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「トリプルB(BBB)」。比較的に格付けの低い企業の起債が減っている。その一方で、機関投資家は銘柄を選別したうえでだが、BBB格企業への投資意欲を盛り返している。今年度、社債の大量償還を迎え、相対的に社債市場へのアクセスが難しいと言われるBBB格以下の企業はどのように償還資金を調達するのか。市場が大きな関心を寄せている。
ヒステレシス症候群
SB市場の「需給の不均衡」や社債の償還問題を検証していくと、日本の金融システムに巣くう“歪んだ構造”が浮かび上がってくる。資金需要はあるのに市場からの調達が難しい企業群。安全性に配慮しつつも、新たな投資先の開拓を図りたい企業群――。
金融システムに歪みがあるゆえになかなかそのギャップは埋まらない。間接金融から直接金融へ。時代の流れととともに、幾たび、このキャッチフレーズが叫ばれてきたことか。実はいま、時代の流れに逆行する動きが鮮明となっている。
現代の経済学では経済制度を国際的な比較の観点から分析する「制度の経済学(比較制度分析)」が大きな注目を集めている。そこでは、経済システムには慣性の法則が働き、変革を束縛する可能性があることを指摘している。物理学の用語を用いて、「履歴現象(ヒステレシス)」と呼ばれる。
特に、日本の金融制度には、歴史的・文化的に「長期的契約」、「しがらみ」が多く、欧米のようなドライな関係にはなりにくい、ということが言われている。公共セクターでも、いわゆる「暗黙の政府保証」という、実に日本らしい言葉がよく引用される。
BBB企業の起債は大幅減
今年に入ってから5月31日までに、起債されたBBB格企業の社債は、日産自動車(860億円)、住友不動産(480億円)、大成建設(100億円)など4銘柄で、発行総額は1740億円。前年の同時期は13銘柄、発行総額2780億円だった。発行額では約37%減と大幅な減少となった。5月23日に起債された大成建設債は、機関投資家向けのBBB格としては、昨年11月に募集された東亜合成債以来で、半年ぶりのこと。
2001年度下期は、マイカルの経営破たんに端を発する信用リスク不安で、生命保険などの大手機関投資家には「シングルA」や「BBB」といった比較的に低格付け銘柄を敬遠する動きがみられ、これがBBB格企業の起債が減った一因となった。
しかし、そうした傾向が行き過ぎた面も強く、「今年度は落ち着いた目で眺め、売られ過ぎた銘柄を拾っていく」(住友生命・三勢光俊運用企画部長)との声も出始めている。
三井住友海上アセットマネジメント・債券運用部の桝屋博チーフ・ポートフォリオマネージャーも、「格付けがBBB−以上であれば、投資対象と考える。あとは、独自にクレジットを判断して投資してゆく。BBB格については、スプレッドが乗っているという点で注目に値する。また、現在、財務リストラを行っている企業が非常に多く、社債投資の環境という観点からは、ポジティブの影響がある」 と語った。決して、格付けだけに頼るのではなく、銘柄を選別して投資対象を行っていく姿勢がみられる。
需要が供給を上回る
T&D太陽大同投資顧問の沖田芳弘ポートフォリオマネージャー兼シニア・クレジットアナリストも「低格付けを付与されている銘柄のなかにも、評価以上のキャッシュフローの生成能力がある企業もある」として、キャッシュフロー創出能力や財務の柔軟性を考えたうえでのBBB格銘柄への投資は十分に考えられるという。
また、格付け会社のスタンダード・アンド・プアーズ(S&P)も5月末に発表したリポートのなかで、低格付け債への投資機運が活発になっている背景として、「投資に見合ったリターンさえ期待できれば、格付けのやや低い企業の社債でも消化するという市場の意志の表われ」と指摘している。
つまり、BBB格程度の社債に対しては、明らかに需要が供給を上回る状態にあることが分かる。このギャップを埋めるものとして、生命保険などが最近、社債やローンなどをリパッケージして、信用リスクを分散させる投資効果を持つクレジット・デリバティブの一種、債務担保証券(CDO)への投資を増やし、CDO市場の急拡大に一役買っている状況だ。
社債より有利な銀行融資
それでは、格付けがBBB格程度の企業は、どのようにして資金調達するのだろうか? 実は「銀行や生保からの融資」である。
大手金融機関で融資関連業務の経験のあるモルガン・スタンレー証券の大橋英敏クレジット・ストラテジストは、「融資の条件は、社債のスプレッドよりも総じてタイト(縮小)」という。
