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必読として推奨した『ニューズウィーク日本版10・16』のなかから「腰抜け批判を浴びるCIA」(P.28)を取り上げたい。
概略を引用すると、
「いったいどちらの主張を信じればいいのか。
一方は脅威を強調する人々。イラクのサダム・フセイン大統領を放置できない危険人物とみなす米ブッシュ政権の高官たちだ。
〈中略:高官たちとして名が上がっているのはチェイニー副大統領・ラムズフェルド国防長官・ライス大統領補佐官〉
もう一方は、そうした脅威に懐疑的な人々、危機はそれほど差し迫ったものではないと考えている情報当局者たちだ。
彼らは、アルカイダとフセインのつながりを示す証拠は、あったとしても信頼性が低いと主張。イラクによる核兵器の製造や購入が現実のものになるのは何年も先の話だという。
〈中略〉
テロとの戦いは、スパイが中心になって影を相手に戦うようなものだ。イラクとの間に戦争が始まれば、敵に関する正確な情報が何よりも重要になる。標的が国家ではなく、少数の個人と隠された兵器になると思われるからだ。
〈中略〉
大統領が自分の情報機関を信じないようでは、大変なことになる。
政権当局者によると、今もブッシュはジョージ・テネットCIA長官に一定の信頼をおいている(あるタカ派高官は「なぜ大統領がテネットを気に入っているのか、誰にも理解できない」と本誌に語った)
〈中略〉
情報当局内部だけでなく、ブッシュ政権高官と上々当局の間に深刻な対立があることは否めない。
〈中略〉
いまCIAの古株たちが恐れているのは、リスクの大きい秘密工作を行ったあげく、それが失敗することだ。
〈中略〉
問題が起きてメディアや議会が「犯人探し」を始めるころには、政権内のタカ派はウォール街の重役かロビイストになっているだろうと、情報当局者たちは言う。結局、責任を問われるのは情報当局というわけだ。
〈中略〉
だが他のCIA当局者らは、今は「リスクを回避するな」とせっついてくる上院議員が、秘密工作が失敗したときには「なぜリスクを回避しなかった?」と詰め寄るだろうと心配する。
〈中略〉
CIA長官を務めていた父ブッシュは、CIAのデータを「チームB」と呼ばれるタカ派に見せた。
〈中略〉
チームBには、現政権のラムズフェルド国防長官、ポール・ウォルフォウィッツ国防副長官、I・ルイス・リビー副大統領首席補佐官が名を連ねていた。
今でもタカ派は、CIAを信用していない。昨年秋のアフガニスタンにおける対タリバン戦では、特殊部隊とうまく連携を取った点を評価してはいる。だがCIAのイラクに対する姿勢は、消極的で誤ったものだと考えている。
〈中略〉
国防総省は慎重なCIAを避けて、国防総省情報局(DIA)を利用するようになった。通常はCIA工作員が担当する秘密工作を特殊部隊に行わせる可能性がある。
法律では、CIAが秘密工作を行うには大統領の「認定」が必要だが(この認定は議会に報告される)。だが、軍が特殊部隊を使って「戦闘準備」をする場合は、議会の許可は必要ない。
〈中略〉
グレアムら民主党議員は、頑固で腰が重いCIAにいらだっている。イラクの国力を分析し、戦争が中東に与える影響を評価させるだけでも、委員会は強硬な態度を示さなければならなかった。
〈中略〉
たとえばブッシュ政権に批判的な人々の間では、イラクを攻撃すれば、アルカイダとの戦いに悪影響を及ぼすという考えが一般的だ。アラブ諸国が怒ってビンラディン捜索への協力を拒むと、彼らはみている。
だが、ある情報当局高官はこの見方を否定する。アラブ諸国の指導者が表向きはどんな発言をしても、国内の治安維持機関はCIAとの協力態勢を維持するだろう。フセインを倒せば、そうした協力関係が強まる可能性があるという。
〈後略〉」
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まず、「ニューズウィーク」が現段階でイラクを巡るこのような政権内の対立を記事にしたのかという設問ができる。
これに対しては、これまでの記事内容や今週号の他の記事内容を踏まえ、「ニューズウィーク」はイラク攻撃を積極的には支持していないということができる。
より言えば、「ニューズウィーク」は、W.ブッシュ政権に対して好意的ではないし、ブッシュ政権タカ派に対してはなおさら好意的ではない。
そのような立場のメディアが発した情報であることをそれほど考慮する必要はないが、CIAがイラク攻撃に“慎重な”対応を求めるような報告をしているわけを考えてみたい。
CIAは、“国策”の立案・遂行に必要な情報収集活動と外交や軍事活動ではできない対外工作をまじめに行っている組織だと考えている。(反国民であるかも知れないが、反経済支配層ないし反国家ではないという意味)
