★阿修羅♪ 現在地 HOME > 掲示板
 ★阿修羅♪
次へ 前へ
【世界経済のゆくえ】80年代以降の金融資本的収穫を支える価値観と経済政策 投稿者 あっしら 日時 2002 年 6 月 17 日 20:35:57:

『【世界経済のゆくえ】世界経済にとって70年代はどういう時代だったのか』
http://www.asyura.com/2002/hasan10/msg/744.html

『【世界経済のゆくえ】経済支配層は70年代に何を考えたのか』
http://www.asyura.com/2002/hasan10/msg/761.html

『【世界経済のゆくえ】産業資本的利益成育から金融資本的利益収穫へ』
http://www.asyura.com/2002/hasan10/msg/784.html


に続くものです。

==================================================================================
産業資本的利益成育期を支えた経済的価値観と理論は、完全雇用のためには政府がときとして赤字財政を膨らませても需要を拡大すべきとしたケインズ主義である。

ケインズ主義は、「大恐慌」のなかで生まれた理論で、古典派的自由主義の価値観と政策が植民地支配の“飽和”と植民地支配対抗国家の出現で実効性を失ったと認識されたときに出現した。
(ケインズよりもナチスドイツのほうが同じ政策を先行的に実施している。日本も、政争遂行体制の構築が目的とは言え、統制経済でケインズ的政策を実施した)

ここでは、金融資本的収穫的転換を支えた理念や政策がどういうものかを見ていきたい。

お利口な経済支配層は、自分たちの利益をむき出しにした主張やプロパガンダは行わない。

自分たちの利益=欲求の実現方法が、政治や経済に関心を持っている人たちに耳触りよく国民経済や世界経済の成長にとっても合理的なものであると受け止められるよう、もっともらしい理念と理論にくるんで打ち出す。

彼らは、“法的平等”を尊重するので、自分達だけが特別に優遇されることがわかるようなかたちでの政策も提起しない。あくまでもあらゆる個人が同じ条件に立てるものとして新たな政策を提起する。

たっぷりとお金を持ち、公的支出から高額の報酬が得られる地位に就けてやれる力を持っている彼らは、そのような面倒な作業を自身では行わず、ふさわしい人間をリクルートして代行させる。


色事師や似非宗教家以上の巧妙な誘導により、経済支配層の利益拡大策が、世界や国民経済の全体に利益をもたらすものであるという認識が世の中に広まっていく。
そうなると、社会や世界の動きに関心を持っている人で、そういう理論や政策が自分の経済的存在から利益にはならない人までが、そのような考えを称揚し、その実現を求めるようになる。
どういうものかよくわからない人までが、多くの主要メディアや“偉い人”がそう言っているのだから、いいものなんだろうとか必要なものなんだろうと考える。
このようにして、経済的な理念や理論が、信仰の対象になっていく。自分がわからないものはわからないでいいのであり、わからないまま信じるのであれば、身ぐるみ剥がされても仕方がない。それが何かをわかったほうがいいと考えたら、わかるような説明を求め、わかるまで考えるべきである。

そして、それなりにオーソライズされた新しい理念や理論に異論を唱える人は、“歴史の進歩”を理解できない時代遅れと罵られたり、知的能力が劣っていると無視され、究極的には、悪逆非道なテロリストや危険な政治勢力として指弾されるようになる。

(悲惨な第一次世界大戦終結後わずか20年ちょっとで第二次世界大戦が勃発したことでも、人がいかに誘導されやすい存在であるかがわかる。日本人やドイツ人は、正義と考え強い意志で戦い抜いた戦争を、戦後すぐに、極悪行為だったと論理的な反省もなく悔い改めた)


金融資本的利益収穫に本格的に転換した70年代後半から80年代に広まっていったのは、サッチャリズムやレーガノミックスである。
これらは、政治的には「新保守主義革命」と呼ばれ、経済学理論としてはマネタリズムをベースにしたものである。

サッチャリズムやレーガノミックスが政策として実施された英国と米国では、自身やそれぞれ直系の後任政権によって修正されることになったが、さらにその後を継いだブレア政権やクリントン政権も、マネタリズムを軌道修正した政策を採り続けており、理念や理論は今なおもてはやされている。
日本は、現実の政策は別として、純粋なサッチャリズム・レーガノミックスに対する信仰がもっとも色濃い国家である。現実政策として大々的に適用されたことがない日本では、発祥の地である米国よりも、「レーガノミックス神話」が生きているのである。(中途半端だからダメなんだと主張する余地が日本には残っているということである。なお、日本ではケインズ主義も根強く生き残っている。政治的には自民党主流と左翼の一部で顕著である)


マネタリズム理論は、シカゴ大学のミルトン・フリードマン氏によって築かれたものである。
ネーミングからわかるように、通貨供給量を経済分析と経済政策の中心に置いたもので、「大恐慌」から74年までという長期に渡って経済政策を領導してきたケインズ的な需要中心のアプローチとは大きく異なる。

