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2002年10月2日 株式市場再生のために 個人投資家の吸引を図れ
本間俊典(編集委員)
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株価の下落が著しい。東証の日経平均株価は9月4日に9000円台を割り込んでバブル後の最安値を更新して以来、9000円ラインをさまよっている。いつものように「9月危機」説が広がり、日銀が銀行保有株の買い取りを発表するなど、対策に追われた。しかし、やはり一時しのぎに過ぎない。見方を変えることが重要だ。今こそ株式市場再生の絶好機であり、そのカギは個人投資家にある。
私は、最近の株価がようやく適正水準になったとみる。代表的な株価指標を見れば、その理由がわかると思う。
最近、東証1部の上場企業の平均利回りは1・28%、PER(株価収益率)は30倍ほどだ。企業の1株あたり配当金を株価で割った数字が利回りで、PERは株価を1株あたり利益額で割った数字だ。
言い換えると、配当が多いほど利回りは高くなり、PERが低いほど株価は割安という意味になる。ちなみに、最近のニューヨークダウ平均の利回りとPERは2・2%、23倍ほど。バブル期の東証は0・5%、70倍ぐらいだったから、利益との関係でみれば、日本の株価もやっと米国並みの水準になったわけだ。
こうした指標に注目するのも、日本の株価は長年、利回りを無視した著しくバランスを欠く超高値に固定されてきたからだ。その結果、預貯金や債券などの利回りと比べて株式投資する、まともな投資家がいなくなった。
ところが、この価格構造が崩れてきた。バブル崩壊以降、日本の株式市場が12年以上の長期低迷を続けているのは、不況の長期化とともに金融機関を中心にした株式の相互持ち合い関係が崩れている点が大きい。
いわゆる「持ち合いの解消売り」という現象で、金融機関などが大量保有していた株式を売りに出すものの、それを買い支える受け皿がないという、需給関係の悪化が背景にある。株価が上がるはずはない。
そこで政府や市場関係者が熱い視線を向けているのが、企業に代わる個人投資家だが、個人マネーは元本保証志向が極めて強く、簡単には動かない。
日本の個人の金融資産は約1411兆円(6月現在)で、その55%が預貯金だ。私は、証券関係者が「その1割の140兆円でも流れ込めば、市場は活性化するのだが」と恨めしそうに話すのを何度も聞いた。しかし、長年、相手にされなかった個人投資家が、預貯金から株式に資金移動するには、よほどのインセンティブが必要になる。
まず、上場企業は配当利回りが預貯金の金利を常に上回る水準になるよう、配当金を設定すべきだ。長期保有を考える投資家なら、目に見える金利収入がないと株式など買わない。「株価を上げれば、実質的な利回り上昇になる」という理屈はもう通用しない。配当を増やさないと、株価は上がらないのだ。
次に、証券業界は株式投資の利回り感覚を復活させ、投資家に配当利回りの高い銘柄を勧め、「値上がり確実」といったセールスをやめるべきだ。業界は長年にわたり、キャピタルゲイン(売買益)を狙う、短期売買専門の特殊な個人投資家しか相手にしなかった。バブル期のNTT株騒動を思い出せばわかることだが、売買益しか話題にならない市場が容易に投機化するのは歴史の教えるところだ。
政府は税制面で株式や投資信託の配当収入に対する税率を大幅に下げ、重宝な源泉分離方式の存続を検討すべきだ。来年から実施予定の新証券税制は複雑すぎるうえ、売買益の優遇しか念頭になく、長期保有の投資家を増やす効果はない。
政府の最も重要な仕事は、元気な企業を育てるインフラ整備に尽きる。金融機関の不良債権処理は、ダメな企業に退場してもらう、前段に過ぎないのに、ここまで先送りしてきた。だから市場の疑心暗鬼が抜けず、株価も上がらない。
政府・日銀はもう株価対策にかかわるべきではないと思う。株価は経済の「体温」を表す体温計であり、株価対策は体温計の表面を指でこするようなものだ。一時的には上がるが、すぐに下がる。これを何度繰り返してきたことか。きちんと配当ができ、収益力ある企業が増えれば、株価は放っておいても上がる。
これらの対策を通じて、株価がこれ以上は下がらないという底値感が広がれば、保守的な個人マネーもそろそろと動き出すだろう。株価が個人投資家の手の届く水準になった今こそ、そのチャンスだと思う。
メールアドレス kishanome@mbx.mainichi.co.jp
(毎日新聞2002年10月2日東京朝刊から)
http://www.mainichi.co.jp/eye/kishanome/200210/02.html