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ワイヤレス機器に革命をもたらす「ソフトウェア無線」技術の可能性
http://www.hotwired.co.jp/news/news/technology/story/20021113301.html
Paul Boutin
2002年11月11日 2:00am PT ポケベル、携帯電話、携帯情報端末(PDA)、GPS ……。こういった「携帯可能な」機器すべてを持ち歩くには助手が必要だという、なんとも皮肉な状況に近づきつつある。
でも心配無用。ワイヤレス機器の荷物の山を解消する特効薬がそう遠くない先に登場しそうだ。
特効薬とはつまり、「ソフトウェア無線」(SDR)――アナログの無線回路をデジタル生成された無線波形のサンプルに置き換える技術だ。
ワイヤレス産業の業界団体『SDRフォーラム』が主催する技術会議『SDR'02』が11日(米国時間)から始まる。開催地のサンディエゴにはワイヤレス機器メーカーが集まり、SDRのデモを行なう予定だ。SDR技術はさまざまなポータブル機器に対応する単一の基準を開発する際の鍵となる可能性がある。
現在のワイヤレス機器の送受信用電子部品は専用に設計されたものが組み込まれており、1つの用途にしか使えない。これに代えて、CPUチップ上でソフトウェアを動かすことにより、SDR開発者たちはワイヤレス通信の新たな可能性を解き放ちたいと考えている。
今から20年前、さまざまな作業に活用できるパソコンが単一用途に特化したコンピューターに取って代わったように、SDR機器が多様なワイヤレス機能を実現すれば、斬新なアイディアを持つ人々は、SDR機器向けの新たなアプリケーションを開発できるようになるだろう。
「1台の携帯電話で回線をつなぎ、『ブルートゥース』接続のヘッドセットで通話し、同時にGPS機能で自分の現在地をチェックする、といったことが可能になるかもしれない」と語るのは、SDRフォーラム運営委員会のマーク・カミングズ議長。
SDR技術を使わずにこれを実現させるとしたら、1台の携帯電話に異なる3つの無線通信回路を詰め込まなければならないだろう、とカミングズ議長は語る。
SDR技術研究の発端は1990年代だった。当時、米国防総省が着手した『スピークイージー』(SPEAKeasy)プロジェクトは、米軍の組織ごとにバラバラで互換性のない通信システムを結びつけられるような、携帯型無線通信機の開発を目指した。
それから10年を経て、モバイル端末の情報処理能力が向上した現在、携帯電話業界はもっと柔軟で携帯性に優れた電話システムを築きあげる手段として、SDRに注目するようになった。
マサチューセッツ州ケンブリッジの新興企業、バヌー社のバヌー・ボース最高経営責任者(CEO)は、「SDRは(電話機の)製造方法として、コスト効率の面ではるかに優れているので、ハードウェアの価格は下がりつづけるだろう」と語る。バヌー社は、業界向けにSDRソフトウェアの開発およびライセンス供与を行なっている。
バヌー社の最初の製品は、個人の携帯端末向けに設計されたものではなく、同時に何千というモバイル通信利用者が接続する基地局での利用を想定している。このソフトウェアは、通常のリナックス・サーバー上で稼動し、1ヵ所あたりの設置費用が10万ドル以上にもなる専用ハードウェアの代用となる。
「来年には実地試験を行なう見込みだ」とボースCEO。
SDRフォーラムのメンバーは、一般消費者向けのSDR電話機が登場するまでに少なくともあと1年はかかるだろうと予測する。製品化が遅れると見る根拠は、現時点で新しい電話機を機能させるには大きな処理能力が必要で、バッテリー容量の限られた携帯端末では力不足という点だ。
SDR'02の参加企業の1つ、米クイックシルバー・テクノロジー社のジョン・ワトソン副社長(マーケティング担当)によると、同社の新技術『アダプティブ・コンピューティング・マシーン』(ACM)は、1枚のチップのうち使用中の部分にのみ必要に応じて電力を供給する仕組みによって、この問題の解決を目指すものだという。
「(データ圧縮モジュールの)新技術でネットワーク上のどの電話とも通話でき、ネットワーク全体で処理できる通話量を20%増やせるだろう。利用者に古い電話機から新機種に買い換えさせなくても儲かるはずだ」とワトソン副社長は主張する。
ボースCEOや他の会議参加者によると、さらに重要なのは、ワイヤレス通信事業者が専用ハードウェアを購入することなく新たなプロトコルや機能を実験できるようになる点だという。
「開発者は現在、(新機種を市場に出す)2年前には電子回路の設計を済ませておく必要がある。確かなのは、2年後には時代遅れになっているということだけ。本音を言えば、製品を出す直前に設計したいところだ」とワトソン副社長。
もちろん、SDR技術の支持者たちが超えなければならないハードルはたくさん残っている。技術的な問題に加え、米連邦通信委員会(FCC)や欧州連合(EU)による規制の問題もある。
SDR機器のプログラムは工場出荷後に書き換えられるため、利用者が偶然または意図的に設定を変更する可能性があり、電磁波レベルが規制値を超えたり、他の無線信号に干渉したりする事態も考えられる。
FCCは、昨年のFCC裁定によりSDR電話機の承認に向けて道が開かれたが、有害な影響を及ぼしかねない設定変更を防止する手段については、なおも検討が続いていると述べた。
[日本語版:藤原聡美/高森郁哉]