マネタリズムは、マクロ経済におけるインフレやデフレは通貨現象であるとし、通貨供給量を安定的に一定の伸び率で増やていく金融政策を推奨する。但し、その影響は現実のマクロ経済に及ぶまでタイムラグがあるので、それを織り込んだ制御が必要だとする。(ケインズは、インフレやデフレは需要の過不足から生じるという考えから、財政支出を中心とした需要の増減で調整することを推奨した)

マネタリズムが脚光を浴びるようになったきっかけは、前に書いた“第一次石油ショック”を契機に発生した「スタグフレーション」である。

高率のインフレが起きながら経済成長はマイナスに落ち込み、失業者も増大した。これにより、完全雇用を需要増大=インフレで実現するとしたケインズ理論に大きな疑問符が投げかけられることになった。
それ以降、マネタリズムとフリードマン氏が脚光を浴びるようになり、80年代はじめには時代の寵児となった。(フリードマン氏は、82年のメキシコ危機で増大した通貨供給量から84年には景気過熱になり後退を迎えると予測した。しかし、84年は、卸売物価が若干のマイナスで実質成長率が7%という驚異的なもので予測が外れてしまった。フリードマン氏は、どこかの経済評論家や官僚とは違って、その現実のなかでマネタリズムの無力さを表明し引退した)

大雑把に言えば、マネタリストは「通貨」を、ケインジアンは「財政」を、それぞれ政策テーマの中心に据えたと言える。

マネタリズムの理念は、「個人の経済行動に関する制約を取り除けば経済は自然に活性化する」という市場原理尊重に基づく自由主義である。

この考えが、「民営化」・「規制緩和」・「サプライサイド(供給者)」という経済政策を生み出し、国際的には「自由貿易」と「自由な資本取引」という政策を推進させた。(フリードマン氏は、変動相場制も国際的影響を水際で遮断できるという考えから推奨した)

政治的には、「小さな政府(均衡財政)」・「フラットな所得税制(直接税縮小)」・「付加価値税(間接税重視)」・「社会保障縮小(自己責任と自助努力)」という政策や価値観を生み出した。(フリードマン氏は、社会保障は政府が組織的事業として行うのではなくマイナス税(お金の提供)で行うべきと主張した)

小泉首相の「構造改革」も、鳩山民主党の「構造改革」も、小沢自由党の「経済政策」も、マネタリズム及び新保守主義の流れを汲むものである。

マネタリズムと新保守主義は修正を受けたとは言え、次のような了解は多数派になっていると思われる。

● インフレやデフレは財政支出ではなく通貨政策で取り組むべき問題

● 全能ではないが、市場はわかっているなかで最も優れた経済制御原理

● 市場を有効かつスムーズに機能させるためには、その阻害要因を取り除く「自由化」が必要


大枠的に言えば、政府が、経済活動には首を突っ込まず民間企業に自由な経済活動を保証することで、経済は成長し、国民も豊かになるという考え方であり、そのためには、政府は国民にとって最後の支えではあるが、国民はできるだけ自己責任と自助努力で生活すべきというものである。

サッチャー政権時代の英国では、公営企業の民営化が次々と行われ(鉄鋼・自動車・石炭・航空・鉄道・通信など戦後国有化された企業が放出された)、規制緩和(“金融ビッグバン”や労働力市場を規制するものとして労働組合の弱体化政策)が実施され、最後には人頭税まで提起された税制変更(所得税フラット化による直接税軽減と付加価値税アップによる間接税増大)が行われた。
(サッチャー政権は、究極の平等税制である人頭税の提起によって崩壊した)

サッチャー政権は、労働党政権時代のスタグフレーションやストライキの頻発に嫌気を抱いていた国民からそれなりの支持を集めたが、サッチャー退陣後は、地方都市の空洞化や貧困層増大などの問題を中心にマイナス評価が大勢となっている。(鉄道の再公有化や民営郵便事業の赤字増大も負の遺産として考えられている)

公営企業が少ない米国のレーガン政権では、「サプライサイド理論」を根拠とした規制緩和と所得税のフラット化が主要な政策テーマとなった。
「サプライサイド理論」は、減税により、投資拡大→企業収益増大→課税という循環が続き、国民経済も成長し、国家の税収も増大するというものである。

規制緩和政策としては、航空業界・金融業界・通信業界が代表である。

航空業界は、新規参入企業が相次ぎ料金値下げ競争も続いたが、結局、ほとんどの新規参入航空会社が破綻し、アメリカン航空・ユナイテッド航空+デルタ航空という2.5大航空会社の寡占状況が生まれ、料金も平均して高値で推移している。

米国は伝統的に金融業界に対する規制が強く、銀行はある州内のみで州際業務ができなかったり、証券会社は、自己売買部門と仲介部門が分離されている。(ニューヨークという世界屈指の金融都市が地方の富を吸い上げてしまうのでは危惧が銀行営業地域の制限に結びつき、自分で株式売買する会社が顧客に特定株式の売買を推奨するのは“詐欺”を誘発すると考えられた)
金融規制緩和で生じた悲劇が、個人住宅のための貯蓄と融資のために存在している住宅S&L(住宅貯蓄組合)の大規模な破綻である。S&Lが詐欺的融資やハイリスクの投機を行ったあげく巨額の損失を負い、ブッシュ政権は90年に2兆ドル(250兆円)もの公的資金を投入して後始末した。(3,100以上あったS&Lが2,453まで整理され、数千人が投獄されたが、投機を煽りそれで利益を手にしたビジネスエリートは罪も問われず不正利益もそのまま自分のものにした)

