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【政局の焦点】
●軽率のそしり免れない福田長官
政局は、政府首脳と福田康夫官房長官(ちなみに同一人物)が「非核3原則」の将来的見直しに言及したことが予想外に大きな波紋を呼んでいる。日本の核武装の可能性については、以前も触れたように「理論的可能性」までわざわざ否定する必要はない。現在、政府が「国是」としている非核3原則も福田長官が言うように、憲法が改正されるような事態になればどうなるか分からないのは自明のことだ。しかし、政府は「現実的な政治選択」によって同原則の堅持を繰り返し強調しているのであって、小泉純一郎首相も出張先の韓国で述べたように、同内閣がこの原則変更の検討をしていることなどないし、近い将来もないだろう。
しかるに福田長官、あるいはこれに先立って安倍晋三官房副長官が早稲田大学での講演で、機微に触れるこの問題になぜわざわざ言及したのか。結論を言えば、この2人はその影響など考えていなかったとしか思えない。有事関連法案が成立か継続かで与野党間で微妙な駆け引きが続いているこの時期に、いわずもがなのことを言えば、野党は当然もろ手を挙げてその責任を追及してくる。また自民党の中にも日頃、地道な国会対策に汗をかこうとしない福田、安倍の正副官房長官コンビを心よく思っていない多くの議員がいる。さらに、わずか当選4回生にしか過ぎない福田氏が重要閣僚である官房長官を続けていることへのジェラシーもあろう。そういうことをすべて飲み込んだ上で、首相の「女房役」たる官房長官は務めなけらばならないポストである。その点、福田長官の今回の言動は軽率のそしりを免れないだろう。
●有事法案は継続審議も無理か
今回の福田発言が重要なのは、19日の通常国会の会期末を目前に控え、有事関連法案をはじめ、郵政関連法案、健康保険法改正案、個人情報保護法案などの重要法案がいまだに1本も衆院を通過していないのみならず、40日程度延長してもこれらの重要法案がすべて成立することは極めて困難な状況にあることだ。2週間前に既にこのことに詳しく触れているが、今回の福田発言で有事関連法案の成立は最早絶望的になったとさえ言えよう。場合によっては次期国会への継続審議も断念し、法案提出を一からやり直さなければならない事態も考えられる。ことほど左様に重要閣僚の発言は重い。
また、ある自民党幹部は「緊張感が欠けること甚だしい」と、福田発言を厳しく非難するとともに、周辺には福田長官の進退にも言及し始めている模様だ。そうなれば小泉首相にとっては、盟友の山崎拓幹事長に続き福田長官と、政府・自民党の要の2人が与野党から更迭要求の対象とされるという厳しい状況に追い込まれることになる。
●首相を支える人間が誰もいない
首相の最側近の閣僚からこのような軽はずみな発言が出てくること自体、小泉政権がもはや「政権末期」にあると言ってもいいのかも知れない。小泉首相は5月30日、自民党の若手議員らに「郵政関連法案と健保改正案を最優先」とする方針を明らかにした。そもそもこんな時期に重要法案の優先順位を示すことは首相自身も軽率と言わざるを得ない。これに輪をかけて問題なのは、首相が「郵政民営化に政治生命を賭ける」ことを言明しているにもかかわらず、ほとんど誰一人として、「それじゃ私も一緒に命を賭けましょう」と、首相を支える人間が見当たらないことだ。重要法案の審議が進まないことについて首相周辺は「山崎幹事長が司令塔の役割を果たしていない」と非難し、その批判している首相官邸の中は互いに角突き合わせるばかりでバラバラらしい。
小泉首相は構造改革を政権の一枚看板に掲げ、これに抵抗する者があれば「私が自民党をぶっ壊す」と繰り返し言明してきた。しかし、内閣支持率の急落とともにその神通力も薄れ、首相の「脅し」に屈する者がいなくなった。その上、今回の発言である。これが政権末期症状と言わずして一体何であろうか。
●今、解散で民意問えば、自民党惨敗
そこで、にわかに現実味を帯びてくるのが「郵政法案が廃案なら解散」という首相の発言である。小泉首相はことあるごとに「郵政民営化は構造改革の本丸」「郵政関連法案は民営化の一里塚」などと強調してきた。確かに首相が言うことは正しい。250兆円を超す郵便貯金に加え郵便局で取り扱っている簡易保険が第2の国家予算ともいうべき膨大な財政投融資資金となり、その多くが公社、公団、事業団などの特殊法人に流れ込んでいる。そこで役人がぬくぬくと第2の人生を送りながら、効率性など最初から無視した愚にもつかない「仕事」をせっせと作り出しているのである。その根源たる郵便局をまず民営化しなければという小泉首相の考えは全く正しい。
ただしモノには順序がある。また国民が果たしてこの問題をどれだけ理解し、支持してくれているかという根源的な大問題もある。つまり首相がいくら「郵政民営化」で民意を問いたいと衆院解散しても、恐らく国民の大部分はこの問題をきちんと理解していないだろうし、賛同もしないだろう。つまり今選挙すれば自民党をはじめ与党3党は間違いなく敗北する。小泉首相がもし「それでも構わない。俺は最初から自民党をぶっ壊すと言っていたはず」というのなら、それもやむを得ないかも知れない。しかし、それなら衆院を解散する前に新党を作るか、あるいは自分の考えに従わない者はすべて党除名にして選挙に臨むべきである。政党政治とはそういうものだ。それでも小泉氏に付いていく者がどれだけいるかは甚だ疑問なのだが。
●田中前外相の処分が当面の焦点
国民が今求めているのは一つには景気回復であり、もう一つは政治の信頼回復などの「分かりやすい政治」であろう。特に、政治の信頼回復については、田中真紀子前外相の元公設秘書の給与流用疑惑に対する自民党の処分が当面の大きな焦点となる。秘書給与の詐取あるいは流用問題については今国会で既に社民党の辻元清美前政審会長が議員辞職し、それ以前にも自民、民主両党議員が同様の容疑で逮捕、実刑判決を受けたり、自殺したりしている。田中氏については、公設秘書の給与をいったん自ら実質的オーナーを務める会社に入れさせ、この後秘書に環流するという一層悪質な手口であり、当然のことながら検察も重大な関心を持っている。自民党が仮に田中氏だけを特別扱いし、なおざりな処分をすれば間違いなく国民から手痛いしっぺ返しを受けるだろう。
小泉政権はまず「分かりやすい政治」から出発したはずである。改革の推進が重要なことは言を待たないが、やはり分かりやすい、できるところから手を着けるべきである。自分の考えが通らないから即「衆院解散だ」ではまるで駄々っ子であり、決して国民の共感を得られないだろう。
(政治アナリスト 北 光一)