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金市場で久々のまとまった下げが見られた。
6月5日のNY市場は、322.1jと前日比6.70j安で取引を終えた。
前回、金鉱株の上昇ピッチの速さや金本体の騰勢からみて「“休み”が必要だろう」としたのだが、ならばこの下げをもって“休み”なのかというと、判断は微妙である。というのも、日本時間の本日早朝に終わった同じくNY市場6日の取引では、前日比3.70j高の325.80jと急反騰し、節目の25jをも上回る結果となっているからだ。
やはり根強い「押し目買い(価格の下げ局面で買い注文を入れる投資行動)」が見られるのである。
強いていえば、「“急ピッチの調整”を入れた」、というところか。
ホット・マネー(投機的資金)の動向を把握しやすいのがNY市場の特徴だが、急落した5日の出来高は70,427ロット(1ロット=100オンス、約3.1`)と活況(「大商い」)だった。少し専門的な話になるが、このところのNY市場を見るにあたり注目しているのが、「取組」と呼ばれる「未決済取引」の規模と推移である。NY市場(コメックス)は先物取引の中心市場であるが、「買い」あるいは「売り」の取引は、あらかじめ決められた期限までに取引を終了しなければならない。もちろん期間満了を待たず、いつでも取引を終える(手仕舞い)ことはできる。一般的に「買っていた」ものは売り、「売っていた」ものは買戻すという反対売買で決済される。その決済をされず取引継続中のものを「未決済玉(未決済取引)」といい、その状況を「取組」と呼ぶわけだ。
さて、その取組だが、5日の取引で5,108ロット減り約17万6,891ロットとなっている。結論からいうと、出来高が7万ロット以上あったにもかかわらず、取組が5,108ロットしか減っていないのである。この日は6jを越える急落であるから売りの方が優っていたのは言うまでもないが、ポイントは、かなりの規模の新規買いが入っていると思われることだ。おまけに前回も取りあげたように、ファンドは直近でも41,323ロット(重量換算129d)もの大幅買い越し状態にあることを踏まえると、金市場への関心が続いている強気のシグナルと映るのである。これが前回「回転が効いている」と表現した金市場の現状である。
さて、6日の取引で金価格急反騰の背景のひとつが、NY株式の急落だった。米国内でテロの再発懸念が指摘されたり、企業業績になかなか明るさが見えてこないことが引き続き影を落としている。再三繰り返すように当欄では、米国経済の継続的な回復は疑問とし、今春、楽観論が渦巻くなかで「(楽観論の広がりには)戸惑いがある(3月14日配信号)」とした。その後、時間の経過とともに、やはり企業部門は各社証券アナリストが予測したほどには回復を示さないことが明らかになってきた。本日の株式市場急落のきっかけとなった半導体大手インテルの売上予想大幅下方修正も、多くの株式市場関係者に意外性をもって受け入れられ、ハイテクを中心とするナスダック総合指数はついに1554.88と年初来の低水準に沈んでいる。ダウも9624.64j、より広範囲の銘柄をカバーするS&P500種は1029.15と、こちらは(少し目を離したすきに)テロ発生直後、昨年9月27日以来の低水準となっている。
NY株変調の影響は、“儲からない米国株”という認識の広まりにつながり、結局、国際的なマネーフローつまりはドル相場の問題へと転化している。このなかでユーロは、対ドルで16ヵ月ぶりの高値水準まで買われた。すでに一部で米国内投資家の米国市場離れ(他国市場への投資)が指摘されているので、それも無理からぬところか。「強いドル」から「強すぎるドル」へとの振れた「振り子」が、逆方向に動いているわけで、この流れは当面続きそうである。
ところで、多くの読者がお気付きのように、低迷するNY株式市場とは裏腹に、このところ発表されている米国の各種経済データは明るさを示すものが多い。今週も製造業景気指数や非製造業景気指数(つまりサービス産業の指数)など明るい数字が並んでいたし、足元では先週の失業保険申請者数は11週ぶりにボーダーとなる40万人を割り込み、13ヵ月ぶりの低水準となっている。これなど雇用環境の改善を示しているわけで、景気は着実に回復しているというわけだ。
ならば、なぜ株式市場は低迷するのか?
答えは、この回復はすでに織り込まれている、否、これ以上の回復を前提とした個別銘柄の分析および推奨が行なわれていた、ということである。それが、足元で“現状への摺り寄せ”ともいえる“投資格付けの引き下げ”につながっている(それでまた株が売られる)。株式投資とは、将来価値への投資であるので、こうしたことは、いわば“いつものこと”ではある。
目を他に転ずると、エンロン社類似の会計疑惑の追及が本格化し、こうしたことも株式市場のセンチメントを暗くしている(エネルギーのタイコ・インターナショナルなど)。中東情勢もまたまた、再燃気味である。国際緊張という側面では、米国がインド・パキスタンの調停に本格的に乗り出した。今週からアーミテージ国務副長官、ラムズフェルド国防長官とあいつぎ当事国を訪問し、調停に乗り出したが、その結果や如何に。先にパレスチナ・イスラエルでは、パウエル国務長官の働きかけが不発に終わっており、今回も仮にうまく行かないとなると・・・・・・・そう、まわり、まわって、結局ドルの問題となり金が買われることになりそうであ
る。問われているのは、米国への信認である。
(6月7日記)
金融・貴金属アナリスト
亀井幸一郎