出されている財や輸出依存率が高い財は、円高の影響を大きく受け、それらを生産している企業は、賃金を圧縮したり、生産を縮小したり、最後には廃業ということにもなりかねない。(金属洋食器やメガネフレームを生産している企業の一部は、生産性を上昇させるとともに、デザイン性や素材開発などで競争力を確保している)
輸出規模が小さい品目は、生産性を上昇させる余地も小さく、中小企業が取り組んでいることから財務的耐久力も劣っている。これらの企業は、大手輸出企業が高い生産性上昇を実現した結果である円高の被害を受けているとも言える。
ご存知のように、日本の農産物は国際比較でベラボウに高い。人件費の影響が高いサービス業や建設コストも、国際的に比較すれば数十%高いと思われる。
この要因を、日本の農業・建設業・サービス業の低生産性に求めることもできるが、それらの産業は、製造業が達成した高い生産性で規定された対外通貨価値の上昇のために、生産性が低く評価されているとも言えるのである。
ドル表示で比較した日本の一人当たりGDPは3万7千ドルと世界最高水準である。
米国2万5千ドル・英国2万3千ドル・ドイツ2万2千ドル・フランス2万1千ドルと比較すれば、48%以上も高いのである。
これは、人件費の割合が高いサービス業や建設業は、米国価格よりも48%くらい高くても当たり前ということである。48%未満の高さであれば、それぞれの産業が生産性の上昇でカバーしているということである。
(一人当たりのGDPが高く地価がそれに輪を掛けて高い日本では、人件費と施設費のウエイトが高い商業やサービス業を営むことは“たいへん”なのである。建設業やサービス業は、外国人の不法就労者を雇うことで高い人件費から生じる圧迫を緩和している)
逆の言い方をすると、農業・サービス業・建設業に従事する人たちの可処分所得を高める“高価格”を容認してきたことで、国民経済の成長を持続的に達成し、一人当たりのGDPも世界最高水準になったのである。
農林水産業は、気候など自然に生産性が大きく左右され、米などは1年にせいぜい2回の収穫しかできないものである。これは、工業と違って、生産性を飛躍的に高めることが難しいことを意味する。また、一人当たりGDPが世界最高水準であることから、生産性を少々高めたからといって輸出競争力を持つようにはならないだろう。(輸出競争力を持つためには、一人当たりGDPが米国やEUの水準まで下がり、米国やEUが行っているような所得補償政策もとる必要がある)
農林水産業に従事している割合は、就業人口の5%程度である。
生存にとって基礎的な財である食糧をもっと安い価格で手に入れたければ、失業率が10%になることやさらに「デフレ不況」が悪化することを覚悟して、食糧の輸入自由化を推し進めれば可能であろう。
日本から、自家消費用以外の田畑が消え、農業や漁業の知恵が失われ、山林が放置されることもゆゆしき問題であるが、13億の民を抱える中国が食糧輸入国に転じ、米国中西部の土壌及び水資源が悪化しているなかで、農業を放棄して、国民の長期的な生存条件が維持できるのかという根源的な問題がある。
米国の農産物輸出も、輸出額の半分に相当するものは、政府の援助によって賄われているという。米国の財政危機が深刻化し、農産物輸出補助政策がカットされるようになれば、米国の農産物輸出が大きく減少するか、輸出価格が大きく上昇することになる。
米国農業は遺伝子組み替え作物に動いているが、遺伝子組み替え作物に重要なデメリットが発覚すれば、一定範囲の農場で数年間作物が収穫できないということもあり得る。
もちろん、現在の農業政策は大きな問題を抱えている。ここでは、所得補償政策に転換するのが望ましいとだけ書いておく。
人は、お金や原油を食べたり飲んだりして生きていくことはできないのである。
可処分所得が少ない人は、基本的に、生活必需品→利便品→快楽享受→奢侈品という優先順位で支出先を選ばざるを得ない。
たっぷり可処分所得がある人でも、生活必需品なしで、快楽享受や奢侈品を楽しむことはできない。
■ 「円高圧力」=輸出財の高い生産性をどう活かすべきか
“円高憎悪”は、「円高」→「輸出大手企業手取り円減少」→「輸出大手企業利益減少」という側面にあまりにも囚われて過ぎている結果だと考えている。
自国通貨の対外価値上昇は、「経常収支黒字」で「自国通貨高」であれば、政府が採り得る政策の融通性が高いという現実を見失っている。
「経常収支赤字」や「自国通貨安」であれば、政府が選択できる政策は限られる。
