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<サリドマイド>医師の個人輸入が急増 求められるルールづくり 投稿者 えーてる 日時 2002 年 11 月 04 日 13:40:31:

 薬害被害者は「悪魔の薬」と指摘し、がん患者は「唯一の希望」と訴える鎮静・催眠剤サリドマイド。1950〜60年代に世界的な薬害を引き起こし、国内では62年に医薬品の承認が取り消されたが、90年代に入って骨髄腫などへの効果を認める報告が出るようになり、医師による個人輸入が急増している。こうした“ルールなき復活”について「薬害が繰り返されても責任を負うのは医師」との姿勢だった厚生労働省も、ようやく実態調査に乗り出した。早急なルール作りが必要だ。 【須山勉】

 ◆風化する薬害

 サリドマイド被害者の福祉財団「いしずえ」事務局長、間宮清さん(39)は5月、テレビ番組を見て、衝撃を受けた。

 がん闘病中の患者。手には、服用しているという薬の瓶。100錠はあろうかというサリドマイドが詰まっていた。

 「必要量だけを医師が渡すのでなく、患者の自己管理に任せていた。瓶が流出し、新たな被害が出たら、どうするのか」

 自らも両腕が短いなどの障害を持つ間宮さんは9月25日、厚労省に対し「サリドマイド法」を制定し、麻薬並みの規制をするよう要望した。しかし、同省医薬局の説明に、また驚いた。

 国内の医師が昨年度個人輸入したサリドマイドは計15万6600錠で、97%が英国、メキシコからという説明だった。しかし、海外の承認状況や国内の使用実態を尋ねても「分かりません」との答えが繰り返された。

 74年10月。サリドマイド被害者と旧厚生省、製薬会社との間で交わされた和解確認書には「厚生大臣は(中略)サリドマイド事件にみられるごとき悲惨な薬害が再び生じないよう最善の努力をする」と明記された。それから丸28年。間宮さんは風化を痛感している。

 ◆唯一の希望

 サリドマイドの服用を続けている埼玉県の男性(54)は「抗がん剤を使っていた時より、体のしんどさが全然違うんです」と語る。

 98年8月に多発性骨髄腫と診断されたこの男性は、抗がん剤の投与を受けていたが、けん怠感などの副作用に悩まされ、効果は思わしくなかった。しかし、2年余り前から「日本骨髄腫患者の会」(事務局・東京)を通じて入手したサリドマイドを飲み始めると、骨髄腫細胞が出す異常たんぱくが95%減ったという。「大きな被害を出した薬であることは知っていますが、私たちには唯一の希望なんです」

 サリドマイドは国内では未承認の医薬品だが、薬事法は研究や治療目的であれば、医師の個人輸入まで規制していない。

 患者の会がボランティアで輸入代行を始めたのは00年。骨髄腫に効果があるという海外の臨床研究を知ったのがきっかけだった。抗がん剤が効かない患者などに限定しているが、今年の輸入量は9月までで6万6700錠に上り、既に昨年の同会の輸入量を上回っている。購入先のメキシコの製薬会社の在庫切れで、数週間供給がストップしたこともあったという。

 約500人の会員からは医薬品の承認を求める声が上がっているが、薬害を起こしたサリドマイドを治験し、厚労省に承認申請をする製薬会社はない。同会は10月28日、同省に承認を求める要望書を提出した。事務局の大久保幾久美さんは「未承認のまま流通している現状は危険が大きい。安全面からも国の管理下で使えるようにしてほしい」と訴えている。

 ◆研究班設置を検討

 サリドマイドは現在、米国やブラジルでハンセン病治療薬として承認されている。骨髄腫治療薬としては欧米で臨床試験目的に限った販売が認められているが、正式に承認している国はない。

 1回の服用でも被害児を生む可能性があるため、米国では薬局、使用医師の登録や投与量、注意事項を厳格に定めた使用マニュアルが運用されている。一方、日本は完全な医師任せで登録制度もない。各地でまちまちに使われ、臨床データもなかなか集まらない。

 実態調査を始めた厚労省医薬局安全対策課には現在、いしずえや骨髄腫患者の会など3団体から要望が寄せられている。いずれも国の規制が必要との点は一致しているが、その内容をめぐっては被害者と服用者との間にまだ隔たりがあるようだ。黒川達夫課長は「専門家による研究班の設置も検討中で、もう少し時間を頂きたい」と話している。

 ◆サリドマイド問題

 旧西ドイツの製薬会社が開発した鎮静・催眠剤「サリドマイド」を服用した妊婦から、手足が短いなどの障害を持つ子が生まれた世界的な薬害事件。57年から約50カ国で販売され、数千人のサリドマイド児が生まれたとされる。61年11月に西ドイツの医師の警告で各国が販売を中止したが、日本では62年9月まで販売が続けられ、計309人の認定患者を出した。死産などを含めると、被害は1000人を超えたとの推測もある。被害者は国と製薬会社を相手取って損害賠償訴訟を起こし、74年10月に和解した。

 多発性骨髄腫への効果を示す臨床データは、国内外で報告されている。

 慶応大病院の服部豊医師(血液内科)らの研究では、サリドマイドを投与した多発性骨髄腫の患者33人のうち、11人は骨髄腫細胞が出す異常たんぱく質が25%以上減り、うち8人は50%以上の減少が認められた。詳しいメカニズムは不明だが、腫瘍(しゅよう)へ直接働きかける作用を持つほか、腫瘍に栄養を送る血管にダメージを与えたり、骨髄腫細胞の増殖因子を抑える働きがあると考えられている。

 ただ、服部医師は「白血球が減少する骨髄抑制や血栓症、神経障害などの副作用に十分気をつける必要がある。医師は患者の臨床症状をよく見ながら、投与することが必要だ」と指摘している。

  ◇サリドマイドをめぐる動き◇

1957年10月 旧西ドイツの製薬メーカーがサリドマイドの販売開始

 58年1月 国内でサリドマイド販売開始

 60年9月 米国の製薬メーカーがサリドマイドの販売許可を申請したが、米国食品       医薬品局はデータ不備を理由に認可せず

 61年11月 サリドマイドを服用した妊婦から障害を持つ胎児が生まれることが分        かり、西ドイツの製薬メーカーが回収決定

 62年9月 日本の製薬メーカーが回収決定

 63年6月 被害者が製薬メーカーに損害賠償を求めて名古屋地裁に提訴。全国に訴       訟広がる

 74年10月 全国サリドマイド訴訟統一原告団と国、製薬メーカーとの間で和解成        立

 98年7月 米国がハンセン病治療薬としてサリドマイドを承認

2000年1月 日本骨髄腫患者の会がサリドマイドの個人輸入を開始

 02年10月 厚生労働省がサリドマイド個人輸入の実態調査を始める(毎日新聞)
[11月4日2時2分更新]

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