通信業界も、ベル直系の電話会社が分割され、それに対抗する数多くの地域電話会社が誕生した。国際電話もAT&Tの独占が崩れ、値下げとサービスの競争が展開されてきた。パソコン通信、インターネット、携帯電話と通信の需要規模が拡大していくなかで、これまでのところは、淘汰とサービス競争というレベルで大きな問題は起こしていない。

規制緩和の流れ引き継いで起きた悲劇は、エネルギー規制の緩和で生じた“カリフォルニアの電力危機”と“エンロン破綻”であろう。
“エンロン破綻”は詐欺という見方でアップしているのでここではふれない。
(『「エンロン破綻」は“経済破壊=金融マフィアぼろ儲け”作戦の予行演習  <エンロンは今なお優良企業でSEC(米証券取引委員会)も共犯>』 http://www.asyura.com/sora/hasan5/msg/1082.html )

カリフォルニアが先鞭を付けた電力自由化は、発電・送電・配電の分離と料金自由化を打ち出したが、電力供給が危機的な状況になるとともに破綻企業も出て、カリフォルニア州が5兆円もの財政支援を行うことになった。
(日本は、それほどドラスチックな自由化を打ち出してはいないが、参入と取引の規制を緩和する方向にある)

レーガン政権の8年間に、財政赤字が3倍に膨らみ、政権第2期では所得税の緩和措置をとったが富と所得がごく一部である富裕層に偏在するようになった。

ともかく、米国でレーガノミックスを、英国でサッチャリズムを正面切って甦らそうという政治勢力が多数派を形成することはない。
本音はそうであっても、ブレア政権や新ブッシュ政権のように、違った装いをこらさなければ政権を掌握することはできない。

レーガノミックスやサッチャリズムを20年も経ってから無反省的に適用しようとしているのが日本なのである。

「緊縮財政」・「民営化」・「規制緩和」・「自由貿易」・「資本取引自由化」といった政策が先進諸国で大きく取り上げられるようになったのは、70年代中期から80年代にかけてである。

しかし、このような政策テーマは、IMFや世界銀行を通じて、発展途上国に融資の条件として突きつけ続けられたものである。

融資の返済がきちんと行われるように「緊縮財政」を求め、外国資本が電力などのインフラ事業や鉱山などの資源事業を支配したり進出したりできるよう「民営化」や「規制緩和」を求め、工業製品の輸入代替が進められないよう「自由貿易」を求め、その国で得た利益や配当を自由に持ち出せるよう「自由な資本取引」を求めたのである。
そして、強大な農業国家でもある米国の意向を実現するために、食糧自給政策も押しとどめられてきた。

さらに言えば、そういう政策に反旗を翻し自立しようとする政権は、政権を転覆されるか、キューバのようにつまはじきされてきた。
(民主主義や自由主義を標榜する米国政権は、経済権益のために、軍事独裁政権をも物心両面で支えた)

開発独裁とも評されたアジア諸国は、フィリピンなど一部を除き、対共産主義の前線として位置づけられたことでそのような圧力を緩和することができたが、アフリカやラテンアメリカは、そのような歴史的経験があるがゆえに、声高に叫ばれている「グローバリズム」が、これまで強制されてきた苛酷な政策の別の呼称であることを見抜き、反対しているのである。

このような意味で、80年代に台頭した新保守主義は、それまで発展途上国に対して行ってきた利益拡大政策を先進国にも適用しようとしたものであり、「グローバリズム」は、古い中身を新しい装いで覆い隠したものと言えるだろう。


次回は、今回取り上げた価値観や政策の日本への適用と考えられる「構造改革」について考えてみたい。


 次へ  前へ



フォローアップ:



 

 

 

 

  拍手はせず、拍手一覧を見る


★登録無しでコメント可能。今すぐ反映 通常 |動画・ツイッター等 |htmltag可(熟練者向)
タグCheck |タグに'だけを使っている場合のcheck |checkしない)(各説明

←ペンネーム新規登録ならチェック)
↓ペンネーム(2023/11/26から必須)

↓パスワード(ペンネームに必須)

(ペンネームとパスワードは初回使用で記録、次回以降にチェック。パスワードはメモすべし。)
↓画像認証
( 上画像文字を入力)
ルール確認&失敗対策
画像の URL (任意):
投稿コメント全ログ  コメント即時配信  スレ建て依頼  削除コメント確認方法
★阿修羅♪ http://www.asyura2.com/  since 1995
 題名には必ず「阿修羅さんへ」と記述してください。
掲示板,MLを含むこのサイトすべての
一切の引用、転載、リンクを許可いたします。確認メールは不要です。
引用元リンクを表示してください。