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(回答先: 森ビル「元麻布ヒルズ」と建築家の死 投稿者 釜井@オリジナル 日時 2002 年 10 月 02 日 12:50:13)
上記内容に大きく関係する読売新聞上の評論を転載。
■建/築/季/評 2002年10月2日
消えた都市計画論議
規制緩和優先、雑然としたビル群
「計画」という概念そのものがどこかへ消えてしまったように見える。
現在、次々と高層ビルが現れつつある東京駅周辺、
赤坂〜六本木、汐留、品川駅前などの巨大再開発地域のことである。
建物のデザインは、それなりのレベルにあるだろう。
しかし、建物群を全体として捉える計画性が見事に欠落している。
そのために、再開発地区全体ではあまりにも雑然とした風景が形成されようとしている。
これには理由がある。こうした再開発の多くが国の定めた
「緊急整備地域」での事業であるからだ。
政府は、経済再生の柱として昨年五月に「都市再生部」を設置し、
民間主導の都市再開発を行う「緊急整備地域」を指定した。
そして、この地域での思い切った規制緩和を実現するために
「都市再生特別地区」を創設。
すごいのは、この特別地区に指定されると、いまある都市計画の規制の全てから
逃れることができることだ。そこで、バブル期にもありえなかったような、
巨大な規模での地区再開発が次々と実現しようとしている。
しかも「緊急整備地域」はほとんどが東京に限られている。
それが最も経済再生に効率がよいからである。
国土全体の「計画」もどこかに消えてしまっている。
もちろん、この経済再生に偏した開発手法に対してはすでに多くの批判もある。
オフィスビルの供給過剰、いわゆる2003年問題だけではない。
都市の将来的なビジョンや都市空間の歴史性・連続性への思想が
まったく欠落していることなど、本質的な疑問も指摘されてきた。
それでもなお、こうした事業に正面きって反対しにくい気分があるのは、
規制緩和というスローガンがあるためであろう。
民間主導のために思い切った規制緩和を実現。
まさに小泉改革の路線である。しかし、公共空間の創出をともなう
都市開発では、こうした規制緩和によって失うものは
あまりにも大きいのではないか。
今年の建築学会の大会は八月に金沢市で開催された。
その中のシンポジウムで、金沢市の担当者から、
東京の再開発とは全く逆の意味で興味深い話を聞くことができた。
同市では、
無原則なマンション建設に対処するために住民が市長と契約を結ぶ
というユニークな「まちづくり条例」を作ったり、
数軒でも古い民家が残っていれば、それを核にしてまちづくりを推進できる
「小街なみ条例」を制定したりと、次々と独創的なまちづくり行政を展開している。
しかし、これらの条例は都市計画法や地方自治法などの上位法に抵触する恐れがある。
その指摘に担当者は「地方の時代なのですから」とこともなげに答えた。
ここでは、都市の「計画」を実現するため、国による画一的な規制から逃れようとしている。
こうした手法を認める規制緩和もありえるはずだ。
確かに現在、「計画」概念は、経済学の中でほとんど否定される対象となっている。
経済再生が急務であるならばなおさらだろう。
しかし、建築や都市を考える場合には、計画の根拠となる公共性を考えないわけにはいかない。
われわれは、経済再生と同時に、都市の生活環境の再生も、
真剣に考えるべき時に来ていると思うのだ。
(京都工芸繊維大学助教授・建築史)
なかがわおさむ
中川・理