端的に言えば、「経常収支黒字」で「自国通貨高」であれば、「自国通貨高」を防ぐ政策も様々に採れるのである。
対外的通貨価値が高いということは、自国の労働価値が高いということである。
そうであるならば、「高い労働価値に見合う給与を支払う」・「高い労働価値に見合う労働時間短縮を行う」・「高い労働価値を支えにして新しい労働を増やす」・「輸出税で財政を再建する」などといった政策が実行できる。
● 「高い労働価値に見合う給与を支払う」
生産性上昇に合わせて給与を上げれば、生産性の上昇が打ち消されて円高を防ぐのみならず、国内の需要が増大する。生産性を上昇させにくい産業分野も、大手輸出企業がそのような策を採れば、販売価格が上昇する可能性が高いので、その分野の給与も上昇させることができ、日本全体が高い労働価値(給与)になっていく可能性がある。
(71年や85年は、これが一部実施されたので、デフレ不況にもならず、円高による利益減少も防げたのである)
● 「高い労働価値に見合う労働時間短縮を行う」
生産性や労働価値は単位時間でどれだけの財を生産できるかということだから、同じ給与で働く労働時間(年間総労働時間)を短縮すれば、生産性の上昇が打ち消されて円高を防ぐことができる。日本も、70年中期以降週休2日制に移行していったが、ドイツと比較すれば年間総労働時間は長い。
余暇時間が増えるだけでは国内経済に貢献しないということであれば、「高い労働価値に、一部を給与で一部を労働時間短縮で報いる」というミックス政策も採れる。
● 「高い労働価値を支えにして新しい労働を増やす」
生産性が高くなるということは、より少ない労働でこれまでと同じ量の財が生産できるということだから、物質的生活水準が現状でいいのなら、それを追求しない分野に労働を向けさせることもできる。
もちろん、新規労働分野を研究開発にすることで、物質的生活水準を上げることに活用することもできる。
80年代後半は、そうではなく、不動産や株式への投機に余剰労働(=余剰資金)が投じられたために、バブルが形成されてしまった。
● 「輸出税で財政を再建する」
“輸出税”を課税して政府歳入を増やすことも考えられる。
“輸出税”を課税すればその分輸出価格が上昇するはずなので、輸出競争力が劣化し、貿易収支の黒字が減り、円高を防止することにつながる。
“輸出税”は、対外的には生産性=労働価値の低下として機能するからである。
雑ぱくに言うと、120円から5%円高に動いて114円になるほうがいいか、高い生産性を誇る品目に3%の“輸出税”をかけて118円で収まるほうががいいかということである。
40兆円の輸出のうち30兆円に3%課税すると、9千億円の増収になる。
このうち5千億円は、「法人税減税」に利用することもできる。
いつも“円高”に怯えながら事業を営むのがいいのか、円高を抑制する“輸出税”を喜んで受け入れて、「法人税減税」を手にするほうがいいかという選択である。
税は懲罰というのなら、国内の労働成果を国外に流出させてしまうからという理由付けでいいだろう。
もちろん、これら以外にも、国内物価を安くするという活用法もあるが、デフレは経済活動を停滞させるものなので、避けたほうがいいと考える。
合理的な政策を採れば、“円高圧力条件”をそのまま「円高」というかたちで現出させるのではなく、輸出企業も含む国民経済の全経済主体がより良くなる方向に活かすことができるのである。
大手輸出企業の短期的な利益減少を気にするばかりであったために、日本政府及び日本の経済界は、「円高圧力」(自国労働価値の高さ)という絶好の機会を有効に活かせなかったのである。
「バブル崩壊」のために“内外価格差政策”が採りにくいなかで起きた94年前後の「円高」が、日本経済をおかしくする意図で引き起こされたものであるなら、お見事と言える。
絶好の機会を有効に活かせなかったと過去形で書いたのは、ここ数年で顕著になった中国の輸出競争力の上昇を考慮したからであり、それを支えているのが日本国籍企業でもあるるからである。
中国絡みの問題は、【世界経済のゆくえ】の続編で説明していきたい。
【世界経済のゆくえ】の続編として、現段階では、「米国が経済覇権を維持する条件」・「日本はこのまま進めばどうなる」・「中国は自滅するか孤立に陥るか」・「EU拡大は合理的な政策か」を予定している。
※ 「自国通貨安」が有利なのはどういう経済条件のときなのかや「外貨準備」の問題も取り上げたかったが、別の機会にしたいと思っています。