CIAがフセイン政権の延命を図るために反政権的な報告を行うとは考えられない。
ブッシュ政権が対イラクに関して“国策”としているのは、「米国及び世界にとって脅威となっているフセイン政権を先制攻撃を行っても排除する」という政策である。
CIAは、その組織性格から、実態はどうであれイラクが脅威であるとの様々な“証拠”をあげつらうことで“国策”の正当性を世界中に納得させる活動を行い、攻撃が現実となったときにスムーズに目的が完遂できる準備を行うはずである。
CIAが攻撃に向けた準備工作を行っていることは確かだが、その正当性を世界に訴えるために重要なものであるイラク評価は、「そうした脅威に懐疑的な人々、危機はそれほど差し迫ったものではないと考えている情報当局者たちだ。彼らは、アルカイダとフセインのつながりを示す証拠は、あったとしても信頼性が低いと主張。イラクによる核兵器の製造や購入が現実のものになるのは何年も先の話だという」というものである。
端的に言えば、イラク攻撃が“国策”となる以前であればまっとうな報告であっても、イラク攻撃が“国策”となっている時点では反国家的な報告である。
(もっともらしく受け入れられるものであれば虚偽の証拠提示さえ行われてしかるべきである)
CIAがイラクの“低脅威”を報告するわけとして考えられるのは、
● イラク攻撃が想定されているような短期決戦や米軍側犠牲者数では終結しないという見通し(イラク攻撃が成功しないということも含意)
● イラク攻撃の背後にある未公表の“国策”が遂行できる準備ができていないという分析結果
の二つである。
記事のなかにも、「いまCIAの古株たちが恐れているのは、リスクの大きい秘密工作を行ったあげく、それが失敗することだ」とか、「問題が起きてメディアや議会が「犯人探し」を始めるころには、政権内のタカ派はウォール街の重役かロビイストになっているだろうと、情報当局者たちは言う。結局、責任を問われるのは情報当局というわけだ」とか、「他のCIA当局者らは、今は「リスクを回避するな」とせっついてくる上院議員が、秘密工作が失敗したときには「なぜリスクを回避しなかった?」と詰め寄るだろうと心配する」といったイラク攻撃の成り行きに対する危惧心の現れとも言える情報当局の発言が見られる。
とりわけ、「いまCIAの古株たちが恐れているのは、リスクの大きい秘密工作を行ったあげく、それが失敗することだ」という記事内容は示唆に富むものだろう。
これは、「イラク攻撃」が想定通りには遂行できないということにも、未公表の“国策”が遂行できる準備ができていないということにもつながる発言である。
私は、従来より、「イラク攻撃」はイスラム法国家を根絶するという中東地域の政治的大変更をめざす軍事作戦の突破口だと主張してきた。
イラクはバース党という非宗教的アラブ社会主義を基礎とした近代法国家である。
米国政権は、イラン−イラク戦争を通じてイラクを軍事大国として育成し、罠にはめたも同然のイラクのクウェート侵攻を契機に湾岸戦争を発令した。
イラクの脅威を理由に中東に軍事拠点を置くこともでき、イラクを「悪の権化」として世界に広く認知させるという用意周到さをもって、今次の本格的な中東軍事介入を準備してきた。
素朴に考えても、米国にとってイラクとイランのどちらが脅威であるかを考えれば、イスラム・シーア派宗教指導者が最高権力を掌握しヒズボラも支援しているイランということになるだろう。
(イランが反イスラエル闘争を支援しているからという名目でも敵とすることは困難である。どういうかたちであれ、パレスチナの反イスラエル闘争を支援しない統治者は中東では権力を維持できない。反イスラエル闘争を理由にすれば、中東全域を敵とせざるを得ない)
米英政権は、『イスラムは敵である。なぜなら、利息の取得を禁止し、個人よりも共同体の利益を重視しているからだ』とは口が裂けても言えない。
そのようなことを公言すれば、ムスリムだけでなく、敬虔なキリスト教徒・左翼・人道派などがこぞって非難の声を上げ、政権は崩壊することになるだろう。
(ユダヤ教や旧約聖書にも拠っているキスト教も利息取得は禁じている)
共産主義勢力は革命の世界化を一応めざし、実際にも外国への武力介入も行ったので、それを根拠にいくらでも脅威を煽ることができた。
しかし、イスラムは布教は行っても、イスラムを押し付けるために武力侵攻をしてきたわけではない。また、ムスリムは、イスラム法が施行されていない国家社会でも生活が可能である。
イスラムが敵だと名指しできないからこそ、イスラム過激派が9・11を実行したというストーリーが必要であり、イスラム過激派の犯行と称する各種のテロを通じてイスラムそのものが危険で異様な宗教だと見方を浸透させる必要があったのである。