社債市場の発行条件は、電力会社の10年物で、国債利回り+0.09%程度、AA格程度の5年物で、国債利回り+0.10%程度だが、企業は、銀行や生保からの融資で、社債よりもはるかに有利な条件で、資金調達できるというのが現状だ。
このような状況では、企業は、どっと銀行融資に走り、社債市場は空洞化しかねない懸念がある。「昨年後半以降、社債市場での調達が不可能となった中・低格付け企業の大半は、ローンでの調達を積極化しており、最近もこの傾向は続いている」(モルガン・大橋アナリスト)という。
間接金融の功罪
戦後、焼け野原から極めて短い期間で立ち直り、経済大国となった日本。そのなかで、群を抜く貯蓄率で蓄えた資金を産業資金に振り分ける機能を間接金融は果たしてきた。
企業はその資金を設備投資などに使い、順調に事業を拡大・発展させることができた。この意味で、日本の間接金融システムは大きな成功を収めたと言っていいだろう。
貸出金利も、企業と銀行の長期・総合的な取引関係で決まり、企業の信用リスクを適正に反映したものとは程遠く、市場実勢よりも低く抑えられてきた。さらにデフレのいま、ゼロ金利政策が続いていることで、この低水準の貸出しに、一段と拍車が掛かっている。
しかし、長い間、国が一元的に管理してきた財政や金融などにも市場原理が求められるようになっている。不良債権問題の処理で体力を消耗した金融機関はいまや、産業金融の制度を支える公的な機能よりも、利潤を追求する「一企業」への脱皮が求められている。
理想と現実のかい離
そして、90年代以降、拡大してきた直接金融の動きとあいまって、日本の金融・資本市場には「合理的な整合性」が求められている。だが、実態はどうか。理想と現実はしばしば大きなかい離をみせる。
特に制度転換の過渡期はなおさらだ。日本は未だに間接金融が比較優位を維持しており、そのために、社債の発行金利と銀行ローンとの間に「金利裁定」がほとんど働かない。つまり、直接金融と間接金融が分断されていて、間接金融と直接金融が相互補完的に存在する金融システムがうまく機能しなくなっているというのだ。
そのうえ、リスク認識があまりにあいまいで、信用リスクに見合った合理的な行動が、金融・資本市場で取られていないという旧態依然の日本的な金融システムの未熟性が未だ残っているともいえる。大橋アナリストは「こんなことを続けていていいのだろうか。これでは、社債市場の効率性は達成できない」と問い掛ける。
新たな動きも
しかし、変化の胎動もみられる。銀行の融資姿勢にようやく変化の兆しが少しながら出始めている。三井住友銀行は、4月から企業の信用力を反映させた貸出金利の適用を開始。UFJ銀行も新年度から、取引先の行内格付けを交渉の場で提示しながら貸出金利を引き上げようと動き出した。
不良債権で体力を落とした銀行は収益力を補うためにも収益力強化策の一つとして、貸出金利、スプレッド拡大を大きな課題としていることが背景となっている。
S&Pもリポートのなかで、「貸し手と借り手の関係の位置付けが従来の『関係重視』型から、次第にリスクを基盤としたものへと移行しつつある」と指摘した。しかし、この変革は「本物」なのだろうか――。{5日配信予定の(下)では日本の金融システムに胎動した試みを検証します}
【信用リスク再考】のバックナンバーは以下の通りです。
1)「鎮」と「煽」の相克―定めなき日本の変貌(1月7日)
2)民鉄も破たん時代―信用不安と金余りの矛盾(1月8日)
3)信用不安の兆候「読み取れる」− 野村・土屋氏(1月9日)
4)鉄とデリバティブ―最先端の“奇妙な関係”(1月10日)
5)今、そこにある危機‐株価50円割れの信用力(1月11日)
6)問われる負債削減スピード−ゼネコン信用力(1月18日)
7)「空爆基地があれば」−一体化する安保と金融(1月22日)
8)落ちたブランド―雪印、一夜で信用力を失墜(2月5日)
9)ダブル・スタンダード−銀行信用力はいずこに(2月14日)
10)市場論理も文化の所産‐社会学的な視点も必要(2月25日)
11)国債と外貨建て債の「逆転現象」 はなぜ?(3月4日)
12)「常識」か「非常識」か−雪印と投資家保護(3月20日)
13)ザ・トヨタ−恐るべき金融力、個人債で攻勢(3月25日)
14)担保の有無は絶対ではない−JR3社の試み(3月26日)
15) 外圧と変革、消えた保護の概念―無担保への道(4月1日)
16) 国破れて山河あり―消えるこの国のかたち(4月24日)
17)アルゼンチンの教訓−サムライ債の行方(4月26日)
18)親と子の逆転−ドコモはNTTを超えるか?(5月21日)
このシリーズは、原則として週1回となります。