「いまCIAの古株たちが恐れているのは、リスクの大きい秘密工作を行ったあげく、それが失敗することだ」という記事内容に戻ると、そのような発言から、中東情勢についていくつのことを推測できる。
[フセイン政権打倒が目的]
● フセイン政権の基盤が強固で防御態勢も頑強である
米軍が攻撃する段階になっても“反乱”が起きる芽はなく、警護隊も国軍も“合理的な”防戦を行うという分析である。
アジズ副首相も、「“市街戦”を辞さず」という発言をしている。
イラク政権が彼我の戦力差を認識し「遊撃戦態勢」を構築すれば、米軍が誇る現代兵器の威力はほぼ無効となり、都市と砂漠の“ベトナム化”になる。
これであれば、CIAが秘密工作として行ってきたであろうイラク国軍の分断やバース党の離反者育成がうまくいかなかったことを意味する。
● 国外反フセイン勢力の実力がほとんどない
国外にいる反フセイン勢力が分裂状態であったり、協調体制ができているとしても貧弱であれば、フセイン政権を倒しても、名目的にでもイラクを統治していくことができない。そうなれば、北部同盟がいたアフガニスタンとは違って、米軍の直接支配に近いものになる。
米軍の直接支配というかたちになれば、有志による「遊撃戦」が展開されるようになる可能性が高い。
● 国内反フセイン勢力を掌握できていない
国内の南部シーア派反フセイン勢力や北部クルド人反フセイン勢力も、巷間伝わっているほどの勢力ではなく、動けばすぐに潰されるもので米軍の軍事作戦に呼応した動きはできないという見方が一つ。
逆に、シーア派勢力やクルド人勢力については、フセイン政権だけが目標であるならば、イラク分断につながってしまう危険性があるという見方である。
国内反フセイン勢力が米国の意向に沿って動かないのであれば、米国の思惑と衝突することになる。
CIAの秘密工作は、この国内反フセイン勢力に対するものが重点的に行われてきたと推測する。
● フセイン大統領が実権を失っている
フセイン大統領“米英お仲間説”を唱えている者の妄想である。
CIAは、フセイン大統領が強硬に査察反対を主張して「イラク攻撃」に対する国連のお墨付きが出るよう工作してきたかも知れない。
そうであれば、米英だけではなく、仏・伊・独(・日)まで含めた連合軍が結成され、軍資金も幅広く集めることができる。
また、イラク軍が防御で正面戦を採ってくれれば、米国が誇る現代兵器の威力がフルに活かせ、短期でフセイン政権を敗北に追い込むことができる。
しかし、イラクは無条件で国連査察を受け入れると表明した。
これは、イラクの最高評議会でどのようなやり取りがあったかはわからないが、イラク政権で「イラクを合理的に防衛する」と考える勢力が多数派を占めていると推察できるものである。
フセイン大統領が従来通りの強硬姿勢を貫き、対イラク攻撃容認の国連決議が出て、派手な正規戦が展開されて早期に決着するというシナリオをCIAが追求していたのなら、あてが外れたことになる。
フセイン大統領が実権を失っていれば、「フセインの首」を取ってもイラク攻撃は終わらないことにもなる。それこそ、抵抗勢力を根こそぎ排撃しなければならなくなる。
[中東全域を対象とした“国策”であれば]
イラクに限定した考察がそのまま適用できるが、それらに加えて、
● 国内反フセイン勢力を掌握できていない
クルド人勢力がイランにも手出ししたり、シーア派勢力がサウジアラビアに手出しするような成り行きが必要であるが、そのような条件をつくり上げることができなかったことが考えられる。
この場合は、イラクに限定された軍事行動になってしまい、大局的な“国策”を遂行することはできない。
● 周辺諸国の実情
記事のなかに、「アラブ諸国の指導者が表向きはどんな発言をしても、国内の治安維持機関はCIAとの協力態勢を維持するだろう。フセインを倒せば、そうした協力関係が強まる可能性があるという」という情報当局者の発言がある。
これは、CIAがサウジアラビア・ヨルダン・トルコ・クウェート(・シリア・イラン)などの治安維持機関と緊密な関係を持っていることを示唆する。
そうであれば、周辺諸国が、「イラク攻撃」をどう認識しているか、「イラク攻撃」で波及してくる自国への影響をどう考えているかもわかっているはずである。
その分析結果が、周辺諸国は確固たる政権防衛態勢をとるということであれば、やはり、イラクに限定された軍事行動になってしまい、大局的な“国策”を遂行することはできない。
CIAがどのような見通しのもとで「イラクの脅威は差し迫ったものではない」という報告を出したのか、“戦後”でもいいから、CIA自身から是非とも聞きたいものである。